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特集『ECM: 私の1枚』

脇 義典『Steve Kuhn / Promises Kept』
『スティーヴ・キューン/プロミセズ・ケプト』

ECMの作品群が七十年以降のジャズの方向性を定めるのに極めて重要な役割を果たしたことは誰しも認めるところだろう。キース・ジャレット、チック・コリア、デイヴ・リーブマン、デイヴ・ホランド、リッチー・バイラーク、ゲイリー・バートン、パット・メセニーなど錚々たるアーチストの重要な作品を挙げるとそれこそキリがないし、その中から一枚をと言われても無理である。またそうした有名なアルバムを推す人は他にいくらでもいるに違いない。そこでわたしは自分の個人的な趣味で一枚選ぼうと思う。

これまでフルオケと共演したことは何度かあるが、わたしはシンフォニックジャズに特別な興味がある。そうした音を追求した人にサード・ストリームのガンサー・シュラーのほかJ・J・ジョンソン、クラウス・オガーマン、ヴィンス・メンドーサ、ジェフ・ビールなどがいるが、実はなかなかこれといった名盤がない。綿密に書かれるべきオケパートとジャズの即興性という相反する要素を融合させるのがいかに難しいかということなのだろう。また逆にそこがアレンジャーの腕の見せ所である。

その意味でスティーヴ・キューンの『プロミセズ・ケプト』(2002年録音)は大変面白かった。協奏曲的にソリストとオケが対峙する、或いはビッグバンドのようにヘッド、ソロ回し、ソリといった明快な構成を取るのでなく、ピアノとストリングスが最初から最後まで寄り添うように音を紡いでいく。メインストリームのジャズの即興を期待する向きにはちょっと物足りないだろうし、またクラシックファンにもどうにも捉え所のない音楽に聞こえてしまうかもしれないが、そういうジャンルの境界を跨ぐ音楽はECMの真骨頂でもあり、その意味では極めてECMらしい一枚と言えるのではないだろうか。


ECM 1815

Steve Kuhn (piano)
Krista Bennion Feeney, Elizabeth Lim-Dutton, Richard Sortomme, Karl Kawahara, Barry Finclair, Helen Kim, Robert Shaw, Carol Pool, Anca Nicolau (violins)
Sue Pray, Vince Lionti, Karen Ritscher (violas)
Stephanie Cummins, Richard Locker, Joshua Gordon (cell0)
Carlos Franzetti (conductor)
David Finck (bass)

Recorded June and September 2002 at Edison Studios, New York
Recording engineer: Gary Chester
Assistant: Yvonne Yedibalian
Remix and mastering by Jan Erik Kongshaug and Manfred Eicher at Rainbow Studio, Oslo
Recording producer: Arthur Moorhead


Photo: Kasia Idzkowska

脇 義典 / Yoshi Waki わきよしのり
ベーシスト、作編曲家。福岡県出身。二十歳でベースを弾き始め、東京で活動した後、1996 年にバークリー音楽院に留学。卒業後ブロードウェイミュージカル「フォッシー」のナショナルツアーカンパニーに参加し全米及び日本を二年にわたり楽旅。以後ニューヨークを拠点として様々なジャズグループと活動中。
これまでにアーティ・ショー・オーケストラ、アート平原、ウィリアム・ギャリソン、ヴィクター・ジョーンズ、ケニア、サム・ディロン、ジョン・ディ・マルティーノ、タイガー大越、ダニー・ウォルシュ、ダン・ゼインズ、デボラ・ハリー、パキート・デリヴェラ、ハリー・ウィタカー、ビョーケストラ、ビル・ウェア、ランディ・ジョンストン、リチャード・ストルツマン、大野俊三、加藤登紀子、山中千尋等と共演歴あり。参加レコードのうち、ダン・ゼインズ「キャッチ・ザ・トレイン!」がグラミー賞を、山中千尋「アフター・アワーズ」が日本ゴールドディスク大賞をそれぞれ受賞している。

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