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小野健彦の Live after LiveNo. 299

小野健彦のLive after Live #300~#304

text & photo by Takehiko Ono  小野健彦

#300 1月7日(土)
稲毛 Jazz Spot CANDY
http://blog.livedoor.jp/jazzspotcandy/
山崎比呂志(ds) Duo w/松丸契 (as)「OLD IS NEW」

睦月七日、今日はいよいよ待望の新春音初め。
ジャズ界の我がオヤジ•山崎比呂志氏(DS)に逢いに東海道線〜横須賀線を乗り継ぎ遠路稲毛 CANDYを目指した。最早このハコの名物シリーズとなった山崎氏のDUOナイト第六弾は、現代ジャズシーンに在って最注目の表現者のひとり松丸契氏 (AS) を迎え、その名も「OLD IS NEW」と題したなんとも興味深い公演であり、こちらの期待も大きく高まる中定刻 18:30に音が出た。
果たして、’21大友良英氏の年末公演@新宿ピットインで初顔合わせし、以降山﨑氏入魂のプロジェクトTRY ANGLEへの客演を重ね、互いの音創りに対する信頼感を深めたふたりのせめぎ合いは、終始「解き放たれた」音の軌跡を描き、極めて無理のない息遣いに貫かれた現場を我々聴き人の前に発露させることとなった。松丸氏の、抽象にストレートにと吹き込むアプローチを塩梅よく織り重ねながら微妙な畝りを伴った思索的なトーンから発せられた気の利いた幾何学的フレーズの数々。山崎氏の、流れ行く音の行方全体を大きく捉えそこに時機を得た正確な打点を刻む熟達者ならではの所作の数々。それらが如何にも心地よく響き合いハコ全体の空間を目一杯使いながらサウンドの間に間に無垢な余白を生み出したかと思うと直ぐさま塗り潰しにかかるスリリングな展開は、柔らかなリズムの中にあくまでも限りない抑制を効かせた幽玄な音の連なりを彷徨った1stセット。転じて山崎氏の繰り出した颯爽としたビートの流れに乗って各々の独奏も交えつつ両者がどこまでも自由に駆け抜けた2ndセット。更にはアンコールに山崎氏からの「短くマスで」の提示による濃密度に凝縮された急速調の疾走に至る迄、片時の安住も付け入る隙の無い両者の音創りのその行き着く先には強烈なING=進行形のジャズが静かに息づきながら立ち現れた。
55歳という年齢差を軽々と飛び越え瞬時に結び付けてしまうジャズという共通言語の
素晴らしさを改めて思いしらされた、そんな稀有な年始のひとときだった。

#301 1月18日(水)

横浜 Jazz First
http://jazz-yama-first.sakura.ne.jp/
Trio SAN:斉藤易子(vib) 藤井郷子(p) 大島裕子(ds)

まさに待望の初対面となった藤井郷子氏(p)[日本・神戸在]を含むTrioSAN:w斉藤易子氏(vib)[独・ベルリン在]+大島裕子氏(ds)[仏•ストラスブール在]の新春睦月Japan Tour 3日目を横浜日の出町「ジャズファースト」で聴いた。藤井氏といえば先頃’96のデビューアルバム以来自身(リーダー作とコ•リーダー作合わせて)100作目!となるCD『Hyaku~One Hundred Dreams』をリリースし、今宵のトリオとしては昨年6月の欧州デビューツアーの大成功を経てベルリンでの演奏がデビュー作として今秋に発売予定、更には今回のツアーから第二作目の仕込を画策しているといったように目下乗りに乗っている存在。私としてはこれまで関東圏での表現活動についてなかなかタイミングが合わず、今宵ようやくそのナマの現場に触れられることとなった。

