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R.I.P. ジャック・ディジョネットNo. 332

1988年3月のジャック・ディジョネット by 太田 剣 

Text by Ken Ota 太田 剣

ジャック・ディジョネット。30年の長きに渡り、活動を共にした「スタンダーズ」の盟友ゲイリー・ピーコックが旅立ったその5年後に、キース・ジャレットを一人残して、ジャックもまた現世での生を終えたという知らせはとても残念なものでした。2014年5月、ラビ・コルトレーン(ts)とマシュー・ギャリソン(eb)という、あのジョン・コルトレーン・カルテットのメンバー二人の遺伝子を継ぐ俊英たちと組んだジャック自身のトリオでのブルーノート東京公演、それが私が目の前で聴いた最後のジャックの演奏ということに。いついかなる時も「最高到達点レベルで音楽的」という表現すら全く足りてないほど素晴らしいそのドラムプレイについては、もはや私ごときが何をか言わんやという感じで何も付け加えることがないほど語り尽くされてきたことと思いますが、それでもあくまで個人的に、今まで聴いてきたジャズ作品の中でも十指に入ると感じている二作品の時間軸が重なっていたという奇跡「1988年3月のジャック・ディジョネット」のことを少しご紹介してみようかと思います。


1977年作品『Tales of Another/ゲイリー・ピーコック』(ECM1101)の三者邂逅から6年後、1983年からパーマネントなトリオとしての活動を始めたキース・ジャレット〜ゲイリー・ピーコック〜ジャック・ディジョネットの通称「スタンダーズ」。『Standards vol.1』『vol.2』に端を発した諸作に刻まれた唯一無二のピアノトリオ・サウンドの尊さは言うに及ばずですが、その作品群の中でも、私の個人的な嗜好を通り越して、絶対的・普遍的な価値を有していると信じて疑わないライブ盤が『Still Live/キース・ジャレット』(ECM1360/61)。ここに収録されている、言葉ではとても形容しきれない、人智を超えた超常現象の世界のようにも思える音楽の物語は、聴くたびに興奮と陶酔に包まれる、永遠に色褪ることのない1986年のドイツ(ミュンヘン)のフィルハーモニックホールでの1日の記録です。

そして、この音楽が作品としてECMレーベルからリリースされたのが1988年3月。そのときジャック・ディジョネットはニューヨークのスタジオ「パワーステーション」で、ECMレーベルの別のトリオのレコーディングに臨んでいました。それが『Triplicate/デイブ・ホランド』(ECM1373)です。1984年頃からホランドの作品に参加して共演を続けていたスティーブ・コールマン(as)と、1969年録音『Bitches Brew/マイルス・デイビス』の頃からマイルスバンドの仲間だったホランドとジャック。ジャズ界隈では定着している用語「コードレストリオ」という、ピアノやギターなどのハーモニー楽器の奏者が参加していないサックス+ウッドベース+ドラムのトリオ編成ながら、こんなに多彩な情景を描ききれている作品を他に知りません。音楽の中心には1mmたりとも揺るがない漆黒の堅木柱のようなホランドのベースビートがあり、決して声を荒げぬ美声の語り部のようにクールな表情で幻想的な話をとめどなく続けるスティーブ・コールマンのアルトサックス、そして時にそれらを覆う額縁だったり、時に情景に描かれた背景の全てを奏でたりしているジャックのドラム&パーカッション。その三者の音の存在だけで、何も過不足無く、深く美しい世界観を表出・完成させている物凄い作品です。デューク・エリントン(p) & ジョン・コルトレーン(ts)のアルバムで知られる曲「Take The Coltrane」のここに収録された演奏、そのテーマメロディの最後の1コーラスのジャックのドラミングは、何十年聴き続けている今なお、自分の中で明確な答え(説明)を出せない芸術的領域の演奏で、ジャックへのインタビューも叶わなくなってしまった今、もしスティーブ・コールマンと話せる機会があったらぜひ質問してみたい「ラストメロディの謎」。でも返ってくる答えはきっと「あれはジャックが感じていたあの時の音楽のフィール(feel)、ただそれだけだよ」かもしれない。そんな気もしているのです。

Take The Coltrane


太田 剣 Ken Ota
ミュージシャン、サックスプレイヤー。愛知県出身。池田 篤、ケニー・ギャレット、ビンセント・ハーリングらに師事し、大坂昌彦カルテットでプロデビュー。2006年に1st アルバム『SWINGROOVE』でジャズの名門、Verveレーベルよりメジャーデビュー。2021年より自身のレーベル、SCRAMASAX RECORDSを立ち上げ、『SONGS FROM THE HEART/太田剣 with 和泉宏隆』(SRMS-001)ほか、“k.a.t.”(太田剣・秋田慎治・土井孝幸)、“TETE-A-TETE”(太田剣&松本圭司)の作品などをリリース。最新作はクリスマスアルバム『CHANT DE NOËL/太田剣&松本圭司』(SRMS-006)

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