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このパフォーマンス2018(海外編)No. 249

#08 エルメート・パスコアール」

text by Rin Okazaki  岡崎 凛

エルメート・パスコアール大阪公演 2018年5月11日
会場:梅田シャングリラ

(この公演については、細川周平氏による詳細なライヴ・レポートが6月号に掲載されており、この原稿を書く前に再読させていただきました)
JazzTokyo No.242 #1012 エルメート・パスコアールとグループ
FRUE – Universal Music Japan Tour – feat. Hermeto Pascoal e Grupo
https://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-27871/

エルメート・パスコアールの来日公演に行くのは初めてだった。もちろん彼の名前は知っていたし、ブラジル音楽界の至宝といった賛辞と白いひげの写真、YouTube で見た水中でのパフォーマンスなどは頭に入っていた。だが、ステージ・パフォーマンスについてはほとんど何も知らなかった。
以下は、音楽レポートというレベルにはほど遠いが、エルメート・パスコアールのライヴを初めて聴いた者が、今年5月に呆気にとられながら見聞きした体験談である。

会場となった梅田シャングリラは、大阪の梅田スカイビルの斜め向かい側にある。「オールスタンディングで最大350人を収容するライブハウス」と説明があるが、当日はおそらく最大限以上にお客が詰め込まれていたと思う。

最前列より少し後ろに立ち、開演を待ったが、運悪く肩幅の広い大柄な男性の真後ろになり、小柄な私はずっと背伸びをして観なければならなかった。開演前のステージのテーブルには奇妙でカラフルな道具や楽器がずらりと並んでいる。そこには、のちに登場する重要な道具である「やかん」もあった。エルメート初心者であるため、ファンの間では有名な「やかん」がどう使われるか、全く想像がつかなかった。

やがてステージにエルメート・パスコアールが登場した。ワインの瓶をプープー吹きながら、である。呆気にとられて見入ったが、お笑いなのか、芸の一部なのか分からない。だがその後は、全てがその調子で進むので、笑って楽しめばいいのだと分かる。次から次へとおかしな道具が登場するが、どうやらジョークから本気の音楽が始まるらしい。

演奏の素晴らしさ、楽しさは想像以上だった。筋金入りの芸術家たちの遊び心あふれる世界、といったらすっきりしすぎた表現となる。雑多なものが混ざり込み、降って沸いたようなアイデアがすんなりと演奏につながっていく。

例の「やかん」の登場では、初心者ゆえに唖然としたが、<ラウンド・ミッドナイト> のメロディーだと知って嬉しかった。エルメートの厳格な一面にも驚いた。ある曲の演奏を開始して3秒ぐらいでストップがかかり、サックス奏者が別のサックスを吹くように命じられた。曲の途中なのに…なんて自由なんだろう、この人は!と思った。(しかし、後日他のレビューを読み、これも特に驚くことではなかったと知った)

舞台袖にいるミュージシャン以外の女性がステージに呼ばれ、エルメートとチークダンスを踊る姿が、何とも愛らしかった。演奏のときは君主のような存在だけど、なんとも愛らしい姿だ。長い白髪、長い白ひげのエルメートが、こんなに魅力的な人だとは、この日まで知らずにいた。

もう一つ考えたことがある。これほど音楽的才能の溢れるエルメート・パスコアールが、サーカスの道化師や大道芸人のようにふるまう姿に、音楽はやはり大衆性から完全に離れてしまっては駄目だな、と実感した。毎日ジャズを聴いているうちに、そういうことはついつい忘れる。ずいぶん平凡な感想ではあるが、そうした意味でも、とても貴重な体験だった。

この日は何度となくアンコールが行われた。ご機嫌なエルメートの奏でる楽器を心ゆくまで楽しみ、立ちっぱなしで脚がつりそうになりながらも、最高の夜を過ごした。

最後に上掲の JazzTokyo No.242 ライヴ・レポート#1012 掲載の出演者名を引用させて頂きます。

【Hermeto Pascoal e Grupo】
エルメート・パスコアール Hermeto Pascoal (keyboard, accordion, teapot, bass flute, his skeleton, cup of water…)
イチベレ・ヅワルギ Itibere Zwarg (electric bass and percussion)
アンドレ・マルケス Andre Marques (piano, flute and percussion)
ジョータ・ペー Jota P. (saxes and flutes)
ファビオ・パスコアル Fabio Pascoal (percussion)
アジュリナ・ツヴァルギ Ajurina Zwarg (drums and percussion)

岡崎凛

岡崎凛 Ring Okazaki 2000年頃から自分のブログなどに音楽記事を書く。その後スロヴァキアの音楽ファンとの交流をきっかけに中欧ジャズやフォークへの関心を強め、2014年にDU BOOKS「中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド」でスロヴァキア、ハンガリー、チェコのアルバムを紹介。現在は関西の無料月刊ジャズ情報誌WAY OUT WESTで新譜を紹介中(月に2枚程度)。ピアノトリオ、フリージャズ、ブルースその他、あらゆる良盤に出会うのが楽しみです。

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