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このパフォーマンス2018(国内編)No. 249

#04 te-te-Yuka、ひゅむたん

text & photo by Hideo Kanno 神野秀雄

2018年に注目したミュージシャンとして、ベーシスト伊東佑季がいる。そのライヴを追っていくと、同じく中堅として美しい音を創っている仲間たちに出会う。特に印象に残ったライブとして、山本玲子と伊東とのデュオ「te-te」に柳原由佳が加わった「te-te-Yuka」と、伊東、栗林すみれ、黒沢綾に、オーストラリアのニラン・ダシカが加わっていた「ひゅむたん」を紹介したい。

te-te Yuki

2018.12.22 ネフェルティティ (千葉県柏市) Nefertiti (Kashiwa, Chiba)

山本玲子 Reiko Yamamoto (Vibraphone)
伊東佑季 Yuki Ito (Bass)
柳原由佳 Yuka Yanagihara (Piano)

El Viento (伊東佑季)
Remembering Tano (Gary Burton)
2018 March (柳原由佳)
In Grand Central (山本玲子)
Vibranto Line (山本玲子)
So What (Miles Davis)
Ordinary Day (山本玲子)
Lawns (Carla Bley)
Mr. Clean (Freddie Hubberd)
St. Thomas (Sonny Rollins)
– Silent Night

ひゅむたん

2018.7.23 Jazz PolkaDots (東京・新宿三丁目)

黒沢 綾 Aya Kurosawa (Voice)
栗林 すみれ Sumire Kuribayashi (Piano, Voice, Percussions)
伊東 佑季 Yuki Ito (Bass)
Niran Dasika (Trumpet) from Australia
Guest: 後藤 沙紀 Saki Goto (Piano)

1. Euzinha (Tanya Maria)
2. 青い闇をまっさかさまにおちてゆく流れ星を知っている(原田郁子・オオヤユウスケ)
3. ひなげし(伊東佑季・黒沢綾)
4. Freedom of Thoughts (栗林すみれ)
5. 六花舞うように (黒沢綾)

1. この道(北原白秋・山田耕筰)
2. Never Say (Chan’s Song) (Herbie Hancock)
3. All the Thongs You Are (with 後藤沙紀)
4. Lawns (Carla Bley)
5. Life is her friend (Jason Rebello)
6. 焼うどんブルース〜Now’s the Time (with 後藤沙紀)

1. Nearness of You (Hoagy Carmichael / Ned Washington)
2. Fly Me to the Moon

伊東佑季は、北海道旭川市出身で、吹奏楽の”弦バス”から始め、JMIAジュニアジャズオーケストラとの出会いをきっかけにジャズへ、同バンドのメンバーとしてチック・コリアやエド・シグペンらと共演。洗足学園音楽大学を経て、全額奨学金を受けてバークリー音楽大学に学ぶ。卒業後、ニューヨークを拠点に活動、最近ではスナーキー・パピーとも近いギリシャ出身のマグダ・ヤニクゥ率いる話題のバンド「バンダマグダ」の初代ベーシストでもあった。帰国後は都内を中心に活動。ここで取り上げた2グループは伊東がリーダーという訳ではなく、対等に近い関係で成立しているし、またメンバーが微妙に変わったり、組み合わされて別のグループになったりする。その他、聴いたものでは、千葉史絵(p)&黒沢綾&伊東、伊東&須田晶子(vo)、BaViPi〜中島香里(vib)&岸淑香(p)、浅利史花(g)など。また”伊東祐季トリオ”名義での、伊東&千葉史絵&二本松義史(ds)、伊東&柳原由佳&木村紘(ds)などがある。バークリー出身者率は高め。ここでは伊東を中心に記述し、他のミュージシャンについて十分に説明し切れないが、ミュージシャン名にウェブサイトをリンクしたので、YouTubeなども含め拡張して関心を持っていただけたら幸いだ。

