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No. 215ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報

連載第10回 ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報

text by シスコ・ブラッドリー (Cisco Bradley)
translated by 齊藤聡 (Akira Saito)

スウィート・バンディットリー Sweet Banditryは、ルイーズ D.E.ジェンセン Louise D.E. Jensenをリーダーとして、ギタリストのブランドン・シーブルック Brandon Seabrook、ベーシストのトム・ブランカート Tom Blancarte、ドラマーのケヴィン・シェイ Kevin Sheaからなるカルテットである。彼らのデビュー盤『Farvefisen Blomstrer』(Marsken)は2014年に出されたのだが、間違いなく、もっと注目されていい作品だった。ここでジェンセンは、詩の引用(ジェンセンの母語であるデンマーク語で)から、激烈で忘れ難いヴォーカルや叫びまでを、また、焼け焦げるようなサックスとフルートのソロを披露する。シーブルックはニューヨークでもっとも過小評価されているギタリストのひとりだが、この煮立った大釜のようなサウンドに、1990年代的とも言える美学とパンクとを加味している。ブランカートとシェイとが寄せては返すダークエネルギー波を創出し、その大騒乱があってこそ、ジェンセンとシーブルックとが浮かび上がって足場を固め、絡み合い、閃光を放つのである。少々へヴィーな音楽ではあるが、ときに優しさや郷愁さえも漂っていて、楽しさが迫りくるとき、メロディーを大波として動かすのである。ジェンセンはエレクトロニクスも使い、それにより広がる情感がリスナーに訴えかける。スウィート・バンディットリーは、騒々しく苛烈なフリージャズとしても、またアヴァン・ロックとしても、魅力あるバンドだ。

Sweet Banditry (L to R: Kevin Shea, Tom Blancarte, Louise D.E. Jensen and Brandon Seabrook), photo taken by Nikki DiAgostino Sweet Banditry (L to R: Brandon Seabrook, Louise D.E. Jensen, Kevin Shea and Tom Blancarte), photo taken by Peter Gannushkin 『Farvefisen Blomstrer』

 

ダニエル・レヴィン Daniel Levin

チェロ奏者ダニエル・レヴィンのカルテットが、6枚目(Clean Feedレーベルからは4枚目)となるアルバム『Friction』を出した。またしても、同世代の中で頭一つ抜けた存在であるトランぺッターのネイト・ウーリー Nate Wooleyと、ニューヨーク・シーンの屋台骨たるヴィブラフォン奏者のマット・モラン Matt Moranとをフィーチャーしている作品だ。レヴィンはさらに、ポスト・バップにおいてもアヴァンギャルド・ジャズにおいても影響力のあるスウェーデンのベーシスト、トビョルン・ゼッターバーグTorbjorn Zetterbergを起用した。その結果、8曲にわたり、揺れ動き、ときにミニマリストの探求のようでもあるサウンドが出来上がった。音楽の中心には、反響するような静寂があり、鍛錬されたミュージシャンたちがそこに生命を吹き込んでいる。モランは巧みであり、デュエットの間も相手を威圧することがない(ちょっとでも間違えたらバランスを崩してしまうものだ)。偶然的感覚がアルバム全体を覆っており、それがリスナーを励起する。ウーリーのトランペットは軽く、印象的であり、ミュートをかけて透き通るような美しいソロを取る。ゼッターバーグは、メロディー、ソロ、アンサンブルを通じて底流を創り出し、緊張感を保つ。この魅惑的なグループにあって、レヴィンはこれまでにないほど微妙な演奏を行い、黒や藍色のキャンバスに丹念にサウンドを塗り重ね、ダークフィニッシュに仕上げているのである。このアルバムはミュージシャンたちの長い修練の賜物たる名人芸であり、2015年のベストの1枚だと言うことができるだろう。

L to R: Daniel Levin, Nate Wooley, Matt Moran and Torbjorn Zetterberg, photo by Joachim Ceulemans (Levin) and Peter Gannushkin (the others) 『Friction』

 

