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Jazz and Far Beyond

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R.I.P. 鈴木勲No. 288

ジャズをやるきっかけをくれたジャズ・ゴッドファーザー by 丈青

Text by Josei 丈青

鈴木勲さん(オマさん)の音は子供の頃から母親のレコードで聴いていました。一番よく聴いたアルバムは『Hip Dancin’』でこれはCDで買って衝撃を受けました。最高峰の黒人プレーヤー達と演奏できて黒いグルーヴの塊でありよく歌うオマさんのプレイはかっこよすぎて、愛聴したものです。

全般的にジャズに興味があったというよりは、オマさんとプレイしたいという気持ちがでてきて、オマさんのライブに行って終演後に無謀にも「オマさん僕と演奏お願いします」みたいなことを言ったら「ダメだよ。お前なんか知らないのに。」と返ってきて落ち込んだものです。それから半年くらい経ち、ある日オマさんから電話がかかってきました。「いついつあいてる?一緒に演奏してみるか?」といった感じでした。嬉しかったです。

それからはオマさんの言ってる事をクリアしようとついていきました。オマさんが演奏中にいいぞって表情をしてくれると嬉しいのです。
オマさんは音楽には当然とても厳しくて、はっきりと物を言う人です。また、アート・ブレイキーとの生活の話などの沢山のエピソードや面白い話をしてくれるリビング・レジェンドでした。僕は全く準備していなかったし、ジャズはほぼオマさんのバンドに入るまではまともに弾けなかったのですが、オマさんのバンドに入るということはジャズ界に入っていくことを意味しました。

オマさんの同世代の方達や、オマさんからしたら後輩の方達などから次々声がかかるようになり経験を積みました。
これは説明すると、オマさんが音楽家として高い審美眼を持っているからオマさんがよく使うメンバーは間違いないだろうと興味を持ってもらえたのです。大分先になってからその事に気付きましたが、その頃はオマさんの言うことをクリアしてジャズを演奏できるようになり、他の先輩方ともセッションを重ねる事でいっぱいいっぱいだったように思います。
スタンダードは「枯葉」しか弾けなかったのにあっという間にレパートリーも増えていき、いろんな場所での演奏を経験させてもらいました。

レコーディングに呼んでもらえた時の様子もよく覚えています。はじめて国内最高峰のレコーディングスタジオで録音した経験です。オマさんに二年半ほど付いていったでしょうか。そのままそんな生活が続くと思っていたら、急にメジャーデビュー直前のSOIL&”PIMP”SESSIONSに加入することになり、だんだんとデビュー直後のSOILの活動と他の活動の両立が難しくなっていきました。
オマさんと話してバンドを抜けることになりました。スガダイロー氏がオマさんのバンドをやることになりました。

それからはオマさんと音を出せるのはたまにオマさんが企画するセッションなどになりましたが、たまにでも充分刺激的で記憶に残るセッションばかりです。
オマさんの残した金言は多くて「海外の一流のプレーヤーに認められなければいけない」とか「個性的でないといけない」とか刻み込まれた言葉ばかりです。
バンドに加入したばかりの頃、「なんでオスカー・ピーターソンみたいに弾けないんだ」と言われた時は堪えました。
今となっては楽しい思い出ばかりです。そして晩年のオマさんはお爺さんになっていましたが、僕が出会った頃はすごい色気でとにかくモテる人でした。ステージでの動きを含めてとにかくかっこいいのです。


※2021年2月8日、新宿ピットインにて、師匠との最後のセッションの後。(冒頭の写真も)

僕の祖父はよくサングラスをかけていましたが、オマさんもよくサングラスをかけていました。二人の影響で僕はサングラスをかけているのかもしれません。
そして鈴木勲さんと出会わなければ間違いなくジャズをプレイできるようにはならなかっただろうと思います。


丈青 Josei ピアニスト/作曲家
ボーカリストである母の影響で、3歳からピアノにふれクラシックを学ぶ。また同時にブラックミュージックをはじめとする多岐にわたる音楽に親しみ、その語法を独学で習得。
2003年にSOIL&”PIMP”SESSIONSに加入、メジャーデビューを果たす。Gilles Petersonに認められたことから活動が世界規模へと発展、2007年には同バンドから派生したピアノトリオJ.A.Mを結成、これまでに3枚のアルバムをリリースする。
コロナ禍の2020年は、早々にソロピアノでの無観客配信ライブを行い、新たな活動拠点を確立している。
丈青 公式ウェブサイト

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