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R.I.P. 及川公生No. 325

『refined..』コペンハーゲン録音の想い出 by 城戸夕果

及川さん、ありがとうございました。

及川さんには、3枚のアルバムでお世話になりました。当時駆け出しの私にも、マイキングや録音の音色について録音中に話してくださり、コンソールの前でマイク越しだけで聴くのではなく、何度もスタジオの中に来て、ミュージシャンの生音を直接しっかり聴いてくださったりと、大巨匠なのにここまで手間暇惜しまず取り組んでくださる姿が、とてつもなく嬉しいものでした。
僭越ながら、及川さんとの思い出と共に、中でも特に貴重な経験を得たアルバムについて、書かせていただきます。

私の『refined..』というアルバムの録音は、コペンハーゲンの Easy Sound Recording Studioでした。
このスタジオは、元々映画館であったそうで、壁には美しいレリーフが連なり、体育館のように相当に広い空間。確か、スタジオの隅には卓球台もありました。
メンバーは、ベースの巨匠ニールス・ペデルセン、パーカッションにマリリン・マズール、ギターはウルフ・ワケーニウス。
まずは、広いスタジオ内で録音の場所を探る及川さん。現地のアシスタント・エンジニアが、このスタジオでペデルセン氏がいつもここだと決めているという「定位置」 を、及川さんに耳打ちする。その場所を中心に、マイキング。結局、皆、小さな輪になっての録音に。

自分の演奏はさておき、改めてこのアルバムを聴くと及川さんの録音の素晴らしさに心を奪われてしまいます。マイルス・バンドでも活躍したパーカッションのマリリン・マズール氏の打楽器が、リアルに弾け、豊かな音色のペデルセン氏のベースは、目の前で演奏しているよう。

このアルバムは、1日での全収録でしたが、収録後すぐにラフ・ミックスを開始。ドライな音になりがちな北欧の録音も、及川さんの手に掛かると少し湿気を帯びた活き活きとした音になっていきました。

この収録日の前日にデンマーク入りした及川さんたちは、空港からその足でリハーサル場所であるペデルセン氏の自宅へ直行し、既にリハーサルを始めていた私たちと合流。ペデルセン氏とは、「父親に対する、つれない子供の態度」という話題で盛り上がっていました。互いに子を持つ父親同士の、微笑ましい会話でした。その後、マリリン氏のパーカッションについても、いくつかの質問をされていました。
及川さんが作り出してくれる良い雰囲気がきっかけとなり、次の日の録音も、スムーズに進んだのだと思います。録音だけではなく、ミュージシャンの気持ちにスーっと入って来てくださる実に温かい方でした。

及川さんは、本当に多くの音楽を聴いておられました。
大変な実力者なのに、先輩風など一つも吹かさず、輝かしい録音を残したエンジニアという立場もひとまず傍に置き、真摯に聴いておられたのではないかと思います。

2022年、私がゲストで参加させて頂いた沢田穣治さんのアルバム『Contra Banda』について、及川さんが「Jazz Tokyo」に書いてくださりました。ミュージシャンやエンジニアに対する優しい眼差しを感じ、改めて胸がいっぱいになりました。


城戸夕果 Yuka Kido: フルート/アルトフルート/作曲・アレンジ
1989年小野リサのバンド参加を契機にブラジル音楽に出会い、長くリオデジャネイロに在住し、複数のリーダー作を録音。ボサノバの先駆者ジョニー・アルフ、ジョアン・ドナート、カルロス・リラ、ジョイス・モレーノらと活動。日本では自身のバンドでの活動のほか、宮沢和史、EPO、渡辺香津美らと共演。その後、外交官夫人としてブリュッセル、ブラジリア、ボストンに在住。各地での音楽活動後、2020年に帰国し日本での活動を開始。テレビ出演「おんがく交差点」(司会・春風亭小朝)、NHK BS「J-MELO」、NHK Eテレ「みいつけた」など。ブラジル音楽を軸にジャズなどの素養や、海外での多彩な経験も加味し更に活動。2025年6月には、ブラジルの代表的ミュージシャンの参加も得たニューアルバム『Brisa(ブリーザ)』をリリース予定。


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城戸夕果(ブラジリアン・フルーティスト)1990年代アルバム6枚の配信を開始

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