2015年のベスト・アルバム

1. マタナ・ロバーツ Matana Roberts『Coin Coin – Chapter Three: River Run Thee』 (Constellation)
http://diskunion.net/portal/ct/detail/XATW-00135015
2. ティム・バーン(スネークオイル) Tim Berne’s Snakeoil『You’ve Been Watching Me』 (ECM)
http://archive.jazztokyo.org/column/jazzrightnow/007.html#01
3. イングリッド・ラウブロック(アンチ・ハウス) Ingrid Laubrock’s Anti-House 『Roulette of the Cradle』 (Intakt)
http://archive.jazztokyo.org/column/jazzrightnow/006.html#02
4. クリス・ピッツィオコス Chris Pitsiokos『Gordion Twine』 (New Atlantis)
http://archive.jazztokyo.org/five/five1224.html
http://archive.jazztokyo.org/column/jazzrightnow/005.html#02
5. ミシェル・アシラー&アイヴィン・オプスヴィーク Michelle Arcila & Eivind Opsvik『A Thousand Ancestors』(Loyal Label)
6. トマ・フジワラ(ザ・フック・アップ) Tomas Fujiwara & the Hook Up『After All Is Said』(482 Music)
http://archive.jazztokyo.org/five/five1203.html
http://archive.jazztokyo.org/column/jazzrightnow/003.html#02
7. ダニエル・レヴィン Daniel Levin『Friction』(Clean Feed)
本コラム
8. ベン・スタップ(ザ・ゾジモス) Ben Stapp & the Zozimos『Myrrha’s Red Book, Acts 1 & 2』(Evolver)
9. ミッコ・イナネン、ウィリアム・パーカー、アンドリュー・シリル Mikko Innanen with William Parker & Andrew Cyrille『Song for a New Decade』(TUM)
http://archive.jazztokyo.org/five/five1216.html
http://archive.jazztokyo.org/column/jazzrightnow/002.html#02
10. シークレット・キーパー Secret Keeper『Emerge』(Intakt)
http://archive.jazztokyo.org/column/jazzrightnow/002.html#02

2015年のベスト・ライヴ

1. トーマス・ボーグマン、マックス・ジョンソン、ウィリ・ケラーズ Thomas Borgmann Trio with Max Johnson, Willi Kellers @New York Tenor Saxophone Festival / Ibeam、1月31日
2. チェス・スミス、クレイグ・テイボーン、マット・マネリ Ches Smith/Craig Taborn/Mat Maneri @New Revolution Arts、1月16日
3. ネイト・ウーリー Nate Wooley(ケネス・ガブロ Kenneth Gaburoに捧げたソロ)(For Kenneth Gaburo) @Wild Project、1月19日
http://archive.jazztokyo.org/column/jazzrightnow/001.html#02
4. ウィリアム・フッカー、ジェームス・ブランドン・ルイス、アダム・レーン(ゲスト ジナー・パーカー) William Hooker Trio with James Brandon Lewis, Adam Lane, and guest Jinah Parker @Firehouse Space、10月3日
http://archive.jazztokyo.org/column/jazzrightnow/009.html#02
5. VAX(パトリック・ブレイナー、リズ・コサック、デヴィン・グレイ) VAX: Patrick Breiner, Liz Kosack, Devin Gray @New Revolution Arts、2月27日
6. タニヤ・カルマノーヴィッチ&マット・マネリ(デュオ) Tanya Kalmanovitch-Mat Maneri Duo @JACK、7月26日
7. トマ・フジワラ(フック・アップ)w/ ジョナサン・フィンレイソン、ブライアン・セトルズ、メアリー・ハルヴァーソン、マイケル・フォルマネク Tomas Fujiwara & the Hook Up with Jonathan Finlayson, Brian Settles, Mary Halvorson, Michael Formanek @Cornelia Street Café、4月18日
http://archive.jazztokyo.org/column/jazzrightnow/003.html#02
8. シークレット・キーパー(メアリー・ハルヴァーソン&ステファン・クランプ) Secret Keeper: Mary Halvorson, Stephan Crump @Cornelia Street Café、4月17日
http://archive.jazztokyo.org/column/jazzrightnow/003.html#02
9. シェイナ・ダルバーガー(ソロ) Shayna Dulberger Solo @Kings County Saloon、6月3日
10. アンダーマイン・トリオ(クリス・ピッツィオコス、ブランドン・ロペス、タイショーン・ソーリー) Undermine Trio: Chris Pitsiokos, Brandon Lopez, Tyshawn Sorey @JACK、7月20日
http://archive.jazztokyo.org/column/jazzrightnow/006.html#02

以上がニューヨーク・シーンの最新動向である。
シスコ・ブラッドリー 2015年12月25日
(Jazz Right Now http://jazzrightnow.com/


【翻訳】齊藤聡 Akira Saito
環境・エネルギー問題と海外事業のコンサルタント。著書に『新しい排出権』など。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley

ブルックリンのプラット・インスティテュートで教鞭(文化史)をとる傍ら、2013年にウェブサイト「Jazz Right Now」を立ち上げた。同サイトには、現在までに30以上のアーティストのバイオグラフィー、ディスコグラフィー、200以上のバンドのプロフィール、500以上のライヴのデータベースを備える。ブルックリン・シーンの興隆についての書籍を執筆中。http://jazzrightnow.com/

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