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No. 219R.I.P. ジェレミー・スタイグ

『What’s New at F』

振り返ると高校時代って、ジャズが好きと言っても、正当 (?) な鳴り方の中で正当 (?) な演奏の中でしか自分の判断のテーブルに乗ってこなかった気がします。そんな中で、正当 (?) な音じゃないのに何故か判らないままに好きになった最初が、エリック・ドルフィーとジェレミー・スタイグでした。とくにジェレミーはビル・エヴァンスのアルバムの中で見つけちゃったわけですから独特な別格感がありました。30年以上経って、遂に会えました。

2001年4月14日、岐阜県多治見市の「スタジオ F」(主宰:藤井修照氏) において、まさに、たった100人を前にひっそりとこんな凄い演奏がなされていたとは、です。それだけに録ってあって良かった...、と、しみじみ思わされる一作です。私の関わらせていただいた録りの中でも、これほど一気に我々スタッフのお腹の中をもエグるように通り過ぎて行ったライヴ録音は無かったのではないでしょうか。上陸した途端に時速60キロ以上のスピードで日本海へ抜けて行った台風の如くに。「濃かった...」と皆が感じたひと晩でした。褒めてやって欲しいのは、その「濃さ」に負けませんでしたよ、私達。1ミリも録り逃しませんでしたよ。良い作品ってこうしてできるもんなんだ、と思い知らされました。たっぷり準備期間があっても何のいい事もないコトを。一瞬で “ スタジオ F ” の空間を捉えて鳴らしちゃうジェレミー達、一瞬 (30分) のリハ中に空間と4人の音を捕らえてマイク立てちゃう及川氏、そして、ブレイバックしてみる間 (ま) も無く本番ですよ。トラックダウンだ、編集だ、とかやってる録音作業なんて何なんだ !! ってホント思わされます。生きた音楽、録りましょうよ。アイコンタクトを、呼吸を、録っちゃうってことなんでしょうね。そうしたらいい音楽がテープに残っていた、と。及川氏の凄技をいっぱいソバで見てきましたが痛烈に印象深い録りの一つです。聴き応え満点と言える凄い演奏です。と、言ったって「ビル・エヴァンスが居なきゃ...」、それは確かです。でも、エディもジェレミーも巧みになっちゃってるのも確かなのですよね。だから、これはこれで猛烈にいいんです。当日はツー・ステージあったわけですが、アルバムがワン・ステージとして聴いていただけるように配曲しました。是非、じっくり腰を据えて聴いてください。

マスターテープの音をそのまま聴いていただけるように、1bitデータに置き換えご提供させていただくことに致しました。「スタジオ F」の客席、100人の中の一人になってください。
http://www.myutakasaki.com

もしも、CDで、とおっしゃる方がいらっしゃいましたら、ほんの僅かだけ在庫があります。
http://3361BLACK.com

下記に、15年前のリリース時に書いたライナーノーツを載せさせていただきます。

最後に、改めまして、このコンサートを実現してくださった、そしてこのアルバムを制作してくださった藤井修照氏に感謝です。

(2016. 6.13  伊藤秀治 / 3361*BLACK)

 

DJMJ-1.TIFF
(c) Hideharu Itoh

『What’s New at F』ライナーノーツより

ビル・エヴァンスはジェレミー・スタイグの存在そのものに興奮していたように思えてならない。出会ったこと、共にクラブで演奏したこと、レコーディングしたこと、そのレコーディングした 『WHAT’S NEW』というアルバムからしか知る由もないのだが、その演奏、そしてジャケットから、何故かビル・エヴァンスの内面の興奮を感じる。冷静沈着を装っても、奥の奥から揺さぶるジェレミー、彼のフルートの表現力はビル・エヴァンスに鮮烈な驚きと興奮を与えたに違いない。前後のビル・エヴァンスの名作の中にあって、『WHAT’S NEW』 の登場は、当時のジャズ・シーンにグサッと突き刺さった思いだ。にもかかわらず、拒否が先に立たず、全てがすんなり入ってきた不思議な感覚を思い出す。ジェレミー・スタイグのフルートは、鋭くて美しい。それは今になっても、斬新さも含めて、失われていない。