山本玲子と伊東佑季のデュオユニット「te-te」。ヴァイブラフォンとベースの音域がピアノの右手、左手の音域に相当することに由来し、でもそのままでは「右手でーす。左手でーす。」では芸人コンビみたいなので「te-te」にしたそう。江古田「そるとぴーなつ」での演奏が多いが、ゲストを迎えることが多く、以前は加納奈実(sax)ゲストで観たが、今回は、関西を拠点とするピアニスト柳原由佳をゲストに。3人ともバークリー音楽大学出身。これまで2人ずつの共演はあるけど,今回が3人初共演となる。でも2+ゲスト1じゃなく、初共演とは思えない、がっつり3が対等に響き合う軽快かつ濃厚でフレキシブルな演奏を透明感のある音色で聴かせた。3人共通の作曲能力の高さ、演奏の正確さと、耳の確かさは、バークリーとアメリカでの経験が特に強く生かされているケースだと思う。山本は栗林を含むSquare Pyramidを活動の中心に置くが、2枚目のアルバムをリリース予定。柳原は東京での活動を本格化したばかりだが楽しみな逸材で、2019年2月に柳原トリオでの『Inner Views』リリースを予定している。

「ひゅむたん」は架空の言葉で「ひゅむ」=歌、声、「たん」=堪能することだそう。極上の声質と安定のピッチの黒沢綾。ノーマ・ウィンストン的にもヴォイスを使うプロジェクトの試みは日本でもあるものの素材がないとがっかりになる。それにキース・ジャレットのヴォイス付きピアノの声を百倍美しくしたと勝手に形容するのだが、ピアノのフレーズを口ずさみながら変幻自在に美しい音を繰り出す栗林すみれ。黒沢と栗林のヴォイスが溶け合うと幸せに包まれる。伊東の膨よかな音質によく歌うフレーズ。それが黒沢、栗林の音と触れ合うともう凄いことに。告知にないトランペットがいて誰だっけ?状態から、凄くよいことがわかってくる。ケニー・ホイーラー、マーク・アイシャムも少し彷彿させつつ。終演後にようやく名前を知って、あ、なるほど、栗林、石若駿(ds)、須川崇志(b)と『SUZAKU』をリリースしていたオーストラリアのトランぺッター。ファースト途中でオーストラリア行き夜行便に乗るため羽田に走って行った。4人の演奏を聴けてラッキーだった。また、ゲストで焼うどんをたべてるのに引っ張り出された後藤沙紀(p )。<All the Things You Are>のイントロから伊藤さんと素晴らしいやりとり、栗林との連弾もよかった。レパートリーは幅広くですが、やはり3人のオリジナルのクォリティの高さ、それぞれが音楽の歓びと、ちょっと切なさを秘めていて、本当に素晴らしかった。心が溶けるような、静かに泣けるような、最高の瞬間だった。

伊東はその安定した演奏と素晴らしい作曲力も含め活躍が楽しみだが、ピッチとリズムの正確さと、自然すぎるプレイ、自己主張のための自己主張はしない、いい意味で、テクニックの高さや凄さが伝わりにくく、伊東も好きなチャーリー・ヘイデンにも通じるかもしれない。ステップス・アヘッド(やチック・コリア)トリビュートの江古田カルテットにトラ(代理)で出演したことがあったが、エディ・ゴメス・パートを巧みに弾いていたからその意味でもテクニックと音楽性は確かだ。アルバムとしては1枚、『ことは、と / 白をまとえば』を2017年にリリースしている。上記のように自己名義も含め対等な関係のグループでオリジナルを持ち寄ることが多いが、そろそろ自分のオリジナルだけで強烈に個性を打ち出したライブであったり、時代の流れ的に必ずしもCDにこだわることはないが、発信していくための動画、配信などの取り組みなどもあってもよいのではないかと思う。いやこれは伊東に限らず、20代〜30代の優れたミュージシャンの多く、さらにアメリカでの経験と交流を持つミュージシャンの多くが抱える難しさであり、「JAZZ TOKYO」に書いていく上でも、そういった逸材に目を向け紹介していく責任と使命を感じるところだ。

『ことは、と / 白をまとえば』
土屋絢子(vocal)、津嘉山梢(piano)、伊東佑季(bass)

千葉史絵(piano) 黒沢綾(voice) 伊東佑季(bass)

『Niran Dasika Quartet / SUZAKU』
Niran Dasika(trumpet)栗林すみれ(piano)
須川崇志(bass)石若駿(drums)

That Blue Bird / Reiko Yamamoto The Square Pyramid
山本玲子 (vibraphone) 栗林すみれ (piano) 古木佳祐 (bass) 木村 紘 (drums)

Yuka Yanagihara Trio / Moon River
柳原由佳(piano) 山田吉輝(bass) 則武諒(drums)

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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