小野健彦の Live after Live #55~#63

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text and photo by Takehiko Ono 小野健彦

#055 1月1日 (水)
西荻窪 アケタの店
http://www.aketa.org/mise.html

明田川荘之ゆく年くる年ソロ&オールナイトJAM

本号が更新されている時点では、最早2か月前のドキュメントになってしまっているが、私の2020年最初のライブは大晦日の夜20時半時から開始され、元旦の朝5時半迄続いた明田川荘之ゆく年くる年ソロ&オールナイトJAM@西荻窪アケタの店。
今回は本誌前号にて掲載の31日分(前半のジャム分)の記録に続いての続報。

5時半迄続いたというのは、正確には私が帰路についたのが元日の大凡5時半であり、その時点でもアケタさんは、「10時までは、やるぞ!」とおっしゃっていたので、もしかすると本当に10時まで続いたのかもしれない。私の約40年のジャズ歴の中で、この企画に参加するのは長年の夢であったが、2019年、その階段に手摺りが付いたことが、その実現を強く後押ししてくれた。

ピアニスト原田依幸氏のセットに始まり、JAMとうたっているように、店主アケタさんとマネージャー?島田さんのdirectionで、次々と演者がステージに上がって行き、思いがけないあんな組み合わせやこんな組み合わせで、あんな曲やこんな曲が奏でられる日本のジャズの縮図のような。広辞苑のような時間が流れてゆき、時計の針が23時30分を回った頃、いよいよアケタさんのソロが始まった。
細川たかしの「心のこり」や、「もういくつ寝ると♪」(お正月) のメロディを崩しながら、いよいよカウントダウンの後は「年の始めの♪」(一月一日) で、まとめあげる。この日から遡ること数日前に、ピアノの渋谷毅さんと会話していて、その見事さの話になったが、蓋し絶品の味わいでした。約1時間のアケタさんのソロの後に再び開始された後半のジャムは、安東昇さんのベースの他、早稲田ダンモ研繋がりのピアノ清水くるみさんとドラム藤井信雄さんに、「くるみさんとは、いつもけんかばかりしている」と語っていたギターの秋山一将さんで私の大好きな「without a song」を演奏してくれました。くるみさんはこの日、別のセットでは、アケタさんの名曲「アルプ」も弾いて下さった。その後も続々と新たな表現者が。ベースの吉野弘志さん、パーカッションの野崎くららさんに加えドラムの磯見博さんが入り、ピアノの椅子には、新宿ピットインから駆けつけた渋谷毅さんが座る。フロントにはアルトの石崎忍さん。ピアノが石田幹雄さんに代わり、ボーカルlunaさんが再び入ると、彼女はなんと加川良の「教訓I」を歌ってくれた。
その後再び、渋谷さんにご指名がかかり、くるみさんに促され舞台へ。そこにトランペットの渡辺隆雄さん、アルトの宮野祐司さん、くららさんも加わり、「デサフィナード」などを。この深夜のボサは何とも清々しかったなあ
5時前頃にはアルトの守谷美由貴さんが駆けつけた。
一度、高田馬場 gateone に行って歌って来た宮崎在の逸材ボーカル松崎加代子さんは「ロンリー・ウーマン」「エンブレイサブル・ユー」を。
そうこうして私が帰路につく直前には、幹雄さん、安東さんにピットインから駆けつけたドラム本田珠也さんが演奏していた。その後、どうなったかは、詳しくはわかりません。
本誌前月号にも書いたが、皆さん、入り方、去り方に、それぞれの流儀がありつつ、意外にも、あっさりとしていてウダウダ感が皆無なのが良かった。約9時間のステージ、私は堪能させて頂きました。
今宵のステージ写真は、いつものように、島田さんがアケタの店のHPに、整理してアップして下さっているが、以下に、私は、五月雨式に添付しちゃいます。

≪写真注≫順に上段 (左より) ①明田川荘之 (p)ソロ ②清水くるみ他(p) セット ③渋谷毅他(p)セット
中段(左より) ①石田幹雄&luna他セット ②渋谷毅他セット ③守谷美由貴(as) 他セット
下段(左より) ①松崎加代子(vo)他セット ②本田珠也(ds)他セット

#056 1月5日(日)
成城学園前 カフェブールマン cafeBeulmans
http://cafebeulmans.com/

藤本一馬 (g) 北村聡 (bandoneon) 福盛進也 (ds)

