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小野健彦の Live after LiveNo. 317

小野健彦のLive after Live #419~424

text & photos by Takehiko Ono 小野健彦

#419 6月14日(金)
茅ヶ崎  Jazz & Booze STORYVILLE
http://www.jazz-storyville.com/
謝明諺(Minyen Hsieh)Japan-Tour-Day4 w/スガダイロー

’23/初頭以来、長らくの無沙汰が続いた隣街茅ヶ崎のSTORYVILLEにて、台湾から来日中の謝明諺(Minyen Hsieh)〈通称Terry〉氏のJapan-Tour-Day4を聴いた。
 謝明諺(TS/SS) スガダイロー(p)
テリー君といえば、中西文彦氏(g)とのライブのため、’19/6に藤沢を訪問してくれた際にご縁を頂いていたものの、その後コロナ禍等の影響もあり、直接の再会は叶わずにメールベースでの付き合いを続けていた訳であるが、その彼が6/11〜25にかけていずれも異なる編成にて関東圏を中心に17セットを連ねる本ツアーを通して、全4回と比較的多くの共演が予定されているスガさんと真っ向勝負のDUOで向き合う夜が、それも自宅から至近距離にて実現するとの報を受け、大いなる期待を持って現場に駆け付けた。
果たして、スガさんの幾何学的フレーズに導かれながらテリー君が次第にテーマ部へと展開するに至ったスタンダード曲〈bye bye blackbird〉で幕開けした今宵のステージは、間にテリー君のオリジナル数編(〈tide〉〈our waning love〉等)を織り込みつつも、スタンダード曲(〈what is this things called love?(improモチーフとして)〉や〈skylark〉〈take the a-train〉等)をきっちりと押さえつつ、更には偉大なる先達に敬意を表した楽曲(w.ショーター〈aung san suu kyi〉、J.ヘンダーソン〈inner urge〉等)やテリー君の発意にスガさんが一瞬驚きの表情を見せたA.C.ジョビン〈wave〉に至るまで、様々な曲想に亘る佳曲の数々を披露してくれた。エッジが効いていながらもどこか哀愁感の漂うソプラノと豪放なトーンのテナーで澱みの無いストレートなフレーズを吹き切ったテリー君。対して、88鍵を巧妙に掌中に収めつつ所々にハッとさせられるような叙情を潜ませながらドラマティックにグイグイと弾き込んで行ったスガさん。そのふたりの終始維持し続けたスピード感とスケールの大きな時空構成力の成せる技だろう。音場は片時も澱むことが無かった。昼間の尋常では無い暑さをすっかりと忘れさせてくれるような清々しいひとときだった。

#420 6月16日(日)
渋谷・公園通りクラシックス
http://koendoriclassics.com/
『藤井郷子DuoシリーズVOL.5』w/井野信義

今日の昼ライヴは渋谷・公園通りクラシックスにて『藤井郷子DuoシリーズVOL.5』を聴いた。 藤井郷子(P) 井野信義(B/各種鳴り物)

共に長いキャリアを通して、DUO編成としてはこの日初の邂逅を果たしたおふたりは、持ち前の高い音楽性と構成力を遺憾なく発揮して、終始張り詰めた緊張感の中で追いつ追われつつ、互いに肉薄し触発し合いながら極めてドラマティックな音創りを展開して行った。ガン-ガン、バシ-バシの打撃音が交錯した激烈且つ疾走感溢るるスリリングなおふたりの熱い語らいの中から迸り出た刺激的な音の連なりは、時に内から外へと、外から内へと。互いに内周になり、外周になり。一方が下を支えると、他方は上を飛翔するといったやうに。目まぐるしく鮮やかに変容を遂げた。終わってみれば、ワンステージのみの約1時間一本勝負。私には、広い音空間の拡がりの中に見られた位相の揺らぎがおおいに心地良く、時の移ろひさえ忘れさせられる程の充実のひとときだった。



