コントラバス奏者としてのパレ・ダニエルソン考 by 小美濃悠太
Text by Yuta Omino 小美濃悠太
Palle Danielssonの訃報を知り、改めて彼の演奏を聴いてみよう、と参加作品を探した。Keith Jarrettのいわゆるヨーロピアンカルテットという気分でもなく、Peter Erskineとリズムセクションを組んでいる諸作は普段から聴いている(聴きすぎている)。では何かほかに……と、もう一段掘り下げようと思うと参加しているアルバムが案外思いつかない。訃報を知ったあと彼のどの演奏を聴きましたか、というアンケートを取ってみたい。
ECMの重鎮ベーシストたちは、コントラバスの演奏テクニックに長けていて、演奏は華やかで主張が強い。その中にあって彼はボトムをしっかり支える職人気質で、ベーシストとして王道を行きながらECMベーシストとしては異質とも言える。Palle Danielssonの演奏の印象が薄いのはこのあたりが理由だろうか。
本稿の執筆にあたり、まだ聴いていない作品を探してみよう、ということで聴き始めたのがBenjamin Koppelの『Paris Abstractions』。Daniel Humairとのリズムセクションで、ベーシストの本性が出やすい(と個人的に思っている)コードレストリオなのでPalleのプレイに注目して聴くには都合がいい。
真っ先に気づいたのは、ECM作品であってもそうでなくとも、またどの時代の作品であっても、残っている録音の音色はあまり変わらない点である。マイクで録った録音とライブ映像で聴ける音の印象に大きな差はない。Paris AbstractionsはECMではなくCowbell Musicからのリリースだが、やはりPalleの音がする。
いくつかの映像と録音から察するに、コントラバスから出る生音はミドルの押し出しが強く音程感がはっきりしていて、しかも暖かくて心地よい丸みがある。アンプから出ている音も同じ印象で、どんな環境でも自分の音色が出せるベーシストだったのだろう。バンドアンサンブルの中で絶妙な位置を占めていて、出過ぎず、埋もれもしない。これが多くのミュージシャンから信頼されていた理由なのではないだろうか。
幼い頃にヴァイオリンを学んでいたせいか、ポイントを外さない音程感で演奏しているのもさすがの名手である(シビアな音程が問われるセッティングにも関わらず安心して聴ける)。
これだけの職人技を持っていて、バンドを後ろから支えプッシュする演奏はベーシストとしてある意味理想である。リスナーではなくプレイヤー目線で彼の演奏を聴きたくなってしまうのは、彼がまさに重鎮ベーシストたる証左であろう。
小美濃 悠太 Yuta Omino: コントラバス奏者
1985年、東京生まれ。千葉大学文学部卒業、一橋大学社会学研究科修了。大学在学中から演奏活動を開始し、数々のミュージシャンの薫陶を受ける。モダンジャズからコンテンポラリージャズ、ヨーロピアンジャズ、ブラジル音楽まで貪欲に吸収し、国内外を問わず活躍。BIO: yutaomino.com/bio/ ライブ情報: yutaomino.com/live/