及川さんの思い出 by 昆布佳久
私と及川さんの最初の出会いは、日本音響家協会で行われたドラム・マイキングのセミナーでした。私では思いつかないような独自のマイキング手法を惜しみなく披露され、その自由で独自なアプローチに驚き、強く印象に残ったのを今でもはっきりと覚えています。
私がNHK在職時からもお目をかけてくださり、その後も折に触れてご縁をいただきました。特に思い出深いのは、同じく日本音響家協会でのピアノ・マイキングのセミナーです。及川さんは参加者に、キース・ジャレット録音時のマイキングを紹介してくださいました。私も含めた数人の講師陣が自分のマイキングを披露するスタイルですが、当時すでに足の具合が思わしくなかった及川さんの代わりに、私が手足となり指示通りにマイキングを行いました。このとき、一番学ばせていただいたのは、きっと私だったと思います。
その後、自分のレコーディングでも教わったマイキングを試し、完成したCDはJazzTokyoでもご紹介いただくことができました。及川さんの訃報に接したときは、本当に残念でなりませんでした。もっとたくさんお話を伺いたかったし、音について語り合いたかった。
振り返れば、ご一緒した機会はすべて合わせても20時間ほどだったでしょうか。それでもSNSでは録音の話題を中心に、健康のこと、食べ物のこと、靖国神社のお詣りのことなどもやり取りできたのが良い思い出です。及川さんの穏やかで温かいお人柄がとても好きでした。
限られた時間の中で、私にとってかけがえのない学びと記憶をくださった及川さんに、改めて心より感謝し、ご冥福をお祈り申し上げます。
昆布佳久
1977年にNHKに入局。ドキュメンタリー、ドラマ、スポーツ中継などを経験し、1988年ごろから本格的に音楽ミキシングに携わる。スタジオ録音のほか、マウントフジジャスフェスティバル、ニューオリンズジャズアンドヘリテージミュージックフェスティバル、レゲエジャパンスプラッシュ、サンタナ、デビットボウイなど多くの野外コンサート、ホールコンサートのライブ収録を担当する。