#421 6月22日(土)

西荻窪アケタの店
http://www.aketa.org/
髙橋知己 (ts) 小太刀のばら (p)

約3ヶ月振りの訪問となった西荻窪アケタの店にて、珠玉のDUOを聴いた。
 髙橋知己(TS) 小太刀のばら(P)

共に数多く存するこのハコの申し子のような表現者の中で、大関・関脇級ともいえるこちらのおふたりの手合わせは、知己さんの古稀記念アルバム「Seven」盤において二曲の共演があるものの現場での協働は私自身余り記憶に無かっただけにおおいなる期待を胸にその幕開けを待った。
果たして、T.ダメロン作〈gnid〉で幕開けした今宵のステージでは、その全9曲を古のジャズ・ジャイアンツの佳作を並べる意欲的なプログラム(ダメロン×2、D.エリントン、B.ストレイホーン、T.フラナガン×各1、Tモンク×4)が披露されることとなったが、それらはいずれも互いの対話を切り出す素材としては的を得たものであり、ふたりから湧き出した音の連なりには一切の無駄が無く、その選び採られた独特な節回しの応酬から生み出された豊穣なる会話の在り様は、聴き慣れたメロディの中にもこのおふたりならではの隠し包丁も随所に感じられて、私はおおいに喉越しの良いひとときを味わうことが出来た。

#422 6月25日(火)
渋谷・公園通りクラシックス
http://koendoriclassics.com/
謝明諺ツアーDAY 14 w/大友良英 (g) 須川崇志 (b/横笛) 山崎比呂志 (ds/鳴り物)

謝明諺(TS/SS)大友良英(G)須川崇志(B/横笛)山崎比呂志(DS/鳴り物)
先ずもって、昨夜は私にとっては5年振り待望の再会となったテリー君の、6/11からスタートし、同日昼夜公演を含む17公演目のまさに最終ギグであり、その記念すべきステージに、我がジャズ界のオヤジとも言える存在の山崎さんとの思いもかけない共演を、それも大友氏と須川氏という稀代のインプロヴァイザーを交えたユニットでのせた当夜のオーガナイザー:「音楽と人と人の点をつなぐ」を旗印に各種の意欲的なライブ企画/制作を行っているpoint.代表石渡久美子氏におおいなる謝辞を送りたいと思う。
果たして、その石渡氏の懸命な事前告知活動と共に各所でのギグの評判の高さが加わってか、ハコは大入り満員の様相を呈す中、定刻19時からややあって、大友氏に促されて石渡氏がステージに向かい簡単な挨拶と自身の発声により今宵の演者達がステージに呼び込まれて以降の2セット+アンコール計約100分を通して、我々聴き人は、四人の表現者達が奏でた混じり気の無いストレートで噛み応えのある音の饗宴に惹き込まれることとなった。中でも、リーダー格であるテリー君の選び採ったサックスの種類が前後半のステージ其々の風合いを決定付けたと私には感じられた。先ず1stセットで手にしたのはテナー。静かで澱みのない深みのあるブローで幽玄なフレーズを重ねるテリー君に対して、山崎さんは終始パーカッシブなアプローチで応えた。ブラシ、マレット、スティックを交互に使いながら、あくまでも音数は少な目に、音圧は控え目に。そんなふたりのやり取りを横目に、極く控えめに音場のスペースを徐々に拡げて行く大友・須川氏の音創りも流石の手際と言えた。其々の独自でしなやかな微弱音が通奏低音として場を締めた1stだった。続く2ndセットはテリー君はソプラノを手に。やや憂いを含んだトーンでエッジを効かせながら幾何学的なフレーズを畳み掛けて行く。静かな中にも内的衝動は1stセットで十分に燃え盛っていたと見える他の三人がトップスピードで追い立てる。須川さんのアルコが唸り、大友さんのエフェクターがいななき、山崎さんはまさにドラムの化身と化して、ドラムセット全体を鳴らしにかかって行く(途中、立ち上がりシンバルを乱れ打つ場面も)。其々のこの夜に賭けた熱い想いが場を貫いた刺激的で鮮烈な2ndセットだった。
最後に、本編最終盤で激烈の一瞬の静けさをついてテリー君のテナーが〈lonely woman〉の断片を差し込んで来た。ここで正直私は首を傾げてしまった。というのも、フリーフォームの現場に接した際、それもワンタイム・セッション等の折り、クライマックスやアンコールで〈ghost〉や〈lonely woman〉が飛び出すことに一抹の座りの悪さを感じて来たからだ。其々のモチーフが表現者達の中にもたらす創造性のモチベーションの有無の詳細については正直分からない。しかし、名うての表現者達の、まさにこの日この刻におけるパフォーマンスの楔打つ道程に、ある意味今更、アイラーやオーネットの著名曲が出て来ると、なんとも言えない違和感を感じてしまうのである。わざわざそれらに依らずとも良かろう、と。
まあ、それはそうとしても、私が今宵のステージから受けた充実感は揺るぎないものがあった。各セット毎に其々の設えに起伏を持たせつつきっちりと纏めあげた構成力の冴え。100分のステージ全体をまるでノンブレスで通したような拡がりと深さをみせたタイム感の大きな畝り。それらはひょっとすると、表現者の近くに長く居て互いに深い信頼関係を結んだ頼れる裏方役に徹した石渡氏ならではの慧眼の存在もおおいに影響していたのかもしれないと今振り返り改めて感じている。