果たして、定刻19:00からややあって音が出た、その多くの局面でかなり抑制の効いた緊張感に貫かれた約2時間のステージを通して、トリオの音創りは緩やかに伸び縮みするリズムと、寂寥と激烈の間を自在に行き来しつつ(時に遊び心も加えながら)連ねたメロディの断片が横溢し、なんとも強靭な体幹を持つ音の軌跡を描いて行った。そこでは恐らくかなり考え抜かれた(メンバー各位の)オリジナル楽曲毎の構造についての決めごとがあるのだろうが、一度溢れ出した三者から発せられる自由な音達の紡ぎ合いの前では、我々聴き人の耳はそこから解き放たれ、唯、その一切の無駄を省き、自発的に湧き出し流れ行く音の織りなしに身を委ねている表現者達の在り様に強く惹きつけられることとなった。洋の東西に暮らす御三方が身に纏った各々が根差す風土の温度と湿度が絶妙に混じりあった色彩感の豊かさも実に印象的であり、全体のステージを通して彩度と速度を際立たせながら自分達の物語を存分に語り切った充実に過ぎる現場に巡り逢えたという感が強い。

#302 1月27日(金)
町田 Jazz Coffee & Whisky Nica’s
http://nicas.html.xdomain.jp/
Limbo: 元岡一英 (p) 望月英明 (b) 藤井信雄 (ds)

今宵は「10年に一度」級の強烈寒波と雪予想を横目に馴染みのハコ:町田ニカズへ今年初めて足を運んだ。それはとりもなおさず、マスター(P)元岡一英氏入魂のニュートリオ:Limbo:w 望月英明氏(B)藤井信雄氏(DS))登場の報に触れたからに他ならない。「Limbo」とは地獄と天国の間にあり洗礼を受けなかった小児や異教徒の霊魂が止まる所を指し、その「宙ぶらりん」な状態が現在の自身の置かれた感覚とマッチすることからその命名に至ったようであり、SNS上では時に舌鋒鋭く、時にあたたかな眼差しで自らのジャズに対する想いを語る元岡氏のコメントをかいつまむとすれば、70年代、自分達は一体何を夢見てジャズを始めたのかの再確認を志向し旗揚げするも、昨年2/27に1年間の短命にて解散の憂き目に至った[筆者は偶然この夜に立ちあったが]前トリオ:Fogettableの活動の経緯(一部反省点も含め)を踏まえて、今回改めてジャズを始めた時の仲間ともう一度原点に帰りピアノトリオをやってみたかったとの衝動に突き動かされてスタートしたのが、このLimboということになるようだ。

まあそれはそうとして、ジャズ史に残る気になる(=心に残る)メロディの探究者としては人後に落ちない元岡氏のことだ。今日のステージでも、自身のオリジナルを交えながら、スタンダード〜A.C.ジョビン、更には、O.ネルソン〜B.ストレイホーン〜T.モンク、加えてC.ヘイデン〜T.ジョーンズ〜T.ダメロンに至る全10曲に亘る佳曲の数々が供された訳であるが、今宵特に私の印象に残ったのはいずれも印象的なそのメロディ群の手際の良い解釈/処理に加えて、それらを効果的に引き立たせるリズム設定の妙味とでもいったもの。それらはいずれもアイデアの引き出しの多いリズム隊の仕事振りに依る所が大きかったように思う。単なる4ビートにしても軽快から強烈迄千変万化、ラテン調にあっては、ソフトボサからサンバ・カリプソ、果てはタンゴテイスト迄、更にそれらに差し込まれるバラードも実に効果的だった。
街が寒風に包まれる中、決して広いとは言えないニカズの店内は終始静かな熱気に包まれた。
このケレン味の無いスッキリとした喉越しのトリオ(ミュージック)がこれから先も興味深い素材(=佳曲)を俎上に上げて、熟練の技で味わい深い逸品に仕立てて行ってくれることを切に願って止まない。そんなことを考えさせられた痛快なひとときだった。

#303 2月4日(土)

合羽橋 Jazz & Gallery なってるハウス
http://www.knuttelhouse.com/
宅’shoomy’朱美氏(vo/p)ソロライブ「朱と墨色のつぶやき」

