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Reflection of Music 横井一江No. 279

Reflection of Music Vol. 79 田村夏樹

Koen-Dori Classics, Tokyo, July 10, 2018

田村夏樹 @ なってるハウス 2003、公園通りクラシックス 2018、JAZZ ART せんがわ 2019
Natsuki Tamura @Knuttel House, December 15, 2003, Koen-Dori Classics, Tokyo, July 10, 2018, and JAZZ ART Sengawa, September 12, 2019
Photo & text by Kazue Yokoi 横井一江


田村夏樹が7月に古希を迎えるという。彼の存在を知ったのは、藤井郷子と共に帰国し、日本での活動を本格化した頃だから、たぶん1990年代終わり頃である。

そもそも藤井のオーケストラ活動に興味を持ったことがきっかけだったので、最初は彼女の活動を通して彼の演奏に触れていた。トランペットの音色が好みだったこともあって、オーケストラ以外のプロジェクトも自然と聞くようになっていく。そのような中で驚かされたのは、1997年録音のトランペット・ソロCD『A Song for Jyaki』(Leo Records) を聞いた時だ。トランペッターでフリージャズを演奏するミュージシャンは色々いる。だが、録音されていた即興演奏は特殊奏法をも駆使したフリージャズとも旧来のインプロともいささか異なる「フリープレイ」だったからだ。田村の活動は、藤井とのデュオやバンドやユニットに限らず、様々な即興演奏のセッションにも参加していて、その活動範囲は広い。彼独自の拡張されたトランペット奏法から、日本にもアクセル・ドゥナーのような演奏家がいるのだなとふと思ったのである。そして、それは『KoKoKoKe』(2003年録音)という2作目のソロCDを聴いてさらに強くなったのだった。アクセル・ドゥナーの場合は即興音楽シーンでの活動がより際立っていて、田村の場合は藤井との様々なユニットでの活動の印象が強いという違いはあるが。

2004年頃から活動を続けている田村自身のユニットに「ガトー・リブレ」がある。当初は田村・藤井にギターの津村和彦とベースの是安則克でスタートした。このユニットでは藤井はピアノではなく、アコーディオンを弾いている。どこかエスニックで無国籍な感じが漂うのだが、懐かしさを誘うメロディー、街角の物語を聴き手の記憶から引き出すような浮遊するサウンドが好きだった。メンバーだった是安が2011年に亡くなり、トロンボーンに金子泰子が加わった。しかし、津村も2015年に亡くなり、現在は3人で活動を続けている。編成が変わったことで、バンドの表情も変わった。だが、異界に誘うような不思議な感覚は変わっていない。これまで何枚もCDをリリースしているが、いずれもジャケットに猫が描かれている。人間界の狂騒を冷ややかに眺めつつ、路地裏に消えていく猫の姿と、田村の人となりがふと重なる。

古希を迎えるにあたって、再びソロCDをリリースした田村、タイトルはそのものズバリ『古希ソロ』(Libra) だった。コロナ禍らしく自宅防音室での録音だが、余すところなく彼のトランペットを聞かせてくれる。それだけではなく、「一人三役やっちゃいました‼︎」と防音室には持ち込めないドラムセット代わりに持ち込んだ台所用品(中華鍋やボウル)をそれに見立てて叩いたり、ヴォイスを発したり、歌らしきものを口ずさんでみたり、ピアノまで弾きはじめる、と実にやりたい放題。それがなんとも楽しげでいい。果たして、喜寿には何を聞かせてくれるのだろうか。

JAZZ ART Sengawa, September 12, 2019

 

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横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。ドイツ年協賛企画『伯林大都会-交響楽 都市は漂う~東京-ベルリン2005』、横浜開港150周年企画『横浜発-鏡像』(2009年)、A.v.シュリッペンバッハ・トリオ2018年日本ツアー招聘などにも携わる。フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)、共著に『音と耳から考える』(アルテスパブリッシング)他。メールス ・フェスティヴァル第50回記。本『(Re) Visiting Moers Festival』(Moers Kultur GmbH, 2021)にも寄稿。The Jazz Journalist Association会員。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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