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小野健彦の Live after LiveNo. 264

小野健彦の Live after Live #64~#72

text & photo by Takehiko Ono 小野健彦

#064 1月23日 (木)
高円寺 Show Boat
https://www.showboat1993.com/

友川カズキ (vo)

奇跡的に雨が上がった今夜のライブは、昨年末に念願の初対面が叶ったこの人。シンガー&ソングライターにして、画家であり、作家、さらには、競輪愛好家としての顔も合わせ持つ、友川カズキ氏の最新ドキュメンタリー映画「どこへ出しても恥ずかしい人」の公開記念ライブ@高円寺ショーボート。

いつものように、練り上げられた言魂を、自らに向かって怒り吐き捨てるように唄う氏のステージは、往年の大投手村田兆治氏のマサカリフォークの如く、こちら聴き手の心根を、切れ味鋭く射抜いて行く。本当に、あっという間の2時間だった。

この号が更新される頃には、新宿ケイス シネマでの好評ロング ラン上映を終えた後、横浜、再び新宿そうして京都、名古屋、神戸、大阪などの所謂ミニシアターへと巡業してゆくようであるし、そのうち幾つかの土地では映画上映とタイアップした友川氏のライブも企画されているようなので、ご興味のある方は、映画の公式㏋にてご確認の上、足を運ばれることを強くお勧めしたい。

2010年夏の、異才の表現者の日常を追いかけたドキュメンタリー、佐々木育野監督作品。

#065 1月24日(金)
西荻窪アケタの店
http://www.aketa.org/mise.html

原田依幸(p) 時岡秀雄(ts) 望月英明(b) 石塚俊明(ds)

今夜のライブは、大晦日から元日朝までの年越しライブ以来、今年は一体何回お邪魔するだろう?かの@西荻窪アケタの店。

演ずるは、昨年念願のご縁を頂いたこの方、ピアニスト原田依幸氏のグループ。清冽なるスクエアゲームのお供は、いずれも腕利きの強力な布陣、テナーサックス時岡秀雄氏、ベース望月英明氏にドラムス石塚俊明氏だ。卓越した音楽観を持つ4人の表現者は、今ここにある現実と、鮮烈なるパラレルワールドとの間を、しなやかに、軽々と往き来する。潔いまでの清々しい音場にカタルシスを得た充実の冬の夜。

#066 1月25日(土)

御茶ノ水・東京YWCAカフマンホール
https://www.tokyo.ywca.or.jp/

ウォン・ウィンツァン(p)

この日は、結果的にライブのトリプルヘッダーと相成った。本稿は、まずその昼の部。

東京YWCA女性と少女の人権課・DV支援者エンパワメントプログラムを支える会主催のチャリティーコンサート@御茶ノ水・東京YWCAカフマンホール。

私は、このコンサートに3年連続の参加となったが、今年もこの会に招かれた表現者は、「癒しのピアニスト」こと、ウォン・ウィンツァン氏。

氏は、今年は、「世界の癒しのひとしずく」と題して、映画「純愛」や、NHK番組のための自作曲に加え、サティ、ドビュッシー等の名曲や、場内を完全に暗転させてのインプロビゼーションなども交えながら、全12曲をたっぷりと聴かせてくれた。「癒し」の名のもとに、とかく、その透明感や芳しさ・甘美さで評される氏の音楽に私が強く惹かれるのは、どちらかというとそうした、「癒し」を想起させる要素から離れ、その間に見え隠れするざらっとした風合いの鉱脈のようなものを強く感じるからに他ならない。今日の演奏からも、広さと深さ、静謐とざわめき、黙示と煌めきの中にそのざらっとしたものが強く感じられ、大いなる充実感を味わえるひとときとなった。

#067 1月25日(土)
高円寺グッドマン
http://koenjigoodman.web.fc2.com/

千野秀一(p) 春日’ハチ’博文(g)