如月四日、二十四節気では立春の今日、今年初訪問となった合羽橋なってるハウスにて宅’shoomy’朱美氏(vo/p)のソロライブを聴いた。聞けば、同所では5年程前のクリスマス・ディナーショー以来のソロ公演だという。
そんな今日の昼ライブのタイトルは、ズバリ「朱と墨色のつぶやき」
果たして、冒頭から時候を意識しての選曲か、〈you must believe in spring〉と〈spring can really hang up the most〉を一気に聴かせた後はB.ストレイホーン作品、D.ザイトリン作品をまじえつつ各種スタンダード曲から更にはA.C.ジョビン、C.ヴェローゾ、A.ピアソラ作品など迄を繰り出しながら、そこに盟友である加藤崇之氏作にshoomyさん自らが詞をつけた佳曲がいくつか効果的に差し込まれながら、これは私にはなんとも嬉しい選曲だった、かの古澤良治郎氏が愛した(と蜂谷真紀氏から紹介されて以来愛聴曲となった)〈that’s all i want from you〉迄飛び出した。趣味の良い幅広い曲想を題に採ったステージは「朱と墨色」の持つ落ち着いた色合いに加えて印象派の色彩感覚を持つカラフルな発色を得ると共に、この表現者特有の強靭さを秘めた淡く儚いトーンとテンポ感が「つぶやき」の枠に収まらない大きな世界観を表出してみせてくれたと言える。
総じて、感情の機微と季節の抒情が淀みなく丁寧に紡がれたそのステージは春の陽光の暖かささへ感じさせられるものだった。

#304 2月18日(土)
西荻窪 アケタの店
http://www.aketa.org/
「LUZ DO SOL」:渋谷毅 (p/cho) 平田王子 (vo/g) 

本業が繁忙を極め、年明けからかなりペースを落とし進むLAL〈Live after Live〉。遅まきながら今年初訪問となった西荻窪アケタの店にて、渋谷毅氏(P/Cho)と平田王子氏(VO/G)によるDUOユニット「LUZ DO SOL」を聴いた。
今宵は、このユニットにとって第一作品の「太陽の光」から12年、前作「やさしい雨」から4年振り通算5作目となる「雨あがり」リリースを終え、同盤にも参加した松風鉱一氏(TS/FL/SS)がゲストに迎えられたことから、謂わば実質的にはレコ発ライブの趣き。
これまで渋谷氏の数多い充実した表現活動の現場に触れて来た私にとっては初対面となる待望のユニットとの出逢いの夜であり、おおいなる期待を持ってアケタの階段を降り、開幕の時を待った。果たして、今宵のステージでは、平田氏のオリジナル数曲を交えながら新作に収録された佳曲の数々(中には渋谷・松風コンビの至高のハーモニーが絶品だった小野リサ・H.セルソ コンビ作品〈ボレロ・カンサォン〉や私の愛聴盤であるW.ネルソンの佳作盤表題〈the rainbow connection〉を含む)が披露されたが、先ずはお初となる平田氏の表現力の豊かさにおおいに驚かされた。優しく、密やかに、伸びやかに、そうして時にお茶目な表情を纏いながらこちら聴き人に迫るその往き方は一切の虚飾と外連(ケレン)を拝した自由と誠実さを貫き肩肘の張らない強靭さを描いて見せた。寄り添う渋谷氏もそんな平田氏から発っせられる柔らかな音の連なりの間に間にあって飄々としたこの方ならではの節回しを時に力強く、時に優雅に訥々と紡いで行く姿がなんとも印象的であった。そうしてゲストの松風氏であるが、これまで渋谷オーケストラなどでAS、BS、FLを手に取る場面に多く接して来た中で、今宵は多くの場面でTSを吹き込む展開となったが、これがまた聴き物であった。ハスキーでいて滋味深く含蓄のある抽象的なトーンで幾何学的なフレーズを織り重ねて行くその姿からは平田氏と渋谷氏という生成りのようにデリケートな生地を繋ぎこの日この刻を通して新たな風合いを持つ織布に仕立てて行く役割に徹しようとするかのような極めて奥ゆかしくも強く静かな意志のようなものさへ感じられた。総じて、A.C .ジョビン、J.ドナート、C.ヴェローゾ、E.ロヴォ等幅広くブラジル物の軽快なメロディとリズムが横溢したその柔らかな肌触りを持つ音創りの間からはまるで流れ行く清らかな水面の底に潜む鉱石の力強さのようなものが随所に見え隠れした。曲ごとの進行を場面ごとに和気藹々と決め込むやり取りもなんとも微笑ましく映ったこの稀代の策士達が描いた世界観は余りにもスリリングで深く重層的な情緒を帯び、溢れ出す音の流れに決して抗わない重心移動も洒脱なそのステージは如何にも噛み応えのある印象を強く受けるものだった。

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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