今日の私のライブは、@成城学園前カフェブールマン。演ずるは、この時、約1ヶ月半に亘る帰国ツアーの最終盤にさしかかっていた、ミュンヘン在のドラマー福盛進也氏を含むトリオ。今日のリーダーはギターの藤本一馬氏。第三の男はバンドネオンの北村聡氏である。それまでの各地での福盛氏を巡る数々のライブ評が概ね大好評であっただけに、こちらの期待もマックス値に達してのハコ入りとなった。レースカーテンの向こうの窓越しに見える夕焼け色の街に夜の帳が降りる頃、演者達がステージに登場し、白壁を背にスポットライトの中にその姿が浮かび上がると同時にライブの幕が開いた。
御三方は、特に曲のダイナミクス・レンジに慎重に気を遣いながらそのステージを進めて行く。それ故に、立ち上がって来る音場は極めて立体的なものだった。
福盛氏は、本日が、3回目の年男を数える記念すべき日。藤本氏と北村氏は共に40歳。今まさに脂ののりきった中堅どころのこの表現者達が、アジア人としてのアイデンティティを武器に、今後の音楽界に楔を打ちこんでゆく進化の道程を同時代で目撃出来るとは、なんとも幸せな事である。
しかし、牧歌的なフレーズを攻撃的に繰り出す弦の調べとこの楽器の宿命とも言えるデカダンスの香りを纏ったバンドネオンの哀切の響きとを多彩なリズム・パターンでひとつの物語としてまとめあげた福盛氏のバイプレイヤー・ワークも特筆に値するものであった。全曲が各々のオリジナル曲というのも天晴れ。しかし、新年早々にエライものを聴かせて頂いた。


#057 1月9日(木)

Cafedining & Bar 新子安 しぇりる
http://www.barsheryl.com/

清水翠 (vo) 東海林由孝 (g) 永塚博之 (b)

今日のライブは、@新子安 しぇりる。今宵のステージには、ボーカルの清水翠氏が登場した。バックを務めるのは、翠さん曰く、その音がインディゴブラックの深〜い色のこのお二人。私にとってはお初のギター、東海林由孝氏と、ピアニスト菅野邦彦さんの信頼も厚いベースの永塚博之氏だ。ボーカルの翠さんとは、昨年初めてご縁を頂いたが、私が彼女のステージに惹かれるのは、兎に角、様々なジャンルの曲に意欲的に取組み、数々の佳曲の芯を見事に掬いとりながら、それをこちら聴き手の心のひだに丁寧に寄り添わせるところにある。そうして、それが決して押しつけがましくなく、感情過多でないところがなんとも小気味良い。
今夜も、実力派共演者の木目の細かいサポートを得て、ジャズスタンダード、ボサをはじめ、ビートルズから、シルビオ・ロドリゲス、バット・メセニー、ビル・エバンス さらには、自身初挑戦のブルースナンバーまでを幅広くたっぷりと聴かせてくれた。
今宵は、演者達にとっても新春のサプライズがあった。いささか手前味噌になるが、今日の開演1時間前に奇跡的に調整が付き、いつもは独り旅の私にピアニストの小林洋子氏がご一緒してくださることに。店に入るなり、演者皆が、「約30年ぶりだねえ」と旧交を暖め合う姿を見てこちらまで嬉しくなってしまう。「一緒にやろうよ」「適当な曲が直ぐには浮かばないわ」のやりとりも微笑ましい。結果、洋子さん、数曲の飛び入りとあいなったが、中でも白眉は、まず本篇中の「the island」サラ・ヴォーンの名唄で知られるこのナンバーを、翠さんは、ごく抑え目に歌い上げる。洋子さん、東海林さん、永塚さんもそれに寄り添うように丁寧にサポートをする。実に美しい。
さて、うっとりするような時間にも終わりが来る。最終曲はなんと、翠さんと洋子さんのレパートリーを念頭に、私が半ば無理やり洋子さんにリクエストしておいたこの曲をやってくれた。
そう、「danny boy」。30年ぶりの邂逅は突如訪れたが、各々の歩んで来た道程が確固たるものであったと実感させられる圧巻のハーモニーであった。音楽を、いや、ジャズを聴く醍醐味を味わうことができた充実の夜。今宵が仕事始めとなった、このハコのオーナーまさこさんにも感謝のひととき。

 