前稿に引き続き、トリプルヘッダーのこの日の夜の部の記録。

夜の河岸は@高円寺グッドマン。

当夜の演者は、ピアニストの千野秀一氏とギターの春日’ハチ’博文氏というなんとも興味深いduo。

千野氏は、ダウンタウンブギウギバンドや、坂田明wa-ha-haなどを経て、現在はベルリン在。

一方の春日氏は、カルメンマキ&OZのリーダー&ギタリストとして、また、かのRCサクセションや、ソウルフラワーユニオンなどとの活動を経て、韓国音楽界でも活動した後、現在は日本在。

このコスモポリタンふたりが創出した音場は、とにかく私の想像をはるかに超えるものであった。いわば、浮遊しながら、緻密で巨大な伽藍を構築して行くような共同作業。途中、本日が誕生日の春日さんを祝福するために来店されていたカルメンマキさんからのケーキ贈呈のコーナーなど微笑ましい場面を挟みながらも、ふたりの会話は、終始、超ハイブリッドな趣き。しかし、それを一見軽々とやってのけるところが、実にクールでチャーミングだった。また、聴きたい。何度でも聴きたい。それ程までの宵だった。

#068 1月25日(土)
西荻窪アケタの店
http://www.aketa.org/mise.html

渋谷毅(p) 藤の木みか(perc)

そうしていよいよトリプルヘッダーの最後に、本稿は、深夜の部。高円寺から、再び総武線に乗り移動することに。しかし、今日は中央・総武線を東へ西への旅であった。

深夜の部の河岸は、二夜連続の@西荻窪アケタの店。

今日は、毎月恒例のピアニスト渋谷毅さんの深夜ライブの日。一部は、渋谷さんのピアノソロで、二部は、ゲストのパーカッション藤の木みかさんとのduo。一部のソロでは、オリジナルからスタンダードまで、多彩な曲が飛び出すが、それら全てが、小さき花の若く可憐かつ端正で瑞々しい。渋谷さんの洒脱さここに極まれりといった趣きである。二部のduoが、これまた飛び切りに素晴らしい。渋谷さんが、由紀さおりさん安田祥子さん姉妹に、あるいは佐良直美さんのために書き下ろした曲や、NHKお母さんと一緒向けの曲等を交えながらの四季めぐりは、こちら聴き手をなんとも優しい心持ちにさせてくれる情緒あふれるひとときだった。このコンビ、都内でも聴くことが出来るハコは限られているし、ましてや、多摩川を渡ることは皆無故に、タイミングが合えば、是が非でも聴き続けて行きたいかけがえのないユニークなユニットである。

しかし、今日一日で、ウォン・ウィンツァン氏、千野秀一氏、渋谷毅氏らの卓越した表現者を聴くことができた。それは格別の一人ピアノプレイハウス状態であった。

#069 1月26日(日)
横濱 エアジン
https://airegin.yokohama/

高橋アキ (pf)

この週末は、終わってみれば、稀代のピアニスト達の至芸を目撃する日々となった。

今日の昼ライブは、今年初の@横浜エアジン。いつもの様にご亭主のうめもとさんに介助頂きながら急な階段を登って行く。途中、うめさんから耳打ちされた。「今日の演者は、エアジンのために普段は余りステージにかけないバッハをやってくれるかもしれないよ」と。その今日の演者は、クラシック界の世界的名手高橋アキさん。エアジンへの出演は11月に続いて2度目。

前回の大好評を受けての再演となり今回も予約満員当日券も出ないほどの盛況振り。会場内は、まさに、ヒトヒトヒト。

定刻をやや過ぎた頃、ヒトの波を掻き分けながら、小柄なアキさんが登場し、ピアノの椅子に静かに座る。固唾を呑んで待ち構える聴き手に届いて来たのは、バッハの「主よ、人の望みの喜びを」だった。嗚呼、なんと言う典雅な響き。

