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No. 236R.I.P. ムハール・リチャード・エイブラムス

Great Music Forever! ムーハルが遺してくれたもの

私はムーハル・リチャード・エイブライムスの日本公演(1980年?)を観ていな い。AACMの事を知ったのも、アート・アンサンブル・オブ・シカゴを聞き始めてか らだったと思う。AACMが設立された当時(1965年)のアメリカにおける、黒人 芸術家達の活動もブラックパンサーもマルコムXも、後になって知ったのだった。 東京時代観たシャドウ・ヴィゲッツは、AACMの第二世代というふれこみだった。 その頃には私も少しは勉強が進んでおり、彼らの会話に上るミュージシャンの名前が判 るようになっていた。盗み聞きしたつもりはないのだが、休憩中の彼らの会話の中で「ム ーホーが・・・」と誰かが言った瞬間、その会話に参加していなかったメンバー達が一 斉に聞き耳を立て出したのを、私は見逃さなかった。

初めてムーハルに会ったのは、1993年の一月だった。お宅にお邪魔出来るという ので嬉しくてたまらなかった。アーティストハウスのセキュリティーを通り抜けた所で、 アミーナ・マイヤーズに遭遇。彼女もこのビルに住んでいるのだ。レオ・スミスに案内 され上階へ、「あのドアだよ・・」とレオが指さすと、セキュリティーから私達が来る 事を伝えられていたムーハルがドアを開けた。「リーオ!」
広いリビングの半分にグランドピアノ、デスクトップ・コンピューター、絵画がたく さんあった。ペギーが「彼はコンピューターにスコアを書くの」と私に言った。私達が タワーレコードの袋を下げて来たので、ムーハルは中を見たがった。収穫を披露するレ オと私。私が買ってきた5枚のCDを「うんうん」と頷きながら吟味するムーハル。ペ ギーがお茶とクッキーを出してくれたのでいただいた。時間はあっと言う間に過ぎおい とましようとすると、ペギーがクッキーを包むから私にキッチンに来るよう言った。 キッチンで私は「音楽家との生活ってどうですか?何か気を付ける事とかありますか?」 と失礼な質問をしたと記憶している。ペギーは「そーねー、作曲している時はじゃまし ない事ね。」と微笑んだ。

レオと私はその後カリフォルニアに住まいを移したので、ニューヨークのムーハルに 会うのは、レオの仕事が東海岸で有る時に限られた。それでも一度だけレオが教鞭をと っていたカルアーツに招かれてコンサートをした時、私達の住んでいた家にも来てくれ た事がある。日本から持って来ていたムーハルのレコード全部にサインをして頂いた。 「日本人は僕のレコードたくさん持っているんだよね。日本に行った時、レコードを何 枚も抱えて来る人がいてびっくりしたよ。それが一人二人じゃないんだもの・・・」そ してMJT+3のレコードを見て、「これは僕も持っていない。姉が僕のレコードを全 部コレクションしてくれているので、日本に有ったら買ってくれないかい?」と言うので、後日、大阪の中古レコード屋に有るのが判って、送ってもらった。

レオのバンドでニューヨークのコミュニティ・チャーチで公演をした時は、ムーハル とAACM・NY支部の皆さんには本当にお世話になった。私一人が素人だったので、 あれこれ声をかけていただき動悸が収まった。終わってからムーハルに褒められた時に は、レオに褒められるより何倍も嬉しかった。ムーハルは本当に皆に尊敬されていた。 そして驚くほど、大勢の中では目立たない人だった。聖人が奇跡を起こして群衆の中を 歩き始めた途端、その誰とも見分けが付かなくなるという、昔どこかで読んだ物語を思 い出したものだ。ちょっとだけ猫背で歩いて行く後姿を忘れることが出来ない。 ムーハル、素晴らしい音楽をありがとう。そしてオリジナルであること、自分自身が 原型であり、心で他の人と関わった時に生まれるハーモニーの大切さを、あなたは教え てくれた。

*
赤ん坊が . 生まれた!
初めて見る  光に驚いて
「ラ」の音で   産声を上げた
ああ  なんて美しい  奇跡の始まり

音はどこにでもあって  混沌としている
でもひとたび  人間の鼓動と息遣いにかかれば
動物達を目覚めさせ
空に虹をかける事が出来る

響かせよ  己の魂を
迫り来る沈黙を  恐れるな
喜びを胸に  力そのものより強く
新しい物語を奏でよ

*

本来ならば、ムーハルの音楽とAACMの軌跡のようなものを順を追って書くべきだっ たかもしれないが、詳しく書かれた本がジョージ・ルイスによって出されているので、 今回は遠慮させていただきます。

牧野はるみ  Harumi Makino
1963年、釧路生まれ。1993年から2003年までの米国在住時、フリージャズアンサンブル「ワダダ・レオ・スミス・アンド・エンダ・カルチャー」で詩の朗読を担当。 バイリンガル(日英)の詩集の出版、翻訳などを手掛ける。スミス氏とは2003年に離婚。現在は新千歳空港国際線ビルで働いている。


<絵本>『おひさまにうたおう』 ~SING TO THE SUN~(バベルプレス刊)
著(絵、詩):アシュレー・ブライアン 訳:まきの はるみ

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