#058 1月10日 (金)
高田馬場 ホットハウス
https://hothousegogo.hatenablog.com/

早坂紗知 (sax)+永田利樹 (b) Duo

今夜のライブは、ニューヨークタイムズで、「世界で一番小さなライブハウス」と紹介されたこともあると言う高田馬場ホットハウスへ、店のHPで確認する限り、確かに極めて狭小、客道作法なども存在する、かなり拘りの店と言う印象があり、これまでその訪問に二の足を踏んでいたのは確か。しかし、当夜は、昨年来昵懇になった、サックスの早坂紗知さんとベースの永田利樹さんのDUOが企画されると知り意を決しての初上陸となった。

確かにオーナーママのアキさんのトークは、時にやや威圧的な感もあり、こちらが圧倒される場面もあったが、ライブ中にも続々とサーブされる家庭料理の味わいは何とも言えず、総じて、ジャズに対して、客に対して、そうしてミュージシャンに対する愛情が、滲み出て来て嬉しくなる。恐らく、あのぶっきらぼうさがないと、41年の長きにわたり、たった一人でほぼ毎晩ライブをおこなうハコの維持という偉業は成し遂げられなかったことであろう。そう度々は訪れないと思うが、気がむいたら、また、あのハリネズミ「トゲと毒と愛嬌を合わせ持つ」のようなお姐さんに会いに行こう。

さて、随分と前置きが長くなってしまったが、肝心のライブである。

昨年、結婚30周年を迎えられたこちらのご夫婦 オシドリduoは、随分と久しぶりとのことであったが、そのテンションと歌心満載のステージングに脱帽。オーネット、モンク、パーカーの曲に加えて、お二人の新旧の記念碑的なオリジナル「イエローモンク」「悠久の碧」なども交え、先鋭的で、しなやかで、リズミカルな音の粒が狭い店内とこちら聴き手の心の隅々までを駆け巡って行く。

本篇が終了し、おひねりの帽子が回されると、そこにはリクエストokのメモ帳が。私、2曲書いて、1度出して、やはり、考え直してもう1曲書いて、当然このくだりには、アキさんからの檄が飛ぶがそんなことはお構い無しに、丁重に紗知さん、利樹さんにお願いすると、暫しの作戦会議の後でやって下さいました。

そう、入魂の、「danny boy」を!それはもう、秀逸でした。

#059 1月11日(土)
jazz & gallery 合羽橋 なってるハウス
http://www.knuttelhouse.com/

原田依幸+山崎比呂志 Duo

この日は、初春の浅草を満喫した1日。昼の部の漫才公演@東洋館でベテラン勢の懐の深い芸に酔った後で向かったのは、今年は一体何度お世話になることだろう?の@合羽橋なってるハウス。今宵は、昨年久しぶりの邂逅を果たしたこのお二人のDUO、ピアノの原田依幸氏とドラムスの山崎比呂志氏だ。当夜は、大凡各30ー40分の2ステージであったが、私には全体として、2つのムーブメントに分かれたひとつの組曲であったという印象的が強い。まず1stステージは、原田氏の弱音からスタート。山崎氏は、スネア、タムなどのタイコ類を中心に静かにその流れに沿って行く。共に、緩やかにあくまでも、ごく緩やかに。まだ大波は立たない。しかし、水面下での海流の動きは明らかに早い。そうして、いくつかの潮目の変化の中から立ち上がって来た、原田氏の「over the ragmbow」極度の儚さを纏いながら、徐々に熱を帯びて行く。山崎氏もシンバルを多用しながら、私は初めてお目にかかった楽器「ラチェット」を繰り出し、鈴も鳴らせつつ、その音場を大きなうねりの中に引き込んで行く。そうして、左右のシンバルを乱れ打った後、再び抑制のトーンに戻したところで第一楽章は終了。

暫しの小休止の後始まった2ndステージ。原田氏のテンションの高い撥音から滑り出す。山崎氏はシェイカー等で応えるが、ベースは暫し静観の構え。再び音場が暖まり出した頃合で原田氏から力強い原始祝祭的色彩感の強いトレモロが溢れだす。これに対して山崎氏はタイコとシンバルを同時に駆使。それはあくまで謳うように穏やかに、穏やかに。しかし、一度温度の上昇を開始した音場は、各人の駆け出したいという内的衝動を触発させたか、互いの楽器をフルに鳴らせるフェーズへとなだれ込んで行く。最後は、2人の人間と2つの楽器という4つの個体が渾然一体となって、鮮烈過ぎるこの組曲にその終焉が訪れた。

