ずっと思っていたこと。 稲垣元則
林さんとノマルとぼくの間には2001年から23年間、個展が14回、グループ展は19回、その他の企画もありました。
その間、林さんから作品のことについて、よくない、悪い、と言われた記憶はあまりありません。いつも肯定の中にありました。
しかし、ぼくにはいつも林さんに対してとても大きな畏れとプレッシャーとストレスを感じていました。「こういう人のことを天才と呼ぶんだ」という人に初めて出会いました。いつも人懐っこく笑顔ですが、普通のことは言わない。洞察が異常に早く深い。自分の見当もつかない先を行く提案をする。そんな人との必死の仕事の中で、ぼくはアーティストになりました。もちろんいろんな思い出がありますが、林さんとの本当の会話は創作における戦いによって行われたと思います。
どういうわけか今はあまり悲しくありません。林さんは生きている間から膨大な才能や愛を、そしてただ信じることを多くの人や作品に分配してきた人です。身体を超えてノマルやスタッフ、他の作家に、林さんの才能や面影が見えます。同じく今ある自分の才能の中に、紛れもなく林さんの大きな才能があり、自分や自分の作品には林さんの面影があるでしょう。
不思議と終わったとは何一つ思いません。むしろ始まったとさえ思うのです。そう思わせてくれる人に出会い対面できたことに、よろこび以上にいまだに驚きを感じています。
*写真キャプション
2018年11月17日「龍野アートプロジェクト2018」へ共に参加したノマル・アーティスト記念撮影。
林聡の後列左より東影智裕、ドットエス(橋本孝之&sara)、稲垣元則。
1971年京都生まれ。90年代はじめよりドローイングを開始する。以降同じフォーマットで継続し、ドローイングそのものが自身の思考のベースであると考える。2000年前後より写真や映像などのメディアを用い、抽象性の強い風景などをモチーフに世界の不確定性や時間の往来などを問う作品を制作。関西を中心に活動し、国内外でのアートプロジェクトに参加。ギャラリーノマルでの個展・グループ展多数。
photo by Juergen Staack