Reflection of Music Vol. 79 フェダイン(川下直広、不破大輔、大沼志朗)

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フェダイン(川下直広、不破大輔、大沼志朗)@メールス・フェスティヴァル1996
Fedayien (Naohiro Kawashita, Daisuke Fuwa, Shiro Onuma) @Moers International New Jazz Festival, May 26, 1996

Photo & text by Kazue Yokoi 横井一江


今年で第50回を迎えるメールス・フェスティヴァル、そこで最も観客を沸かせた日本人グループは渋さ知らズだ。ヨーロッパでは全く無名の彼らだったが、1998年に初登場し大成功する。その先駆けとなったのが、1996年のフェダインのステージだったと私は思う。

1996年は第25回ということで、大御所ファラオ・サンダースやデイヴ・ホランド、またデイヴィッド・マレイ、ジャマラディーン・タクマ、ネッド・ローゼンバーグやルイ・スクラヴィスなど錚々たる顔ぶれがプログラムに並んでいた。フェダインが登場したのは3日目の日曜日、クレイグ・ハリスがサン・ラを取り上げたプロジェクトに続いての2ステージ目だった。メールスの観客はシビアでダイレクトに反応する。気に入れば大いに盛り上げるが、気に入らなければさっさとテントから立ち去るという具合だ。概ね初登場や知らないバンドでも暖かく迎えるが、拍手とブーイングが同時に起こった場面にも私は遭遇している。ここでの最大の論客は聴衆なのだ。果たしてフェダインをどう評価するのか。一抹の不安がなかったとはいえない。しかし、川下直広が吹くサックスの音が会場に響き渡った時にそれは杞憂だったことに気がついた。彼らのスピード感と熱量のあるフリージャズは観客の耳を瞬く間に捉えたのだ。その時の客席での反応はライヴ録音『フェダイン/ライヴ!』(地底レコード B10F)からも窺える。

当日の演奏は、トリオ編成(川下直広(ss, ts, vln)、不破大輔(b)、大沼志朗(ds))で始まり、冒頭でブーカルト・ヘネンが「フェダイン・アンド・サプライズ」と紹介したように、中盤から北陽一郎(tp)、泉邦宏(as)、花島直樹(bcl)、カズ中原(g)、舞踏でゲッティンゲン在住の遠藤公義、星野建一郎が加わる。さらに客席に居る筈のスギゴチも舞踏に乱入していた。後半はマルチメディア・ショーだったのは渋さ知らズでステージに立つための戦略だったのかもしれないと後から思ったくらいだ。実際、当時メールスに日本人ミュージシャンを紹介していた副島輝人に不破は渋さ知らズで来たいと言う。さすがの副島も大人数の渋さ知らズだけに二つ返事とはいかず、考え込んだことは想像に難くない。だが、物事はよい方に動き、1998年に渋さ知らズがメールス に出演するのである。

フェダインについて少し書いておこう。川下も不破も80年代半ばから活動しているのなか悟空&人間国宝結成時のメンバーだった。のなか悟空の破天荒ぶりはそのパワープレイのみならず、シルクロードやアフリカ、中南米をドラムセットを担いで旅をしたツワモノとしても知られている。川下と不破の二人はのなかとの活動でフリージャズ・シーンに出てきたと言って過言ではない。1986年に不破は川下、近藤直司グループにいた大沼を誘ってトリオでの演奏を始め、2年後からはフェダインというグループ名で活動を続け、2000年に解散する。フェダインのエネルギッシュで粘りのあるプレイはフリージャズ本家帰りのようでさえあった。三者三様の持ち味、川下のフリーでありながらも歌ゴゴロを湛えるサックスにノイズを孕んだエレクトリック・ヴァイオリン、パワフルで切れのよいドラムスの大沼、響きの良い不破のベースはサウンドの方向性を導き出す。ダンドリストとして渋さ知らズを差配するだけある。

フェダインが最初にリリースしたCD『ファースト』と南正人との共演盤『ジョイント』が地底レコードから4月25日に再発される(→リンク)というので、20年以上前のことを思い返しつつ、久しぶりにフェダインのCDを聴き直した。耳を傾けながら、この濃さは日々のライヴ・シーンから立ち上がってきた音だな、とコロナ禍の今つくづく思ったのだ。

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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