ビル・エヴァンスのレコードのジャケットには、ジャズ・アルバムにはあまり見かけない独特な美の世界がある。そんな中にあって 『WHAT’S NEW』 は、右側から、フルートを吹くジェレミーが、グサッと突き刺さっている。演奏との近さを感じた。それぞれの作品のジャケット・デザインにビル・エヴァンスがどれほど関与したかは知らないが、他の作品の中にあっての、このアルバムの特異性を、演奏にもジャケットにも同じように感じたのを覚えている。

そのアルバムの共演者、ジェレミー・スタイグとエディ・ゴメスの二人が揃ったことから、今回の来日は “トリビュート・トゥ・ビル・エヴァンス” と銘打ったツアーとなった。選曲も、<マイ・フーリッシュ・ハート><ホワッツ・ニュー><ファイブ>と嬉しい曲が並び、特に “スタジオF” ではプロデューサーの藤井氏のリクエストにより、<ストレート・ノー・チェイサー> も加えられた。

“スタジオF” でのレコーディングは来日直前に決まった。準備期間は10日。Fレーベル・スタッフは、各自のスケジュールさえ調整がつけば、10日という日数は何の無理もない。当日も、メンバーは4時到着、サウンド・チェックは1時間もしただろうか、コンサートの準備も素速いが、最終的には5分以内で音決めをする及川氏が「業」を披露。

6時半からステージが始まりツー・ステージ、終演後少しゆっくり食事をしてその夜のうちにメンバーは次なる公演地へ出発。凝縮された4時間が生み出した作品は、あらゆる事、人がガチッと一つに向かったからだろう、ガチッとした凄いやつになった。

撮影に取り組むにあたって、頭の中にまず置いてみたのは 『WHAT’S NEW』のジャケット。つまり右側からグサッと突き刺さっているジェレミーの姿。ところが、ステージの立ち位置が定まるのを見て、早くも構想の根本が崩れた。もちろんジャケット・デザインを 『WHAT’S NEW』と同じようにしようとしていたのではないが、まずはジェレミーを同じ角度から撮ることによって始まる何か、に期待をした。ジェレミーは交通事故で顔の左半分が不自由になってしまったために、彼の立ち位置はステージに向かって一番右側。右耳でメンバーの音を聴くためである。(かつてとは違う唇でかつて以上の迫力と美しさを以て魅了してくれるジェレミーの凄さは特筆に値する) サウンド・チェックが始まる前の段階で、望む角度にカメラを持ち込めないことが判明。且つ、サウンド・チェック中にレコーディングに関する他の打ち合わせが必要となり、打ち合わせ後会場に戻ると、ちょうどサウンド・チェックが終了。これで、ジェレミーだけでなく、各メンバーの演奏中の写真が撮れないことが決定。さあ、頭の中はまっ白。本番前の休憩へと立ち去ったステージをジーっと見つめるしかない状況に置かれ...。ボーッと見つめること5分。キザに、ベースと語り合う、なんて気分にでもなるか、と。恰好つけて、頭の中に新たにグサッと突き刺さってきたアイデア、ということにでもしておこう。でも、本番での演奏がこのアイデアにガチッと合致したと感じることができた快感、時間の無さに感謝。

演奏は 『WHAT’S NEW』 に肩を並べ、かつ、今のエディやジェレミーだから成し得た新たな魅力は、お聴きいただいてのとおり。だから 『WHAT’S NEW at F』 。伊藤秀治 (co-producer, cover design & photography)


伊藤秀治 Hideharu Itoh
“3361*BLACK”、山中湖を本拠地とするアコースティック・プロジェクト。レーベル、コンサート、イベント、施設構想、他、すべてアコースティックに徹するプロデュース。
http://3361BLACK.com

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