#423 6月29日(土)
江ノ島ビュータワー  江ノ島虎丸座
http://www.toramaru.net/
「Rock’n Roll Closet vol.58 リスペクト木村充揮」

今宵は約30年に及ぶ湘南生活の中で初訪問となった自宅から至近距離にある江ノ島ビュータワー7F江ノ島虎丸座にて、「Rock’n Roll Closet vol.58 リスペクト木村充揮」を聴いた。〈opening act〉ポカスカジャン(音曲漫才)from WAHAHA本舗

〈main act〉木村充揮(VO/G)〜w.ポカスカジャン

私自身、木村さんのナマは、’12/5のジャカルタ赴任直前に行った関西音楽シーンGWの一大イベント「春一番」(プロデューサーは、過日6/10に惜しまれつつ逝去された福岡風太氏)以来10年強振りだったため、大きな期待を胸にその幕開けを待ったというのがことの次第。果たして、オープニングアクトを爆笑の連続の内に見事つとめあげたポカスカジャンのステージ終わりに全館に非常ベルが鳴り響くという思わぬ事態をものともせず、そんなアクシデントを逆に追い風にしつつ、木村さんは約90分をかけてギター一本と数えきれない程のハイボールの杯と共に圧巻のステージを披露してくれた。そこでは、氏のステージではお約束とも言える客席との間で繰り広げられる「挑発と野次」との応酬が賑々しくなされていったが、肝心の音創りについていえば、今宵披露された楽曲は、全18曲!憂歌団時代の代表曲である〈俺の村では俺も人気者〉〈嫌んなった〉から〈おそうじオバチャン〉等をステージの起伏の中に効果的に差し込みつつ、ジャズチューンからの〈all of me〉や〈bei mir bist du schön〉に加えてジャズとブルースの架け橋となった〈gee,baby,ain’t i good to you〉や〈stormy monday〉更にレゲエ曲〈no woman no cry〉から〈君といつまでも〉に迄及び、そこではこの表現者の引き出しの多い芸達者振りと音楽全般に亘る造詣の深さを強く感じさせられることとなった。例え客席からリクエスト曲の声が飛んでも「まあ、好きにやらしてもらいますわ」と混ぜ返しながらうまいこと受け流すその様はある意味で清々しい程だった。「天使のダミ声」と評される説得力のある喉と意外な程に繊細でセンス良いコードワークを武器に何を演じても「木村節」に仕立ててしまうゴーイングマイウェイを貫く変わらぬ「キムラ」をご近所で聴けた嬉しい再会の宵だった。

