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R.I.P. カーラ・ブレイNo. 308

追悼カーラ・ブレイ by 西島 芳

Text by Kaori Nishijima 西島 芳

カーラ・ブレイ氏を悼むにあたり、いまあらためて聴いているアルバムをご紹介したい。
本稿の依頼を受けて、昔みたインタビューあれなんだっけと探したら意外とあっさり出てきた。こちらのYouTubeでご覧いただける。

ところが、ここで触れられているアルバムを聴いた記憶がない!
これはいけないと思い、心して聴く。
2009年リリース、管楽器を中心に据えた『Carla’s Christmas Carols』(Watt 35)。
インタビューでカーラが「暗いシーズンに光が必要」と言及している。
ここで言う「暗さ」には季節のみならず社会情勢への憂いが含まれていることは間違いない。
聴いているうちに、これを聴かずして今の私があるだろうか、と記憶を疑い始める。

話は飛ぶが、奇遇にも2009年村上春樹氏がエルサレムで行った、エルサレム賞受賞スピーチが、再注目されている記事を読んだ。難しい局面にありながら、言葉を追求する人ならではの表現が胸を打つ。

このアルバムを作った時のカーラの真の胸中は知る術もないが、文筆家は言葉で、音楽家は音で世界のありようを表現する。国境も主義も宗教も超えた問答無用の生命への讃歌。それは作者自身の意図さえ超えているかも知れない。そしてその音の中には、ひっきりなしに市場を賑わす音の陰になったり、仮に記憶の表層から消えたりしても、人の心の深いところで静かにしかし凛然と響き続けるものもある。

本日わが家には二人のよちよち歩きさんの来訪があった。子育てに奮闘中の盟友ギタリストが、やはり音楽家の奥さんにゆっくりしてもらうため、二人を連れて遊びに来たのだ。目が離せないので久々のおしゃべりも途切れとぎれになるがいい時間だった。かわりばんこに抱っこした柔らかな温もりが残る中、2023年師走も近い今日、カーラのクリスマス・キャロルに、悲痛にも近い平和への願いと、かけがえのない音楽仲間への親愛を感じるのは私だけではないだろう。

カーラ、素晴らしい音楽をありがとう。


西島 芳 Kaori Nishijima: Pianist, Composer
福岡市生まれ。作曲・作詞、弾き語りのほか、ダンサー、現代美術家など異分野のアーティストとのコラボレーションを行っており、アートブックレット付きC Dなどユニークなアルバムを複数発表している。リーダーユニットとして「息のかさなり」をテーマとした3つの管楽器と声とピアノによる;Ensemble Shippolly、白石美徳(d)とのデュオユニットplaying on a blanket、市野元彦(g)、外山明(d)をメンバーとするSONONIなどがある。2020年よりソロ作品をBandcampに発表開始。また2012年よりスウェーデンの音楽家やアーティストとの共演や共作、交流を重ねており、2023年夏には2ヶ月滞在して制作や演奏を行い、Anders Kjellberg(d)とのライブアルバムをデジタル配信で2024年に発表予定。 公式ウェブサイト kaorimusic.net

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