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Jazz and Far Beyond

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R.I.P. 川崎燎No. 265

燎さんからのメッセージ  by Atsuko Kohashi

text by Atsuko Kohashi 小橋敦子
Ryo’s photo & Interview video: Courtesy of Ryo Kawasaki

2017年3月、4月と2回にわたってJAZZTOKYOに掲載された川崎燎さんのインタビューをきっかけに、その後、私たちの間でメールでのやり取りが続きました。メールはジャズについてだったり、ピアニストの私へのアドヴァイスだったり、また、時には燎さんが突然思いついたことを書いてくることもありました。ある日のメールには、こんなことが記されていました。

「JAZZTOKYOのR.I.P.セクションを見ていたら、なんだか嫌な気分になったよ。僕も近いうちここに名を連ねる時が来るのかもしれない…って思えてね。もしそうなっても、ここに載ることは僕にとっては全く無意味だ、わかるでしょう?亡くなったミュージシャンのリストに自分の名前を加えて欲しいと思うかい?全く御免こうむりたいね!達成感でも味わえるっていうのかな?ありえないね。亡くなったミュージシャンの追悼記事より、今、現在、誰がどんな新しいサウンドを生み出しているかにもっと注目すべきじゃないのかな。そうでないとジャズは、各々のミュージシャンや批評家、プロデューサーたちの過去の功績にこだわったちっぽけな歴史になってしまうだろう。そんなの面白くないよ」

この気持ちを尊重して、私は追悼文の代わりに燎さんから私宛に届いたメッセージのいくつかをここに紹介します。それは、多くのミュージシャン、ジャズファンへ向けられたものだと思うからです。

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―ミュージシャンにとって一番大切なのは耳。自分の音も他人の音もよく聴き込むこと。ただ聞くだけじゃない、Dig-in だ!

―今の時代、アーティストは演奏するだけじゃだめだ。自分のアルバム制作からライブ・イベントの企画まで、コネクションやSNSを駆使して、できる限り自らの手でプロモートする責任がある。今は70年~90年代とは状況が違う。他人を頼りにするのではなく、アーティスト自身がプロモーターとしても中心的存在であるべきだ。

―ジャズはもともとダンス音楽として発展してきた。ジャズっぽい音にするためには、踊れるようなフィーリングを醸し出すことが必要だ。よく言われる「スィング感」、それが大事だということを忘れないで!

―人生は金儲けするためにあるんじゃない。基本的な生命の維持、そして、いつも前進するために、自らの想像力で今までになかった新しい何かを生み出すこと!

―僕の生活にはゆとりがあるわけじゃない。でも、すっかり自分の生活に安心しきってしまったら、そこにはもう人生の意味はない。おそらく何もすることがなく、死んだも同然ってことじゃないだろうか。

―最近の若い世代のジャズミュージシャンは、ジャズが継承されてきたルーツがアフリカ音楽やブルースにあるということを忘れつつある。このジャズのエッセンスは、ただ見聞きして分析するだけでは得られるものではない。ジャズというアート・フォームを継承してきたジャズ・マスターたちの仲間に加わり、共演しながら受け継がれていくものだ。変化し、進化してきたジャズの表現方法は、とても特殊なものだからね。このエッセンスを学びとってどう生かすかは、真のジャズ・マスターたちとジャズ言語で会話する以外に方法はない。なぜなら、瞬時にインプロヴィゼーションが求められ、メロディーをジャジーに鳴らしてスィングさせることが要求される、たとえどんなテンポであってもだ。それはまさに「間」や「呼吸」のようなものだから。だが今は、ジャズ・マスターたちはほとんどいなくなった。60年代の終わりまでに成熟を遂げたと思われるジャズのアート・フォーム、そこに貢献した真のジャズ・マスターたちと幸運にも一緒にプレイする機会を持てたのは、せいぜい僕の年の+/- 10年の世代くらいだろう。そのため、今のジャズミュージシャンはこの伝統的なジャズの形を学ぶための大切な絆を失ってしまった。最近のジャズミュージシャンが、継承されたアートとしての「ジャズ言語」のエッセンスとは無関係の音楽を演奏するのは、こういう理由があるのかもしれない。

今、ふとそんな気がしたよ。
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R.I.P.の話題のときに「どうぞ安らかにと言われても、もっと生きたかったのなら困っちゃうかも…。Rest in Peaceはピンと来ない」と私が書いたら、翌日の燎さんのメールにこんなことが記されていました。

Maybe “Have a Nice Trip!” HNT is better than RIP 🙂

だから、Have a nice trip, Ryo san!!!

*メールのやり取りは英語でしたが、ここでは日本語で記してあります。

川崎燎が大好きだったタリンの街 Tallinn, Estonia
Photo by Rene Jacobson

Gilles Peterson in Conversation with Ryo Kawasaki 13-02-2017

7月発売予定のCDのプレビュー(CDはテープレコーダーで録音されていた1980年東京Pit InnでのRyo & The Golden Dragonの未発表ライブ音源をデジタルマスタリングしたもの)

小橋敦子

小橋敦子 Atsuko Kohashi 慶大卒。ジャズ・ピアニスト。翻訳家。エッセイスト。在アムステルダム。 最新作は『Crescent』(Jazz in Motion records)。 http://www.atzkokohashi.com/

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