 

#424 7月05日(金)
横浜・上町〈カンマチ〉63
http://jmsu.web.fc2.com/63/
清水麻八子 (vo) w/栗田妙子 (p) 馬場孝喜 (g)

馴染みのハコの中では、恐らく一番の無沙汰が続いた横浜馬車道通り近くの上町〈カンマチ〉63にて清水麻八子氏(VO)の現場を観た。w栗田妙子(P) 馬場孝喜(G)

前回のカンマチ訪問が’23/5。その時の演者が初対面の麻八子さんだったこともあり、思いもかけないご縁の繋がりに想いを馳せつつ開幕の時を待った。果たして、今宵の麻八子さんは、栗田氏と馬場氏という当代ジャズシーンにあって引っ張りだこの芸達者おふたりとの協働を得て、実に全18曲に及ぶ楽曲を約2時間強かけて持ち前の「芝居好き」を下敷きにした巧みな構成力を遺憾無く発揮しながら充実の2セット(それは全体として其々に風合いも異なる二幕仕立ての一編の戯曲のような)に纏めあげてくれた。先ずは、1stセット。麻八子さんが’11欧州留学から帰国後に知己を得た上野耕路氏が太田蛍一氏と戸川純氏と共に結成していたユニット「ゲルニカ」の楽曲を中心に9曲を澱みなく並べてみせた。そこでは、時にアリア風に、時にレクイエム風にといったように、緩急の自在に亘るドラマティックな展開を維持させながら各楽曲毎のコードとメロディとの関係に潜む遊び心を伸び伸びと表現してくれた点が印象的だった。さて、続く2ndセットはやや意表を突いた〈港が見える丘〉(平野愛子歌唱)からスタートし、その後は私にとってはなんとも嬉しい選曲といえたフェイバリット・チューンが次々と続くことに。それらは以下に是非共列挙しておきたい。
M-2:〈あなたの船〉(6/30惜しまれつつ逝去された渡辺勝氏作)
M-3〈時には昔の話を〉(加藤登紀子作)
M-4〈ハスリン・ダン〉(浅川マキ歌唱)
M-5〈都会に雨が降る頃〉(同上)
M-6〈セント・ジェームス病院〉(同上)
M-7〈無題〉(同上)
  ※渋谷毅氏作曲〈beyond the flames〉に浅川さんの歌詞が乗ると改題される。
M-8〈あの人は行った〉(同上)
M-9〈昭和最後の秋の夜〉(桂銀淑歌唱)
どうだろう、まさにご覧の通りの圧巻の昭和歌謡絵巻が繰り広げられたという訳だ。しかし、それら曲想も異なる佳曲の数々をテンポ良く並べ仕立て上げた麻八子さんの卓越した構成力以上に私の印象に強く残ったのは、彼女の各楽曲に対する向き合い方だった。麻八子さんの唄は、いかなる時も決して各楽曲の世界観には浸りきらない。「入り込み過ぎず、引き寄せ過ぎず」少し離れて俯瞰して捉え聴かせることで、そこに生まれる適度な距離感がかえって、詞を、曲を、際立たせることに功を奏したように感じられた。
最後に、これは前回は見られなかった試みだったが、2ndセットのM-5&6で麻八子さんは、浅川さんとはご縁の深い寺山修司氏の詩作の断片をイントロとアウトロに自らの「語り」で簡潔に加える工夫を施した。そう、以上が今宵、先達の言葉とメロディに深い敬意を払いつつ、唄歌いとしての気高き矜持を持って、そこに自らの一工夫を加えることで表現者としての深化を遂げようとする逸材と再会出来たなんとも麗しい夜に接した私の偽わざる心境である。

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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