私はそのメロディを聴きながら、天上の両親と、エアジンを去来した亡き表現者達を想い出していた。

その後のステージは、クラシックの著名作曲家の作品が次々と展開されるなんとも贅沢な構成。私は、曲名までは不案内なので、アキさんの生声によるMCから記憶している範囲で言うと、それらの作曲家達は、一柳彗氏、シューベルト、ドビュッシー、ストラヴィンスキー、カラン、佐近田展康氏、サティなどなど。今日は、共に約40分程の2部構成であったが、私の特に印象に残ったのは、それぞれのステージの最後に配置された楽曲達。先に二部から紹介すると、アキさんと言えば、の、ビートルズの作品を世界各国の現代音楽家が編曲した、「ハイパービートルズ」シリーズからの数点。聴き慣れたメロディの断片が緩やかに立ち上がって来る様が、大層巧妙で刺激的だった。遡って一部では、名盤「ためらいのタンゴ」からの数点が並べられた。いずれも、厳しい迄の憂いを帯びた哀愁のタンゴだった。

とにかく、全体のステージを通じて、優雅さと厳しさがせめぎ合うスリル満点の解釈の妙が印象的だった。本編が終った後のアンコールには、静謐なるサティのジムノペティ3番。さらには、まさかのダブルアンコールでは、同じサティのエンパイヤ劇場のプリマドンナを。なんとこの曲は、かの八木正生氏に編曲を依頼したものだという。確かにそのラグタイム・フレイバーがなんとも粋である。

厳しさを典雅と洒脱でサンドした秀逸なるステージが終わりを迎え、満場からはため息が漏れ、惜しみない熱い喝采が巻き起こったのは、言うまでもない。実にご機嫌な日曜日の午後だった。

#070 1月30日(木)
横浜馬車道  上町63
http://jmsu.web.fc2.com/63/

小太刀のばら(p) カイドーユタカ(b) 吉岡大輔(ds)

ライブ通いには、聴き人各々の流儀.テーマがあることはいうまでもなく、ある表現者を追いかけて、色々な編成、ハコで聴こうという場合もあれば、自分のお気に入りのハコで様々な表現者に触れようという場合もあろう。

こと私の先週からのテーマと言えば、これらのいずれでもなく、ある楽器にフォーカスを絞ったものとなった。前稿に記したように、先週土曜日は、結果的にトリプルヘッダーになったのだが、それはある意味期せずして、否、作為的に。

今宵、私のライブは、私のお気に入りのハコのひとつ、@横浜馬車道上町63。

今夜のバンマスは、昨年遅まきながら同所にてご縁を頂いたピアニストの小太刀のばら氏である。1/24の原田依幸氏に始まり、ウォン・ウィンツァン氏、千野秀一氏、渋谷毅氏、高橋アキ氏と巡った稀代のピアニストを目撃するというテーマには、まさにドンピシャの表現者と言えよう。今日の布陣は、カイドーユタカ氏のベースに、私はお初の吉岡大輔氏のドラムスというトリオ編成。

のばらさんは、今夜もその持ち味のバラエティに富んだ選曲で我々聴き手を楽しませてくれた。paul motianやsteve swallowのオリジナルでは、オフビートで至極緩やかにたゆたいながら、ロマンティシズムとリリシズムの攻めぎ合いのエッジを浮遊したかと思うと、一転、you are my everything や、out of the townなどのスタンダード曲では、オンビートでこの上無く小粋に、軽快にバウンズする。腕利きの硬質なリズム隊の持ち味を最大限に引き出しながら、自らの可憐さをも存分に際立たせる。まさに、今宵ここでしか表出し得ない音場。とても、今夜が初顔合わせのユニットとは思えない。ご亭主佐々木さんの名采配天晴れといったところであった。

そうだ、今夜は、keith jarrettの名盤somewhere beforeに収められたpretty balladも演奏された。本当に選曲の趣味が抜群なんだよなあ。

