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特集『ECM: 私の1枚』

及川公生『Keith Jarrett / Dark Intervals』
『キース・ジャレット/ダーク・インタヴァルス』

キース・ジャレットが3時きっかりに到着。早速、ピアノに向かいリハーサルを始めた。その瞬間から、ピアノは、あの『ケルン・コンサート』を彷彿とさせる音で、サントリー・ホールを充満し始めた。モニター・スピーカーからも、私の脳裏にある、あのサウンドに近いものが流れている。アイヒャーも楽屋に来て、その音を確かめながら、お互い顔を見合わせ、うまくいっている!という表情を見せる。とはいえ、これで満足ではない。私のミキシングのバランスに、一つ一つアドバイスを加えていく。「もう少しホールのアンビエンスを増やせ!いや、減らした方がいいか!客席後部のアンビエンスはもっと減らせ!」さらに「オン・マイクのショップスのパンポットはどうなっている?それをもっとアップしよう!」そして、遂にヌッ!と手が出た。ちょっとEQをしよう!アイヒャーの、そのテクニックに、あのECMのサウンドの秘密が浮き上がっていく。ECM独特のサウンドは、アイヒャーの音でもあるのだ。
アイヒャーの指示はデジタル録音のレベル設定にも及ぶ。PCM1630のレベルのフレを見ながら、もっとインプットのレベルを上げてもいいのでは!と細かく指示をしてくる。マージンはどれくらいに設定しているのか?コンソールのピークマージンはどのくらいか?技術的な面まで細かく聞いてくる。私は、これで神経が参ってしまった。緊張とアイヒャーのこと細かな指示に喉はカラカラ。本番、コンサートの開始前にもうダウンしそう。その私の緊張を見てとったか、「そんなに緊張すると音楽の姿が見えなくなるぞ!」私にとって最良のアドヴァイスはこの言葉だった。(『及川厚生のサウンド・レシピ』ユニコム 1998より抜粋)


ECM 1379

Keith Jarrett (Piano)

1 Opening (Keith Jarrett) 12:51
2 Hymn (Keith Jarrett) 04:55
3 Americana (Keith Jarrett) 07:10
4 Entrance (Keith Jarrett) 02:54
5 Parallels (Keith Jarrett) 04:56
6 Fire Dance (Keith Jarrett) 06:50
7 Ritual Prayer (Keith Jarrett) 07:10
8 Recitative (Keith Jarrett) 11:16

Recorded April 1987, Suntory Hall, Tokyo
Engineer:Kimio Oikawa
Produced by Manfred Eicher

及川公生

及川公生 Kimio Oikawa 1936年福岡県生まれ。FM東海(現 東京FM)技術部を経て独立。大阪万国博・鉄鋼館の音響技術や世界歌謡祭、ねむ・ジャズ・イン等のSRを担当。1976年以降ジャズ録音に専念し現在に至る。2003年度日本音響家協会賞受賞。東京芸術大学、洗足学園音楽大学非常勤講師を経て、現在、音響芸術専門学校非常勤講師。AES会員。

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