#03 『Masahiko Satoh+Sabu Toyozumi / The AIKI』
『佐藤允彦+豊住芳三郎/合気』
text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌
佐藤 允彦 (p)
豊住 芳三郎 (ds)
NoBusiness Records NBCD 120
1. The Move for the Quiet (静寂の為の動)37:21
2. The Quiet for the Move (動の為の静寂)19:50
NoBusiness Records NBLP 129(限定300枚)
Side A
1. The Move for the Quiet(静寂の為の動)
Side B
1. The Quiet for the Move (動の為の静寂)
2. The Aiki(合気)
All music composed by Masahiko Satoh and Sabu Toyozumi
Recorded live on the 26 th March 1997 at C.S. Aka-Renga, Yamaguchi City, Japan by Takeo Suetomi
Concert produced by Takeo Suetomi
Mastered by Arunas Zujus at MAMAstudios
Front cover photos by Akihiro Matsumoto
Design by Oskaras Anosovas
リトアニア唯一のジャズ・レーベル NoBusiness Records から ChapChap Seriesの1枚としてリリースされた佐藤允彦pと豊住芳三郎dsの共演作。1997年3月、山口市のCS赤レンガで ChapChap レコードのオーナー/プロデューサー末冨健夫が主催したコンサートのライヴ録音。NoBusiness Recordsは日本でもおなじみのリューダス・モツクーナスreedsなど地元リトアニアの現役ミュージシャンの新作とと合わせて、サム・リヴァースなどアメリカのフリー・ジャズ系アーカイヴのCD化とともに、末冨氏が所有する90年代のインプロ系音源のCD化(一部LPを含む)を進める貴重なレコード・レーベルである。末冨氏の音源は氏が地元・防府市で経営していたカフェ・アモレスでのライヴ録音が中心だが、そのなかには姜泰煥as、崔善培tp、金大煥percのかつての姜泰煥トリオの面々のソロの他に日本のミュージシャンとの共演音源が含まれており、日韓インプロ系ミュージシャンの共演記録として極めて重要な遺産である。
NoBusiness発売の佐藤允彦を含むアルバムは、姜泰煥と高田みどりpercとのトリオ Ton Klami(トン・クラミ)による『Prophecy Of Nue』(NBCD102) が2017年にリリースされ、筆者は2017年度の海外盤のベストに推薦した傑作と聴いた。横井一江、齊藤聡、金野吉晃3氏によるクロス・レヴューを通じてもその素晴らしさが充分に認識されるのだ。
https://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/1451%E3%80%8Eton-klami-prophecy-of-nue%E3%80%8F/https://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-19853/https://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-20007/
一方の豊住のアルバムは、ポール・ラザフォードとの共演作『The Conscience』(NBCD99)が2017年に、ワダダ・レオ・スミスtoとの共演作『Burning Meditation』(NBCD110)が、2018年にリリースされた阿部薫asとのデュエット『万葉歌』(NBCD107)は、ChapChapシリーズ外の作品であった。
佐藤と豊住は同年代の演奏者で日本国内にとどまることなく世界を相手に演奏活動を展開してきた。とくに豊住はほとんど自宅の席が温まる暇もないほど世界を駆け巡っている。佐藤は作・編曲家としても極めて重要な仕事をしてきたが、豊住はむしろ即興演奏でその天賦の才を発揮してきた。慶應大学で経済学を学んだ佐藤に対し、東京藝大で打楽器を学んだ豊住の出自を考えるとそれぞれのプロとしての生き方が非常に興味深い。このアルバムでの演奏にもその生き方が反映されているようにも思われるが、キャリアの深く長いふたりの境地はすでにそれを超越している。タイトルの「合気」が示すように、その場を支配していた空気は「合気道」の奥義にも通じるもので、対決や優劣ではない。むしろ相手を抱え込む懐の深さだ。しかし、そこに張り詰めた緊張感は只者ではない。