Interview #213 「福盛進也〜レーベル・オーナー、プロデューサーとして」
福盛進也 Shinya Fukumori
drummer, band-leader, composer, producer & label owner
1984年、大阪生まれ。17歳で渡米、 Brookhaven College、the University of Texas を経てボストンの Berklee Collegeで音楽の専門教育を受ける。ミュンヘンに移住後、2018年、アイヒャーのプロデュースにより『For 2 Akis』(ECM2574) でデビュー。今秋 (2020年)レーベル nagaluを立ち上げ、第1作『Another Stroy〜月・花』を King Internationalより発売。
nagalu
https://www.nagalu.jp/
Interviewed by Kenny Inaoka 稲岡邦彌 at King Records, November 27, 2020
Photos: yuma maehara
Jazz Tokyo:福盛さんはECMからリリースの『For 2 Akis』に続いて2度目の登場ですが、今回はレーベル・オーナー、プロデューサーとして、ということですね。 まずは、nagalu というレーベル名から。
福盛:nagalu は日本語の「流る」からきています。父親から「水は流れているから澱まないんだ」ということを聞かされて育ちまして。
JT:「流水不腐」という言葉が使われていますね。これは文字どおり、流れている水は腐らない、と理解してよろしいですか?
福盛:そうですね。父親が「流水不腐」という言葉を使っていたわけではないのですが、四字熟語にまとめるとそういう言葉になります。
JT:鴨長明の「方丈記」の冒頭の一節「ゆく川の流れは絶えずしてしかも元の水にあらず」を思い出しました。こちらは仏教観に基づくいわゆる「無常」をあらわしたものですが。
福盛:そういう意味合いもありますね。1箇所にとどまっているのが嫌いでつねに進んでいたいのです。
JT:楽曲のタイトルにも古風な名前が散見されますが、古典が好きなのですか?
福盛:そういうわけではないのですが、なんとなく雰囲気で。
JT:リーダー作を1枚出したミュージシャンがすぐレーベルを持つということはあまり例がないのではと思いますが。
福盛:音楽を志した18歳の頃からいずれはレーベルを持って自分の考える音楽を発信していきたいと思っていました。幸い、キング・インターナショナルの理解を得て、レーベルをスタートさせることができました。
JT:日本やアジアの音楽を世界に向けて発信するためにもレーベルと。
福盛:そうですね。アメリカとヨーロッパで生活してきて、やはり日本人としてのアイデンティティを強く感じるのですね。それと日本のミュージシャンと共演して世界に通用するミュージシャンが多いことを知りました。韓国のミュージシャンとも共演して欧米のミュージシャンに感じる違和感がまったくないことを実感しました。いわゆる肌合いというのか、同じなんですね。それなら日韓のミュージシャンで協力しあって世界に向けて発信していこうと。
JT:去年、錦糸町で日韓のミュージシャンが集うイベントがありましたね。日韓の民謡などをベースに即興演奏が展開されてとても心に響きました。
福盛:「East meets East」ですね。僕と韓国のソンジェ・ソンの共同プロデュースでした。
JT:ソンジェ・ソンはECMから『Near East Quartet』(ECM2568, 2018.8.31)をリリースしたサックス奏者でしたね。やはりECMから『Lua ya』(ECM2337, 2013.8.23)をリリースしたヴォーカルのイエウォン・シンも参加してさながら日韓ECMフェスのようでもありました。
福盛:イエウォンはミュンヘンからの参加でした。
JT:そもそもこのフェスをベースにした日韓のミュージシャンによるアルバムでnagaluをスタートさせる予定でしたよね。
福盛:その通りです。しかし、コロナ禍で日韓の往来が不可能になり、僕も3月に帰国したまま日本で足止めを食うはめになり予定を変更しました。逆に日本のミュージシャンとの接触の機会が多くなり、日本のミュージシャンのアルバムでレーベルをスタートさせることにしたのです。
JT:禍転じて福となす、というか。しかし、この『Another Story』に参加したミュージシャンもECM系でくくれそうですね。
福盛:皆、ECMに関心を持っていますね。とくに、ピアノの林正樹はじめギターの藤本一馬などもECMの大ファンですね。
JT:今回は、いつものプレイヤー、コンポーザーにレーベル・オーナー、プロデューサーとしての立場が加わりますからかなりのプレッシャーではなかったのですか?
