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特集『配信演奏とポスト・コロナ』No. 266

オンライン・コンサート、大いにあり!

text by Sanaa Nakayama 中山早苗

コンサートの延期や中止の情報を耳にするようになって3ヶ月が経とうとしている。新型コロナウィルスの感染がこれほど世界中に広がるとは想像もできなかったけれど、それに伴いここまでライヴのパフォーマンスに影響を及ぼすとは!「コンサートくらい大丈夫じゃない?」と思っていたのも束の間、深刻な事態になってしまったのが今の現実。

生の演奏が聴けなくなる、聴いてもらえなくなると言う事は一体どこでどのようにこれから音楽と接していけばいいのだろうか?と、あらためて考えさせられた。

私はかつてクラシックのフルート奏者として活躍していたことがある。演奏する喜びや醍醐味はまず他の奏者(達)と音を合わせて見るところから始まる。そしてお互い意見交換をしながら音合わせを繰り返し、曲を仕上げて行く。本番のステージでは聴衆の息づかいや会場の空気を感じ取りながらそこに自分たちの音を発する。静かな空間で音に対する聴き手の反応はよくも悪くも伝わって来る。クラシック音楽のコンサートに限らず、どんなジャンルの「ライヴ」でもそこには共通して奏者と聴衆との特別な空間があり、時間がある。

「オンライン・コンサート」かぁ...

私は一種の神経失調症によって10年以上演奏が出来ず、ここ何年かやっと少し奏法を立て直すことが出来てきたところで、以前から興味のあったジャズをこの年(?)で習い始めている。そのきっかけとなったのは、ジャパン・ジャズ・フルート・ビッグバンドに入れてもらったことだ。各種フルート −ピッコロ、コンサート・フルート、アルト・フルート、バス・フルート、コントラバス・フルート− とリズムセクションのピアノ、ベース、ドラムという編成で総勢16−18名からなるバンドは、年に1度の定期ライヴ・コンサートを中心に年によっては国内外のツアーもある。通常、ライヴ本番の日に照準を合わせて3ヶ月くらい前から4時間のリハーサルが5、6回行われる。これらのリハーサルで徐々に全員が同じテンポ感、リズム感、それぞれの曲のスタイルやfeelを覚える。そしてライヴのステージでは、緊張感と解放感とアドレナリンのミクスチュアで演奏に磨きがかかる。お客さんも楽しんでくれている様子がステージから見える。

「オンライン・コンサート」...ねぇ。

オンラインではライヴのようなわけにはいかない。インターネット上では、まずリアルタイムで一緒に「せいのっ..」と音を出してもどうしても時差が出てしまう。実は、外出自粛要請が出てから最初のビッグバンドのZoomリハーサルを9名ほどのメンバーでやってはみたが、全く合わなかった。会話なら気にならない時差も音を同時に出すとなると、50分の1秒の差でもすぐにバラバラになる。息(気持ち)は合っているけれどネット環境の違いなどの影響でどうしても合わない。その後のリハーサルは「打ち合わせ」のようなものとなった。それでも曲の中の様々なフレーズの感じ方、吹き方を詳細に確認し合い、有意義な時間となった。最初はメンバーほとんどがZOOM、Jam Studio、ガレージバンドのようなソフトを使ったことがなかったが、私も含め、各メンバー、試行錯誤しながらも録音まで漕ぎ着けた。第2弾配信はガレージバンドを使うためそのワークショップ meetingもその後行うこととなった。

ジャパン・ジャズ・フルート・ビッグバンドのオンライン・コンサートの配信にあたり、まず、電子音のカラオケ(メトロノームのクリック付き)がバンドリーダーから送られ、それに自分のパートを合わせて個人練習をする。Jam Studioなるソフト(第2弾ではガレージバンド)を使って同じカラオケに合わせて自分のパートを録音する。クリックひとつで何度でも録音し直せるのはあ

りがたかったが、一人での作業には少々寂しいものがある。ただ、そのうちそのソフト上に他のメンバーの録音トラックも入って来るのでそれに合わせて練習、録音することも可能となる。録音が完了したら、ヴィジュアルのために今度はiPhoneのカメラを使って(カラオケに合わせて)自分が演奏する姿をビデオ撮りする。この際、後から加えられるインプロヴィゼーションの部分はひたすら小節を数えるのだが、ヴィジュアル的にも、一貫して体でグルーヴを保つことがとても大事だと個人的には感じた。すべての音源と各メンバーのビデオは、iMovieに取り込まれ、バンドリーダーのHさんとメンバーでアレンジャーでもあるKさんが音のミキシングからビデオ編集まで行い、素敵なオンライン・コンサート作品が出来上がった。

「オンライン・コンサート」、あり、じゃない?

結果的には、「打ち合わせ」と言えども全員の音を合わせるための歴としたリハーサルだと実感出来た。録音ではあるものの、同時ではなくてもみんなと音を重ねて一つの曲を仕上げた達成感は、大いに感じられた。無論、そこには聴衆の息づかいはないけれど私たちの息づかいはある。
そして「音楽」があるではないかぁ。

「オンライン・コンサート」、大いにあり!

この3ヶ月ほどの間にジャンルを超えて多くのミュージシャンのこうしたオンライン・コンサートが、YouTubeなどに続々とアップされている。それは、Acapellaを使った一人多声アンサンブルから高質なテクノロジーを駆使した有名交響楽団の演奏まで多種多用。

先に述べたライヴで体験するような奏者と聴衆との特別な空間を共有はできないが、オンラインならではの魅力があるように思う。バンドの私たちが慣れないソフトを使いながら自宅の部屋で自分で演奏ビデオを撮ると言うようなところに、いわゆるミュージック・ビデオとは異なった、どこか生々しささえ感じさせる独特な要素があると感じる。最後の仕上げは特定の人が任され、テクノロジーで一体化、完成させる訳だけれど、出来上がった音楽は、紛れもなくメンバー全員の気持ちのこもったパフォーマンスだ。

ミュージシャンは、それがどんな手段であっても自分の音で常に誰かと繋がり、また、誰かの心を癒したいのだと思う。

COVID-19との共存をしばらくは強いられる中、コンサート・ホールやライヴハウスが少しずつオープンしても、「オンライン・コンサート」というユニークな演奏形態は、今後も新しいテクノロジーで進化しながら、あり続けるでしょう!

中山 早苗

中山早苗 Sanae Nakayama フルート奏者。アメリカとドイツの音楽大学で学ぶ。国内外の音楽コンクールの優勝、入賞歴あり。元武蔵野音楽大学助教授。局所性ジストニアにより10年以上音楽活動を中断。近年、ジャパン・ジャズ・フルート・ビッグバンドのメンバーとしてこっそり再起を図ろうとしている。

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