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特集『Bird 100: チャーリー・パーカー』カンザス・シティの人と音楽 竹村洋子No. 269

#57 チャーリー・パーカー生誕100年祭:カンザスシティ 2020年

text by Yoko Takemura, 竹村洋子
photos: courtesy of Chuck Haddix, David Basse, Elvis Achelpohl, Marissa Baum at American Jazz Museum, Christopher Burnett, Mutual Musicians Foundation

この夏、おそらく世界中のジャズ関係者が、ジャズ界の巨匠『チャーリー“バード”パーカー』の生誕100年に何らかの形で関わり祝っただろう。
カンザスシティも『チャーリー“バード”パーカー生誕100年祭』は例年以上に大いに盛り上がるはずだった。何と言ってもカンザスシティはパーカーが生まれ育ち、生涯の半分以上を過ごした街なのだから。
が、周知の通り、COVID-19のパンデミックにより、アメリカの感染拡大はこの夏、悪化の一途を辿り、公のイベントはほぼキャンセルか規模を縮小せざるを得ない状況になった。

カンザスシティは、『チャーリー“バード”パーカー生誕100年祭』を、小規模であっても街全体で8月19日~29日に行う事とし、KC Jazz ALIVE 、ミズーリ大学カンザスシティ校(UMKC)、アメリカン・ジャズ・ミュージアム、ネルソン・アトキンス・ミュージアム・オブアート、ミュチュアル・ミュージシャンズ・ファウンデーション、その他ジャズクラブや文化団体が、ジャムセッション、ツアー、講演、展示、パネルディスカッション、ワークショップ、コンサートを主催した。以下、何人かの現地から届いたセレブレーションの様子をいくつか紹介する。

 

♪ サキソフォーン・スプリーム:チャーリー・パーカーの人生と音楽
(Saxophone Supreme: The Life and Music of Charlie Parker @American Jazz Museum)

8月19日にオープンしたアメリカン・ジャズ・ミュージアム内、チャンジング・ギャラリーで『Saxophone Supreme: The Life and Music of Charlie Parker 』の展示は素晴らしいものになった様だ。
展示はUMKCライブラリーとアメリカン・ジャズ・ミュージアム共同で作成された。『bird:The Life and Music of Charlie Parker』の著者、チャック・へディックス氏監修によるチャーリー・パーカーの人生と音楽を辿った12枚のパネルを中心に、アルバムカバー、楽譜、写真、珍しいオーディオ・クリップ、サックスなどのパーカー所縁の品々が展示された。

『サキソフォーン・スプリーム』というタイトルは、1938年のクリスマスの夜にハーラン・レナード&ロケッツをフィーチャーしたダンス・イベントのカンザスシティ・コール誌の広告に由来している。(レナードはホリデー・パフォーマンスで、まだ10代だった非常に魅力的なサックス奏者、チャーリー・パーカーをフィーチャーした。)

展示されたパーカー所縁の品々はアメリカン・ジャズ・ミュージアム、UMKC・マー・サウンド・アーカイブス、インスティチュート・フォー・ジャズ・スタディーズ・アット・ラトガース・ユニヴァーシティ、世界でも屈指のパーカー・コレクターであるノーマン・サックス氏、ブライアン・ジョンストン氏などの協力で集められた。
へディックス氏と彼のスタッフでありデザイナーでもあるショーン・マクエ氏、アメリカン・ジャズ・ミュージアムのキュレイターのジェリ・サンダース女氏により企画、監修された。

オープニング・セレモニーはアメリカン・ジャズ・ミュージアムで行われ、カンザスシティ・ジャズ・シーンの重鎮であるサックス奏者ボビー・ワトソンとカンザスシティ・ジャズ・アカデミーの生徒達によるパフォーマンスが花を添えた。
コロナウィルス感染を恐れながらも、多くのジャズファンが集まり、オープニングセレモニーは大成功だったようだ。なお、この展示は12月31日までアメリカン・ジャズ・ミュージアムで展示された後、ニューオーリンズなど、いくつかの都市を巡回する予定になっている。

♪ バード・ブート・キャンプ(Bird Boot Camp@ Gem Theater)

8月22日、『バード・ブート・キャンプ』と呼ばれるワークショップが開催された。ワークショップはUMKCジャズ・スタディーズで長年ディレクターを務め、現在はフリーランスで活動しているサックス奏者のボビー・ワトソンがリーダーシップを取り、アメリカン・ジャズ・ミュージアム裏手にあるチャーリー・パーカー・メモリアルの前で行われた。ジャズを学ぶ学生達が20人ほど集まり、毎年パーカーのお墓の前で行われていた『21 sax salute』で始まり<Now The Time>を演奏。その後、場所をアメリカン・ジャズ・ミュージアム前のジェム・シアターに移し、COVID感染予防万全の体制で行われた。

♪ チャーリー・パーカー・サンライズ・セレモニー(Charlie Parker Sunrise Ceremony)

