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R.I.P. パレ・ダニエルソンNo. 315

心からの敬意と感謝をこめて by 酒井麻生代

Text by Makiyo Sakai 酒井麻生代

Palle Danielssonの訃報を聞いて、ちょうど1週間を過ぎた頃だっただろうか。
私は昼のライブを終えて、行きつけのジャズバーへと向かった。
珈琲を注文し、しばらくするとマスターは黙ってレコードを差し替え、ゆっくりと針を落とした。

流れてきたのは、スウェーデン出身のミュージシャンで構成されたカルテット、Rena Ramaの1974年録音『Rena Rama』だ。

アフリカンなリズム、アジアの民族色を感じる笛の音に、店の空気は一気に異国へと誘われる。しばらくして、Bobo Stensonのピアノでベースラインが力強く入ってくる。そこに、ユニゾンでPalle Danielssonが骨太な音を重ね、Lennart Abergがソプラノサックスで雄叫びを上げる。
ECM色薄めのサウンド、1曲目からもの凄い熱量を帯びながら、スピリチュアルな要素を感じさせつつアンサンブルが展開されていく。

Rena Ramaの作品の中では、1977年録音『Landscapes』のPalle Danielssonのプレイは特に存在感があり、彼のエキゾチックなオリジナル楽曲である2曲目は、語るように実に自然に鳴り響くベースソロに始まり、楽器が加わるにつれアバンギャルドな印象も強まっていく。そう、このRena Ramaのアンサンブルに発展をもたらしているのは間違いなくPalle Danielssonのベースだと言え、豊かな表現力から彼のアイデンティティを存分に享受できる。

マスターは、スウェーデンから帰国直後だった私に気を利かせて、レコードをチョイスくれたのだろうか。いや、そんなタイプでもないか。

Palle Danielssonといえば、Keith Jarrettのヨーロピアンカルテットを思い浮かべる人が多いだろう。サックスにJan Garbarek、ドラムはJon Christensonという究極のメンバー、Keith以外は皆、北欧のミュージシャンだ。
スタジオ録音の2枚、1974年録音の『Belonging』と1977年録音の『My Song』については、私自身もあまりにも聴きすぎて、今更何を語ったらいいかわからないし、私が語るまでもないだろう。名曲、名演、言うことなし、この世に最高の作品を残してくれてありがとうと、ひたすらに伝えたい。

さて、もしもあなたにとって大切なジャズのアルバムを挙げるとしたら?と聞かれたら、みなさんはどのアルバムを選ぶだろう。

私はといえば、こちらのアルバムになる。
Peter Erskine Trio 『You Never Know』だ。
ピアノはJohn Taylor、そして、ベースがPalle Danielsson。

なぜこのアルバムなのかという理由は、長くなるのでまたの機会があればお話しできたらと思うが、これを聴くときは、つい正座をしたくなる。
私にとって神々のトリオの戯れ、ミュージシャンとしても多大なる影響を受けているアルバムだ。
ダイナミクス豊かに色彩をクリアに刻むドラム、リリカルで透明感に溢れた美しいピアノ、そこに絶妙なセンスで躍動をもたらす創造性の高いベース。ECM諸作品の中でも究極のピアノトリオだと感じる。

さぁ、マスターは次のレコードを選んだ。その表情は、少しドヤ顔にも見えた。

Enrico Rava 『The Plot』。
メンバーは、ギターJohn Abercrombie、ドラムJon Christensen、そして、ベースPalle Danielssonだ。
私がこの店につい通ってしまう所以だ。

その日は思いがけず、Palle Danielssonの作品を2枚聴くことができ、ご機嫌なまま眠りについた。翌朝、今回の執筆の依頼をいただき、不思議なご縁を感じた。

思えば、Kenny Wheeler、Bill Evans、Michel Petrucciani、Don Cherryなど、私の愛するミュージシャンとの多くの共演や作品があり、改めて大きな喪失感を感じるとともに、ジャズの歴史において、最も重要なポジションでミュージシャンを支えながら音楽をクリエイトしてきたベーシストPalle Danielssonに、心からの敬意と感謝を伝えたい。
どうか安らかに。


酒井麻生代 Makiyo Sakai: フルート奏者・作曲家
大津市出身。11歳よりフルートを始め、学生時代はクラシックを学び、様々なコンクールで受賞。大阪教育大学 教養学科 フルート科卒業。 ボストンに短期留学以降、ジャズに転向。帰国後、拠点を東京に移し、岡淳氏、グスターボ・アナクレート氏に師事。
2016年、ポニーキャニオンよりメジャーデビュー。リーダーアルバム「Silver Painting」と「展覧会の絵」をリリース。
ブラジル音楽にも精通し、自身を中心とするユニットBanda Felizのアルバム『Boa Viagem』をリリース。 その後、渡辺貞夫グループなどで活躍中のギタリスト、マルセロ木村とのデュオアルバム『Vida』をリリース。
最新アルバムは、世界的ジャズピアニスト、フィリップ・ストレンジとの全曲オリジナルのデュオアルバム『Bring the Light』。
都内を中心に、年間約240本のジャズライブの他、歌謡曲や演歌においても活動し、渡辺真知子、布施明などのサポートでのテレビ出演、八代亜紀のレコーディング等、幅広いジャンルのアーティストとの演奏を行なう。作曲家としての評価も高く、楽曲提供なども行なう。
*最新情報はこちらから* H.P.BLOGTwitterInstagramCD: makiyo.thebase.in

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