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このパフォーマンス2020No. 273

#05『JAZZ ART TRIO』with 沖至

text & photo by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

2020年9月16日(水) 20:00-21:15
@せんがわ劇場

『JAZZ ART TRIO』@Jazz Art せんがわ 2020
坂本弘道 (cello)
藤原清登 (b)
巻上公一 (vo, theremin,etc)
スペシャルゲスト:北 陽一郎 (tp)
沖至 (tp-ビデオ参加)

トランペッターの沖至が8月25日、パリの病院で息を引き取った。昨年は「Jazz Art せんがわ」を病欠したものの、今年は出演を目指して直前まで心の準備を整えていたという。近年は毎年のように「Jazz Art」に出演し、「せんがわ」を主戦場にしていた感があった。70年代からパリに暮らす沖にとってすべてに自由な空気が流れるフェスティバル「Jazz Art せんがわ」は、ことのほか肌に合ったのだろう。コルネットを演奏するジェネラル・プロデューサー巻上公一との親和性が高かったとしても。
開催直前に病没した沖至の姿は会場には見かけられなかったが、沖至のソウルと音楽はまちがいなく会場にみなぎっていた。フェスティバルのプロデューサ−3人が組んだユニット「Jazz Art Trio」に沖はスクリーンから参加した。スクリーンから流れる沖至の演奏に3人のプロデューサーがそれぞれ渾身の力で挑んだ。沖至に胸を借りたと言ってもいいだろう。彼らにとって沖の存在はそれほど大きく音楽は懐が深かった。共演してみて初めて得心したのではないだろうか。巻上は主奏のテルミンに加えあらゆる小物を繰り出した。藤原はおそらくキャリアで初めてコントラバスにエフェクターをかませ対応した。小脇に抱えた坂本のチェロはほとんどエレキギターと化していた。後半、沖が抜けたTRIOの演奏はまれに聴く密度の高いものになっていた。背後に目を細めて彼らの演奏に聴き入る沖が見えた。2部に登場したトランペットの北陽一郎はむしろ粛々とメロディを紡ぎ出し、沖を天上に葬送した。

https://jazztokyo.org/column/hear-there-everywhere/post-57435/
https://jazztokyo.org/category/rip/r-i-p-itaru-oki/

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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