共に、相手の音に瞬時に反応するのではない。自然と互いが互いに反応する脅威の関係。受動的な瞬間は皆無の、全てが能動的な時の積み重ね。

2人のマスターの至芸に酔わせて頂きました。

 

#060 1月12日(日)
池袋 東京芸術劇場
https://www.geigeki.jp/

田中泯公演「オドリに惚れちゃって 形の冒険IIームカムカ版」

この日のライブは池袋東京芸術劇場での、ダンサー田中泯氏の公演「オドリに惚れちゃって 形の冒険IIームカムカ版」。それこそ泯さんの公演は、これまで数々観て来たが、今日は中でも最高のモノだった。しかし、アフタートークで泯さんも話をされていたように、舞台は日々進化しているものなので、当然私の観たものと前日、後日のそれは、違うモノであった筈ではあるが...。
私が、泯さんの公演に初めて行ったのは、1988年。当時彼が主宰していた舞塾と共に調布グリーンホールでの「DRIVE-on 月が侵入する縁側の板敷きで」。この時は、モダンピアノの巨人セシル・テイラーとの共演だった。時は下り、2013年には、亡き母と最後に行ったライブ。同じセシル・テイラーの稲盛財団京都賞受賞記念公演での共演@草月ホールや、2018年の正月、先鋭ドラマー中村達也氏との共演「凍月の刺す」@下北沢スズナリ もあったし、前後するが、2017年には最近の氏のライフワークである、作品を持ちこむのではなく、その場所からのインスピレーションを受けてオドリを成立させる「場踊り」の品川・原美術館夏の夜の中庭編なんてのもあった。とにかく、今日のステージは、そのどれをも凌駕したのだから。
舞台美術からして、劇場故に可能な大きめのオブジェが複数配置されている。15時の定刻通りに場内が暗転すると、口上遣いの男が現れ、今日のコンセブトを簡単に述べる。今日のテーマは、「境界のぼかし作業」であると。彼が下がると同時に、舞台上手の扉から、泯さんがすり足で登場。黒帽子黒シャツ黒パンツ黒ブーツのいでたち。最初は、「場踊り」で見慣れた、自らが簡単な動きのモチーフを提示し、それを変容 & デフォルメさせて行く展開。しかし、開始から10分程経過した頃に、舞台のあらゆる方向から若い踊り手達が登場した。私は、なんの予備知識も無しで行ったのだが、あとで語られたところによると本公演のためにオーディションで集められた15人程の泯さんとは下手をすると60歳ほどの年齢差のあるという心と身体達。
それからは、圧巻の独舞と群舞のシンクロが続く。新たな動くオプジェが登場したり、スモークが焚かれたり、朗読者が現れる、場面展開は躍り手みずから行うなど、オドリ公演に対する固定概念を破壊しながらの芝居がかった色彩感の時間も訪れる。BGMにしても、何かの機械音から爆撃音、ソロピアノまで多彩だ。いつしか、泯さんは己れの舞を、緩やかなものにして、その存在を消しにかかる。かと思うと、「ブラック・マジック・ウーマン」のビートに合わせて嬉々とした乱舞にその様を変容させた。
存在と不在を巧みに使い分けながら、しかし、強烈にその心と身体からなる個体を主張した稀有な表現者によるスリリングなひととき。幕切れは、茜色に染まった花道での若手女性の独舞に観客が目を奪われている隙に泯さんは早変わりを行い、舞台後方から現れた。黒い絣の着流しに黒い太めの捻じり帯、長い脇差までさしている。最後には、その切っ先の向こうの中空を眺めながら一太刀を振り下ろしたところで75分の異空間から、我々は現実に引き戻された。いやあ、もう絶品。

 

≪写真注≫本公演は当然のことながら撮影NGのため関連部分の一部を下記に付す

左:改装造営が済んだ池袋西口公園より、芸術劇場を眺める綺麗になった公園は、以前にはなかった椅子的なものも設置された。常設のステージも併設され、今後、ライブが劇場の中からどう飛び出してくるかが楽しみ。

中:大小様々な劇場スペースの中で本日の舞台はB1階のシアターイーストで開催された

右:チラシ、ポスター原画は、建築家の樋口裕康氏。樋口氏と言えば若手気鋭ジャズドラマー林頼我氏のお祖母様の富田玲子氏や大竹康市氏と共に象設計集団を設立した人物だ。

 

