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GUEST COLUMNNo. 318

セルジオ・メンデス追悼 by 星野秋男

text by Akio Hoshino 星野秋男

セルジオ・メンデスが亡くなった。享年83、昔と違って今だったら「老衰」とは言わないのではないか? 死因はコロナらしい。彼は若い頃にはジャズメンとよく共演したが、次第にポップ化しジャズから離れたので、ファンによってはセルメンを軽んじるムキもあったが、そこらのジャズメンやポップスターを寄せ付けない鋭いセンスを持っていた。特に 「アレンジ」 能力が素晴らしかった。平凡な曲がセルメンのアレンジで驚くほどフレッシュに生まれ変わった例が少なくない。

皆さんもぜひ耳を傾けてもらいたいものだ、あらためて見直すに違いない。例えば1968年の <フール・オン・ザ・ヒル> だ。ビートルズのこの曲がポップでオシャレ、都会的なボサロックに生まれ変わっている。まるで原曲とは別の曲のようだ。



1966年の <スカボローフェア> はサイモン&ガーファンクルの素朴なフォークタッチの曲で、フォークギターのアルペジオを活かした演奏が印象的だが、セルメンによって心地良いポップなBGMに生まれ変わっている。間奏部分で出て来るセルメンのエレピ・ソロが信じられないくらいカッコイイ。マッコイ・タイナーでは思いつかないアドリブだ。アレンジが原曲を上回っている。ジョルジュ・ベン作曲で土臭くねちっこい曲の土着的な <マシュケナダ> も1966年のセルメン・アレンジによって明るくスッキリ、ポップでリズミックなボサロックに変身した。

セルメンについて私は妙な思い出がある。『リターン・トゥ・フォーエバー』 がはやった当時、そのバンドを見に東京のライブに行ったことがあるのだ。当時、確かボーカルのフローラ・プリムを含む編成だった。しばらく演奏が続いた頃、いきなりチック・コリア目掛けてトマトが投げ込まれたのだ。「ふざけるな、真面目にやれ、セルメンなんか聴きに来たんじゃねえぞ」 という大声のヤジが飛んだのだ。ビックリだ。ラテン・フュージョン的な演奏だが、まさかベニー・ゴルソンのような演奏を期待して来た訳でもあるまいにと、騒動を残念に感じた記憶がある。

セルメンの名アレンジは <デイ・トリッパー> 他まだまだあるが、セルメンに続いてアレンジが素晴らしいのがカーペンターズだ。あらゆる曲が妹カレンの優しい声にかかると癒しの歌に変わる。アレンジの力とカレンの圧倒的な歌唱力のセットがこのグループの武器だ。レオン・ラッセルの激しい歌唱の <ソング・フォー・ユゥ> も1972年カレンが歌うとバラードだ。同じくレオン・ラッセルの <マスカレード」>も本人が歌うよりもカレンが歌ったほうが全然カッコイイ。 

<プリーズ・ミスター・ポストマン>をビ-トルズの曲と思い込んでいるファンがいるようだが、1961年の黒人女性グループ「マーベレッツ」が初出だ。1974年、カレンはR&Bのこの曲を明るく快活でポップな歌に変えた。他にも <涙の乗車券> や <ヘルプ>、<トップ・オブ・ザワールド>、<ジャンバラヤ>などカーペンターズの名アレンジは多い。

1966年にシュープリームスが歌ったポップなR&B曲を翌1967年にバニラ・ファッジがバンド演奏したアレンジも凄い。重厚なプログレシブ・ロックに激変しているのだ。原曲とイメージがまるで違う別の曲のように聴こえる。カッコイイ。

バニラ・ファッジには他にかっこいいアレンジが全く無いので、この時だけの奇跡だったのだろう。

1964年にニーナ・シモンが歌ったバラード<悲しき願い>は翌1965年にアニマルズがロック的に歌ってヒットしたが、何と12年後にリバイバル・ヒットさせたのがダンスバンドのサンタ・エスメラルダだ。フラメンコやラテンの風味を加え大幅にディスコ・ミュージックに変えているのが意表を突いている。なお、日本では尾藤イサオも1964年にこの歌をヒットさせているのでご存じの方も多いのではないか? そう、あの ♫誰のせいでもありゃしない~、みんなオイラが悪いのさ~、と歌っているアレである。

最後にもう1曲だけ紹介しよう。アメリカの白人男性歌手フランキー・ヴァリが1967年に歌ってヒットした<君の瞳に恋してる>は1982年にリバイバル・ヒットとなったのだが、これはアレンジと言うより視覚的要素の強調が大きい。新録音は「ボーイズ・タウン・ギャング」というグループによってなされたのだが、メンバーは、白人男性ダンサー2人、黒人女性ボーカル1人という奇妙な編成なのだ。そして男性2人は全く歌わず踊るだけ、当時としてはかなり珍しい編成だ。ライブでパフォーマンスを見せるのがポイントらしい。オリジナルよりずっと派手な画面になっている。動作がユニークなのが見どころだ。音だけよりも動画で楽しむべきユニットだ。

以上、どの曲もYoutube にあるので、ぜひ実際に視聴してアレンジの凄さを実感してもらいたい。


星野秋男
1950年、東京生まれ。横浜在住。中央大学法学部法律学科卒。元地方公務員で30歳から副業でライターをしている。主な著作は『ヨーロッパ・ジャズ黄金時代』(青土社)、趣味は海外旅行、シリアを始め13ヶ国を旅行。生物飼育、庭の池で4000匹の魚を飼っている。植物栽培、巨大鉢植を200鉢栽培している。スパゲティ・カルボラーナ等、料理は得意。最も好きなミュージシャンは、マイルス・デイヴィス、チック・コリア。

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