#071 1月31日(金)
横浜野毛 JazzSpotドルフィー
https://dolphy-jazzspot.com/

大野えり(vo) 板橋文夫(p) 米木康志(b)

よくもまあ、そう飽きもせずにライブに出歩くなあという声が聞こえてくるのはわかっちゃいるが、この日も行って参りました。お久しぶりのハコにお久しぶりの演者を聴くために。

当夜は、ボーカリスト大野えりさんのトリオ@横浜野毛ドルフィー。今宵、えりさんの脇を固めるのは、この強者達。ピアノの板橋文夫氏とベースの米木康志氏だ。

実は、このユニットのgigは、昨年の夏にもあった。それは惜しまれつつ短命に終わったドルフィー2ndでのこと。

私は、その時にも早々に予約していたものの直前の大雨で断念した経緯があり、この夜は、満を侍しての出動となった。

えりさんは、2018年の新宿ピットインライブ盤収録曲を中心に、休憩を挟んでの約2時間、いつものように圧巻のショーを繰り広げ、我々聴き手を様々な景色の見られる小旅行に誘ってくれた。

この御三方が相見える訳だから、当然、伴奏する側、される側などという構図をとびこえ、共に触発し引き立てあう骨格のしっかりとしたスリル満点のトリオミュージックが展開されて行く。唄い手はひとりのはずなのに、唄い手が3人居るかのような錯覚に陥るステージ。演者全員が皆嬉しそうに演奏している姿が印象的で、なんとも「おつな」ひとときであった。アンコールのestateも絶品でした。オリンピックイヤーの今年もえりさんからは眼が離せそうにない。

#072 2月7日(金)
市川 cooljojo jazz+art
https://www.cooljojo.tokyo/

廣木光一(g) 有明のぶ子(vib) みつはしようすけ(b) 池澤龍作(ds)

首都圏の鉄道運行経路の利便性向上が目覚ましい。
JR同士、または、私鉄同士+地下鉄乗り入れなどなど。

勢い、私のライブのハコ巡りも快適になっており、誠にありがたい限りである。千葉圏が遠いと感じていたのは、もはや遠い昔。

藤沢から戸塚乗り換えで横須賀線に乗れば、文庫本を読み進めているうちに、車窓は、多摩川を渡り、やがて江戸川を渡って行くことになる。

ということで、今夜のライブは、久しぶりの@千葉県市川市のcooljojo jazz+art。

今宵の演者は、ギターの廣木光一氏のグループだ。廣木氏と言えば、古くは、約35年程前になろうか?武田和命氏のバンドでお聴きして以来。最近では、数年前に、三軒茶屋の大道芸フェスティバルでの菅野邦彦氏との共演で、その演奏に触れたことはあるが、じっくりと対峙してみたいと思っていた念願の表現者である。

今宵は、初顔合わせだというカルテット編成。そのお供は、最近、廣木氏と共に自身初のリーダーアルバムを出したビブラフォンの有明のぶ子さんと、ベースのみつはしようすけ氏、ドラムスの池澤龍作氏である。伸び縮みする多彩なリズムの上をカラフルなメロディが横溢する。今宵は、廣木氏と有明氏の新しいオリジナルが多く取り上げられたが、演者各人が独自の解釈を施しながら、丁寧な音運びをして行く様が、大層印象的であった。しかし、それを単に耳に心地良いサウンドで済まさせない所に、このユニットの真骨頂があると見た。 私にとっての白眉は、廣木さんが、その若き日に古澤良治郎さんバンドで訪れて以来 ご縁を得たという岩手大槌の1964年創業老舗ジャズ喫茶、クイーンの復興復活を祝して捧げた同名曲であった。そこで廣木氏がかき鳴らした弦の調べは、こちら聴き手の心根をもかきむしるような切なる響きを孕み、それは言わば唐突に訪れた、今宵のクライマックスであった。

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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