このライブ/このコンサート2016(海外アーティスト)#05 『エヴァン・パーカー、高橋悠治』
2016年4月9日 HALL EGG FARM(埼玉県深谷市)
Evan Parker (ss, ts)
高橋悠治 (p)
text and photos by Akira Saito 齊藤聡
ファーストセット(エヴァン・パーカー)。ソプラノサックスの循環呼吸による20分以上のソロ。高音にまずは耳を奪われるが、右手による低音のリズムにもスピードにもさまざまなパターンがあることに気づかされる。パーカーが作り出す強弱のうねりにより、音風景のフェーズが明確に変わっていく。低音も高音も鼓膜をびりびりと刺激する。
ファーストセット(高橋悠治)。猫のようにしなやかに現れ、ピアノの前に素早く座った氏は、演奏でも驚くべきしなやかさを見せる。さきに慣性があって、演奏と肉体がそれに追随していくようなのだ。不定形で、広い時空の中において落ちていく水滴のように、一音と和音が響く。終わったかどうかのところで拍手が起き、氏は不満にも見える表情を見せ、次のピースも弾いた。はじまりも終わりもなく、その意味で時間を超えているものだった。
セカンドセット(デュオ)、その1。パーカーは、最初に、「高橋さんと共演できることの名誉、ここにいることの誇らしさ」を口にした。テナーサックスでは、ソプラノと違い、間があって、重力を感じる。しかしひとつひとつの音の波が微分されている。パーカーの波と高橋悠治の波が重なり、一瞬の間とずれがあってもまた回復していった。
その2。パーカーはソプラノに持ち替え、高音のトリルによる宇宙を形成する。高橋も高音と低音とのひたすらに長いうねりを生成させ、ときに轟音のカーテンさえも見せた。
その3、ふたたびテナー。破裂音も擦れる音も、囁く音もある。ふたりがそれぞれ独自にサウンドを展開し、シンクロしてゆく。高橋は、エフェクターのように、あまりにも柔軟に、パーカーにまとわりつくピアノを弾いた。
後半では、高橋悠治がパーカーを捉え、スリリング極まりない瞬間がいくつもあった。思わず涙が出てしまった。
(文中敬称略)