パーカーの誕生日、8月29日早朝6時15分から、チャーリー・パーカー・メモリアル・スカルプチャーの前で、パーカーを偲ぶイベント『チャーリー・パーカー・サンライズ・セレモニー』が催された。6人のアフリカン・ファッションに身を包んだ『トラディショナル・ミュージック・ソサエティ』のミュージシャン達が、日の出と共にパーカーに敬意を表しアフリカン・ドラムを演奏し、100歳の誕生日を祝った。
このイベントはカンザス・シティ在住のミュージシャンの一人、バード・エリントン・フレミング氏のリーダーシップにより行われた。エリントン氏は「ジャズはアフリカン・アメリカンの音楽の表現。シンコペーション、オフビート、アップビート、インプロヴィゼイション、ブルーノート、スイングなど非常に多くの要素を含んでいる。これは全て、アフリカのドラムパフォーマンスの本質と切り離せないものだ。」と語っている。

♪ 12時間ジャム・セッション (12 Hours Jam @ Gem theater)

8月29日の朝7時から夜8時過ぎまでジェム・シアターで、7組の地元ミュージシャンによるジャム・セッションが順次行われた。トリはボビー・ワトソンと彼が率いるグループだった。

♪ リンカーン・セメタリーにて(@Lincoln Cemetery )

今年のパーカーの誕生日には、パーカーが眠るリンカーン・セメタリーでの公のイベントは行われなかった。何人かの地元のパーカーのファン達が8月に入ってから自主的にセメタリーに出向き、お墓の掃除をしたりしていた。29日パーカーの誕生日には昼前から約20人程がパーカーの写真、アルバム、ターンテーブル、花、鶏まで持って集まり、それぞれパーカーを偲んだ。

♪ アーリー・バード:チャーリー・パーカー・ウォーキング・ツアー(Early Bird : Charlie Parker @ 18th & Vine Walking Tour)

毎年恒例のパーカーゆかりの地をめぐるツアーも『アーリー・バード : チャーリー・パーカー @18th & ヴァイン・ ウォーキング・ツアー』として開催されたが、今年はCOVIDの影響もあり、大人数でのバス移動は不可能。アメリカン・ジャズ・ミュージアムをスタート地点として、18th&Vine地区のみに限定した歩いて回る小規模なツアーとなった。
長年、チャック・へディックス氏がガイドを務めていたが、今年はUMKCの建築、都市計画、デザインの准教授であり、ジャズの歴史に精通するジェイコブ・ワグナー氏によって行われた。
ワグナー氏は「カンザスシティはアフリカ系アメリカ人の音楽を理解するのに時間がかかりすぎた。それは単にカンザスシティだけのことではなく、アメリカが抱えるジレンマでもある。アメリカ人がブラック・カルチャーやブラック・ミュージックの影響を受けているにも関わらず、そのことをきちんと理解、認識しないという事は私達の大きな失敗の一つである。それは、今私達が抱える人種問題とも結びついている。今年のパーカー生誕祭は、過去を称えると同時に未来を見据える良い機会でもある。今、世界はカンザスシティに注目している。それは、過去のカンザスシティの音楽だけではなく、今日ここにいる素晴らしいミュージシャン達に対しても言えることで、アフリカがルーツの創造性、アメリカの音楽を次の100年にどのように拡めて行くか、ということだ。」と語っている。(フリーランス・ジャーナリスト、ジュリア・デネシャ Julia Denecha氏のインタビューによる)

♪ バード・ノット・アウト・オブ・ノーフェア(Bird: Not Out of Nowhere)

この日の夕方には地元テレビ局、KCPT(Kansas City Public Television)による『Bird: Not Out of Nowhere』というパーカーに関する2時間近いドキュメンタリー映画が放送された。このドキュメンタリーもへディックス氏監修のもとに制作された。番組には、チャック・へディックス氏と地元ミュージシャンのボビー・ワトソン、ロニー・マクファダン、ローガン・リチャードソン各氏がコメンテイターとして番組に参加した。

♪ この日の最後に

ミュチュアル・ミュージシャンズ・ファウンデーションでは朝方までジャム・セッションが繰り広げられた。
BIRD LIVES!

(2020年8月31日記)

竹村洋子

竹村 洋子 Yoko Takemura 桑沢デザイン専修学校卒業後、ファッション・マーケティングの仕事に携わる。1996年より、NY、シカゴ、デトロイト、カンザス・シティを中心にアメリカのローカル・ジャズミュージシャン達と交流を深め、現在に至る。主として ミュージシャン間のコーディネーション、プロモーションを行う。Kansas City Jazz Ambassador 会員。KAWADE夢ムック『チャーリー・パーカー~モダン・ジャズの創造主』(2014)に寄稿。Kansas City Jazz Ambassador 誌『JAM』に2016年から不定期に寄稿。

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