#061 1月13日(日)
永福町ソノリウム
https://www.sonorium.jp/

江川良子+大田智美 duo

年が改まってからも、私のLive after Liveは充実かつ快適な滑り出しをみせた。この日を含めた5日連続全6ライブは、ジャズにダンスに漫才とこれまたバラエティに富んだものとなった。
そのおおとりを飾ったのがこの昼ライブ@永福町ソノリウム。
演ずるは、サックスの江川良子さんとアコーディオンの大田智美さんのduoチーム。
会場となったソノリウムは、最近、私の周囲の聴き人及び表現者からその音響の素晴しさを絶賛する声がとみに多い注目のハコだった。

事前にHPで予備知識を仕入れたが、サウンドデザインは、国内外の注目すべき劇場、ホール等を多数手がけている永田音響設計。そうして、意匠設計は、なんとあの高名な建築家青木淳氏の事務所。青木氏と言えば、国内では青森県立美術館や、杉並区大宮前体育館、ルイ・ヴィトン銀座店舗などを設計したことでも有名であり、磯崎新アトリエ出身の正統派のモダニズム建築の継承者のひとりである。

ライブを楽しめる上に、建築家の息子である私のもう一つの趣味であるタテモノ探訪まで出来るとは!永福町から歩くこと10分程、古刹大圓寺の山門の目の前にその印象的な白壁のタテモノはあった。極めて簡潔な佇まい。建物内部も基調は同じ、シャープで潔い直線で切り込まれた厳かな空間に、ライブへの期待も高まる。

そうして定刻の14時丁度に、共に黒基調のいでたちで今日の演者が現れた。
まず初めに、江川さんから各々の楽器の紹介が。この、一見すると異質な楽器も、共にリードの振動から全てが始まるという点で、親戚のような存在でもあり、江川さん曰くは、協奏するとサックス・アンサンブルのような心持ちになることもあるとのことだった。
ライブは2部構成で。1部はバロック期中心に、2部は今世紀に入ってからの作品を中心に、ソロ、duoで交互に演じ分けられた。江川さんは、全編を通してソプラノサックスを中心に吹かれたが、2部の初めには、テナーサックスでソロを。この正月はこれに掛けたと語った循環呼吸へのそのチャレンジ精神は、多いに評価に値するが、肝心の演奏では特に低音の節回しで音の輪郭がボヤけて、音楽が迷子になってしまっている感がした部分が少なからずあったのは残念だった。是非とも、さらなる鍛錬を重ねて、その技の深化を図って頂きたいと感じた。一方でduoとしての有様としては、決して多くないこのふたつの楽器どうしの既成曲を地道に探しだすと共に、ふたりのために、編曲や新曲を積極的に依頼している姿勢には、多いに好感が持てた。地味ながらも、地道におふたりにしか表現しえない音場の可能性をさらに拡げて行って頂きたいものである。アンコールで演奏して下さった、ジャズドラマー森山威男氏のグループのアコーディオン奏者佐藤芳明さんに委託した「深淵」には、満場の老若男女から静かな溜息が漏れていたことを記しておこう。

追伸 そうだ。私と江川さんは、昨年11月末に開催された山崎比呂志氏が実行委員長を務める鹿嶋jazzで、彼女が、大友良英さんの「誰でも参加出来るオーケストラ」に客演され、その打ち上げにて、あんこう鍋を一緒に突いたところからご縁が出来たのだから、面白いものである。得難いヒトとのご縁、ご機嫌なハコとのご縁はどこに転がっているかわからんもんだ。

 

#062 1月17日 (金)
千葉市稲毛  Jazz Spot キャンディー
http://blog.livedoor.jp/jazzspotcandy/

加藤崇之(g) 近藤直司(sax) 永田利樹(b)+山崎比呂志(ds)

当夜は、天候の大崩れも懸念される中をライブに行って来た。何せ、以前から気になっていたハコに尊敬する表現者達が集う宴なのだから、外す訳にはいかない。
今夜のライブは、@千葉市稲毛のキャンディー。住宅地の一軒家であることにまず驚いた。

オーソドックスなジャズから、時に海外組も含めた先鋭的な即興物まで間口の広いブッキングは、私の大好きな横浜エアジンとどことなく印象が重なっていた。実際、共に亡き斉藤徹さんとの深い御縁があるなど、その志向は類似点が多いようだ。しかし、藤沢から稲毛は遠いという思い込みもあって、これまでその訪問に二の足を踏んでいたのも事実だった。しかし、今回の訪問に際して、改めて動線を確認すると、約2時間の電車旅ながら、戸塚乗り換えで1本とそのアクセスの良さに驚き。地図上で山手線の左側に縦の線を引いて、それを、谷折りしたら、丁度エアジンと重なるような位置にあることにも何かの導きを感じて、暖かなコートを着込んでいざ勇んで出発。

