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特集『ECM: 私の1枚』

Saigenji『Eberhard Weber / Colours of Chloë』
『エバーハルト・ウェバー/カラーズ・オブ・クロエ』

「フォークロア的感覚」というものが好きだ。
でもその言葉に付き纏う素朴、とか民族的な、とかそういう感じとはちょっと違うもの、言葉にするとなんだろう、より直感的であるとか、霊感的である、とか、アーシーである、とかそんな類のもの。
自分の感覚でいえば例えばマイルスのSo whatやローランド・カークのフルートなどは「フォークロア」的である、となる。
もともと筆者はフォルクローレと呼ばれる南米の民俗音楽から音楽にのめり込んだ。10歳前後の時である。南米のフォルクローレは言ってみれば「フォークロア的」な感覚の宝庫であるが、全てがそういう訳ではなく、お土産的な音楽もあれば、ポップスと言っていいもの(ポップスにも色々あるが)など、玉石混淆だ。

さて表題のアルバムである。自分がECMの中で一番最初にのめり込んだメモリアルなアルバムであり、このアルバムの全体に横溢する「フォークロア」的なアーシーさは、自分がその時音楽に渇望している何かがあった。ウェーバーのベースは時にはシタールのように、全体を支える、というよりは”デザインしている”という風に聴こえる。そしてピアノの瑞々しい疾走はオーセンティックなビバップ、ポストビバップ的なjazzとは明らかに違う何かを湛えている。何よりもその楽曲の物語の豊かさ、そしてチェンバーミュージックも内包する嫌味のないインテリジェンスが外連味なく心地よい。まあ自分などが言うことでもないが名作であろう。

おそらくここまで読んでサイゲンジといえばブラジル音楽だろ、と思われている向きには少し意外かもしれない。正直に告白すると自分が日常聴いている音楽の9割はJazz、残り1割が色んな国の民俗音楽やポップス(ブラジル音楽を含む)である。表向きはブラジル音楽の体裁で音楽をやってるけど、インスピレーションのほとんどはjazzか民俗音楽である。
例えばブラジル音楽の中で「フォークロア的感覚」に溢れているものの代表、それは自分にとってはミルトン・ナシメントやトニーニョ・オルタに代表されるミナスMinasの音楽である。自分がブラジルの中で最も影響を受けたのもやはりミナスの音楽(自分はミルトンを聴いて歌いはじめたのだ。)。
このウェーバーの音楽そしてECMの数多のアルバムに通底するフォークロア的感覚とミルトンなどミナスの音楽の共通点をあげるにやぶさかでないリスナーは少なくないと思う。

実は今自分は新しいアルバムを準備している。「Cover&Instrumentals」というタイトルで、今までライブで大切に歌ってきたカバー曲と、作り溜めていたギターやヴォーカリーズのインスト曲のカップリングアルバムだ。
カバーは件のミルトンや沖縄民謡、ブラジル音楽のスタンダードなどであるが、やはりフォークロア的な感覚を念頭に置いている。
インスト曲に至ってはフォークロア的な感覚のものしかない、といって差し支えない。

もともと香港とか沖縄とかを転々としてきた自分にとって、フォークロア的なものは憧れと脳内のイメージであるともいえる。それはノマドが憧れても持てないふるさとのようなものでもある、といえようか。


ECM 1042

Eberhard Weber (Bass, Cello, Ocarina)
Rainer Brüninghaus (Piano, Synthesizer)
Peter Giger (Drums, Percussion)
Ralf-R. Hübner (Drums)
Ack van Rooyen (Flugelhorn)
Cellos of the Südfunk Symphony Orchestra, Stuttgart Orchestra

Recorded December 1973, Tonstudio Bauer, Ludwigsburg
Engineers: Kurt Rapp and Martin Wieland
Produced by Manfred Eicher


Saigenji   さいげんじ
シンガーソングライター、ギタリスト&ヴォーカリスト、インプロヴァイザ-。1975年生まれ。沖縄〜香港〜東京育ち。 9才の時に独学でケーナを始め音楽人生をスタート。幼少期より馴染み培った南米フォルクロ-レやブラジル音楽の影響を核にsoulやjazz、hiphopなどありとあらゆる音楽を飲み込み、表現するシンガーソングライター。ギタリスト&ヴォーカリスト、インプロヴァイザ-。
声、ギター、フルートなどを自在に操り、卓越した技術とセンスに裏付けられたパフォーマンス、そして圧巻のエネルギーで観た者を惹きつける。またシンガーソングライターとして、ハイブリッドかつボーダーレスな観点から生み出される詞曲は国内外多方面で高い評価を受けている。アルバム13枚発売、最新作は初のオフィシャル二枚組ライブ盤Live “Compass for the future”。
公式ウェブサイト saigenji.com

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