福盛:役割が変わっても音楽へのアプローチは自分の中では同じで。だからこそプロデューサー、コンポーザーとしては曲単位でプレイヤーとしての「福盛進也」が必要かどうかを見極めていました。
JT:プロデューサーに徹する場合、代わりのドラマーはどうなんですか?
福盛:現状ではみつかっていないですね。僕としてはドラムを叩かなくてもいいんですが、僕が願うような形でドラムを叩いてくれるドラマーが見つからないので。
JT:いわゆるオープン・リズムですよね。そういえば、富樫(雅彦)さん以来、聞きませんね。
福盛:日本人では富樫さんは好きです。
JT:そもそもビートは叩かないんですか?去年の暮れでしたか、大阪で山下洋輔さんと共演していますよね。
福盛:もちろん、がっつり叩きましたよ。エルヴィン・ジョーンズ大好きですから。
JT:エルヴィンもガンガンいくだけでなくとても繊細ですよね。
福盛:そうですよ。
JT:富樫さんもラテン大好きでした。自宅では<アマポーラ>のような甘いラテンをBGMで小さく流してました。12月発売のGreat 3では<ビギン・ザ・ビギン>のリズムを指で叩いています。
福盛:聴いてみたいですね。
JT:ひとつ今度の新作で大きなポイントになるのがモノラル録音ということですね。レコード業界でステレオが主流になってすでに5,60年経つわけですが、どうして2020年の今、モノラル録音なのですか?
福盛:じつは僕は生来、左耳が不自由で右耳だけで音を聴いてきたのです。そこで普段僕が聴いている音環境と同じ環境で皆さんに聴いてもらおうと思いあえてモノラル録音・モノラル再生にしました。
JT:ミュージシャンに難聴が多い事実は認識しています。いつも大音響にさらされているための一種の職業病でしょうが、生来片耳が不自由というミュージシャンは初めてです。打ち合わせの時に福盛さんが座席の位置を気にしていることは承知していましたが。
福盛:左耳はまったく聴こえません。
JT:録音では何か問題がありましたか?
福盛:一番の課題はピアノをどれだけクリアに響かせられるか、ということでした。林正樹と共に何度も試行錯誤し、エンジニア高橋さんの素晴らしいミックスのお陰もあり納得できる音に仕上がりました。
JT:もうひとつの特徴はパッケージにもこだわりがあるということですが。
福盛:今や音楽伝達の主流は配信やストリーミングになりつつあります。僕はやはり音楽を送り手から聴き手に手渡しで届けたいという気持ちがあって、手紙のやり取りをイメージしたパッケージにしました。
JT:ありものではなくオリジナルですか。
福盛:オリジナルです。紙質も温もりの感じられるものをデザイナーの佐藤ゆめさんが選んでくれました。
JT:表紙の花は都忘れですか?
福盛:シオン(紫苑)ですね。佐藤ゆめさんが選んでくれたのですが、花言葉が「遠方にある人を思う」とか「君を忘れない」だそうで、それもイメージに合っているということです。
JT:プロモーション用のPVも完成したそうですが。
福盛:前原佑柾 さんという映像作家に動画をお願いしたのですが、keshiki というサイトを立ち上げそこから配信します。
JT:海外でのディストリビューションはどうですか?
福盛:欧米とも配信、ストリーミングが主流になってしまいましたが、すでに興味を示してくれるレーベルも出てきました。
JT:今後の活動ですが、プレイヤーとプロデューサーの比率はどんな感じになるのでしょう。
福盛:僕のイメージするドラマーが現れれば僕は演奏をやめてもよいと考えています。自分の考えている音楽を形にしたいという欲求が強いのです。
JT:そうですか...。福盛さんの演奏はそれはそれで聴き続けたいというファンは多いでしょうが。まずは、コロナ禍が終息して日韓の往来ができるようになるといいですね。
福盛:早くそうなることを念願しています。
*販売サイト
https://www.keshiki.today/product-page/anotherstory
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