さて、いささか前置きが長くなってしまったが、昨夜の演者は、「座長」であるギターの加藤崇之氏が最近時々共演するトリオであるサックスの近藤直司氏とベースの永田利樹氏に加えて、3月末には傘寿の誕生日を控え、今まさに、銀巴里セッション、高柳昌行氏との共同作業を経て、表現者として何回目かのピークを迎えられている感の強いドラムの山崎比呂志氏である。

ここで話を少し脱線させて。ステージから離れた時間に居る時の加藤さんのなんとも言えず味わい深い柔和な表情はこれまでも何度も拝見して来たが、昨夜は、さらにそのほぐれ方が増していたように思う。一方で、眼光の鋭さは、いつも以上に増して。恐らくそれは、久しぶりの山崎氏との手合わせの夜だったからに違いない。MCでも話をされていたが、大友良英さんが、再び山崎さんを陽の当たる場所に連れ出したことに賛辞を贈ると共に、夭折した盟友是安則克氏とともにトリオを組むなど15年に亘り山崎さんに鍛えあげられた佳き日々を語る加藤さんの横顔はなんとも言えず悦びに満ち溢れ、眩しい程であった。それを聞く山崎さんの恥じらう表情もなんともチャーミングなものがあった。

さて、肝心のライブである。開演前に、山崎さんから耳打ちされた。「今日は、ハコの大きさを考慮してシンバルの数を厳選して来たよ」。
流石、一流の職人だなあ、と感じたエピソード。
しかし、そんな話を持ち出すまでもなく、当夜の初顔合わせの即興股旅4人衆は、悪戯にパワーで押すことはせず、抑えた音場の中で、其々の言いたいことを十分に表現した感がある。最近の山崎さんの1ステージは、約40分程度の場合が多いが、昨夜は、2ステージ共に腹八分目の約30分程度に短めのドラムソロや4人でのやり取りを加えた構成。ファースト・コンタクトとしては、良い尺であったという気がする。

終演後の会話に聞き耳を立てていると、再演の調整をしている。
しめしめ、新たなユニットとして、各地のハコでどんどんと競演を重ね、熟成を重ねて頂きたいものである。

≪写真注≫今夜は、山崎さんに初めてドラムセットを撮影させて下さいとお願いした。
なんと、快諾して自ら撮影して下さった写真には例のホイールキャップに加えて、期せずして演奏用のスニーカーまで写っており、二人で苦笑いの一幕も。

 

#063 1月19日(日)
Cafedining & Bar 新子安 しぇりる
http://www.barsheryl.com/

「trilogue」:宮野祐司(reeds) 土屋秀樹(g) 石川真奈美 (vo)

今日のライブは、既に今年2度目の@新子安 しぇりる。今年はこのハコの訪問回数が増える予感も。 今日のマチネライブの演者は、「trilogue」。
この名前にピンと来る来る方は、かなりのジャズ通だとお察しする。それも、通好みの。このユニットは、今日はアルトサックス、フルート、クラリネットと木管楽器のデパート状態だった宮野祐司氏とギターの土屋秀樹氏に、ボーカルの石川真奈美氏を加えた3人組。このメンバーを見ただけでも、洒落た時間が容易に想像されよう。

翌日から始まる仕事上の憂鬱な気分を吹き飛ばしたくて、降り注ぐ冬の日差しの中、勇んでそのハコに向かった。
遅めの昼飯に、オーナーママまさこさんの美味なる自然食のアテをいただき、さあ、準備万端。

ライブは、土屋氏のアンビエントなオリジナルに加えて真奈美さんのオリジナルや、ジャズのスタンダード曲に加えて、〈蘇州夜曲〉、pブレイの〈アイダ・ルピーノ〉、T.モンクの〈ミステリオーソ〉&〈エビデンス〉まで飛び出す賑わいの内容。期待に違わず浮遊感に溢れた小粋で洒脱なひとときに、一週間を乗り切る活力を頂きました。しかし、昼のライブだからと言って、ハイボール10杯は行きすぎたかなあ?だって、まさこさん配合の角ハイがえらく美味かったのですもの。

小野 健彦

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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