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Monthly EditorialConcerts/Live ShowsEinen Moment bitte! 横井一江No. 319

#48 「秋のアキ2024」顛末記

text & photo by Kazue Yokoi  横井一江

毎年、秋になるとベルリン在住の高瀬アキが帰国してコンサートやライヴを行う。何らかのかたちで毎回関わっているのだが、語呂がいいので「あきのあき」と何気に言っているうちに「秋のアキ」という呼称がいつの間にか定着してしまって現在に至る。「秋のアキ2024」はサックス奏者ダニエル・エルトマンを伴ってのツアー、これまで東京以外の会場にはなかなか足を運べなかったのだが、今年は直接関わった公演(岡崎、東京、熱海)に出かけることにした。秋のアキ・ツアーは10月2日の神戸100BANホールでのデュオと3人のダンサー(岡登志子、垣尾優、桑野聖子)と櫻井類のドローイングとの即興コラボレーションで始まっている。小型のミラーレス・カメラ一台持って5日と6日の岡崎公演に出かけた。

岡崎というと一般的には徳川家康生誕の地として知られているが、長年ジャズ・ミュージシャンを支援し、ドクター・ジャズと呼ばれた故内田修が市に寄贈したコレクションの展示室があり、「ジャズの街岡崎」を標榜している自治体だ。市にはジャズの街岡崎発信連絡協議会があり、幾つかの非営利団体が参加していて、それぞれ活動を行っている。今回「高瀬アキ&ベストフレンズ」と題したコンサートの主催団体 Yahagi Jazz Night 実行委員会もそのひとつだ。5月頃だっただろうか、杉浦秀一実行委員長との話の中で日本のジャズについての研究書『Blue Nippon』(Duke Unversity Press, 2001) を書いたアトキンス・テイラー北イリノイ大学教授の名前が出てきたのには驚かされた。日本のジャズ研究で来日した際にドクター内田を紹介したのが彼だったのである。本を引っ張り出して、読み飛ばしていたAcknowledgementsをみたら、彼に鰻と赤味噌(おそらく岡崎産の八丁味噌)を教えもらったとの記述も。こういう繋がりもあるのだなあと感心した。

コンサートは、高瀬アキ、ダニエル・エルトマンのデュオ、そして早坂紗知 (sax)、井野信義 (b)、小山彰太 (ds) が参加したクインテットで、10月5日はカーラ・ブレイ作品とオリジナル曲、6日はエリントン作品とオリジナル曲を演奏。まずデュオを観て、ダニエル・エルトマンの変貌ぶりに驚かされた。卓越した技術をもつサックス奏者で、音色が良いのはもちろん、柔らかでニュアンスのある音を出すところに魅力を感じていたのだが、何かが吹っ切れたようで2年前に比べて表現の幅がぐっと広がった。CD では聴いていたものの、演奏に直に触れたことで余計そのことに気付かされたのである。クインテットはこの顔ぶれでの演奏は初めてにもかかわらず、ベテラン揃いだけあってバンドとして好演していた。贅沢を言うならば、数箇所ツアーで回った後だったら、もっと即興演奏で各々ミュージシャンが遊べるようになっただろうなあと。高瀬はよくピンポン玉をピアノの弦に乗せたり、投げ入れたりして演奏するが、6日の最後の曲<マジック>ではそのピンポン玉を客席に投げ入れるというパフォーマンスも。運良くピンポン玉が近くに飛んできたお客さんにとってはいいお土産になったようだ。観客の多くにとっては普段聴いているジャズとは一味違い、新鮮な刺激をうけたようだ。このような機会を得られたことは有り難い。また、リハーサル、そして本番2日間、温かなおもてなしは Yahagi Jazz Night ならではのもの。岡崎公演のメンバーは、翌7日甲府の桜座でも演奏した。

10月5日 6日 YAHAGI JAZZ NIGHT ’24
岡崎市 やはぎかん(岡崎市西部地域交流センター)

高瀬アキ (p) &ダニエル・エルトマン (sax) Guest: 早坂紗知 (sax)、井野信義 (b)、小山彰太 (ds)

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場所を東京に移して、新宿ピットインの 2days は高瀬がこれまで演奏したことのないミュージシャンをゲストに迎えての演奏。10月8日は大友良英、高瀬とターンテーブル奏者という組み合わせは実は意外でもなんでもなく、約20年前からアレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ (p)、DJ Illvibe (ヴィンセント・フォン・シュリッペンバッハ、turntable)とのファミリー・バンドLok.03で演奏しているし、近年高瀬が力を入れているエルトマンも参加しているバンド JAPANIC にもヴィンセント・フォン・シュリッペンバッハが入っている。実は当初ヴィンセントも日本に招聘する計画を立てたのだが、昨年国内外で出した助成金申請で落とされてしまい叶わなかった。その時に大友とヴィンセントとのターンテーブル・デュオを思いついたことが発端で、計画の修正を余儀なくされたものの即興セッションも面白かろうと初共演となったのだ。果たして、期待違わぬ楽しいセッションで、大友の聴く力と即興演奏家としての力量を再認識した日だった。
*この日の演奏は公演日から1ヶ月間アーカイヴ配信で観ることが出来る (配信終了: 11月8日0:00:00)。詳しくは: https://streaming.pit-inn.com/

10月8日 東京 新宿ピットイン
高瀬アキ (p) &ダニエル・エルトマン (sax) Guest: 大友良英 (turntable, g)

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10月9日のゲストはハイパー箏奏者として知られる八木美知依。昨年のケルン・ジャズ・ウィークには、それぞれフィーチュアード・アーティストとして招待されていた。そこで何かの機会に一緒に演奏出来ればいいねと話をしていたことから、この日の共演となった。高瀬やエルトマンにとって箏奏者との共演は初めてのため、おそらく最初は手探りだったと想像するが、作品はあるものの即興性の高い演奏で、回を重ねるともっと多彩なサウンド展開が期待できそうな予感がした。新宿ピットイン 2days では、これまでのエルトマンとは違った即興的アプローチを観れたのも収穫である。

10月9日 東京 新宿ピットイン
高瀬アキ (p) &ダニエル・エルトマン (sax) Guest: 八木美知依(エレクトリック17絃箏、エレクトリック21絃箏)

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10月10日に新潟ジャズフラッシュでの「秋のアキ・スペシャル・ナイト」があり、ツアー最後の演奏は巻上公一がプロデューサーを務める熱海未来音楽祭。会場の起雲閣ミュージックサロンはアコースティック演奏にぴったりな場である。デュオでの最新作『Ellington!』(enja)、また前作『Isn’t It Romantic?』(BMC)に収録されている曲を演奏していたが、作品から自由な即興演奏が展開、CDとはまた一味違う二人の豊かな音楽的対話が堪能できる貴重な時間となった。

10月13日(日) 熱海未来音楽祭  熱海市 起雲閣
高瀬アキ (p) &ダニエル・エルトマン (sax)

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赤い日ル女 @熱海未来音楽祭 2024

高瀬アキ&ダニエル・エルトマンのツアーは終わり、エルトマンは帰国。その後、毎年恒例の高瀬と作家多和田葉子との晩秋のカバレット「『ホフマンものがたり』可羅栗オペラ」が10月15日にシアターχ で予定されていた。北ドイツ放送 (NDR) の番組「カフカ:ジャズと文学」がきっかけでスタートした多和田と高瀬のパフォーマンスが日本で最初に行われたのが2000年の下北沢アレイホール、それから四半世紀、シアターχ での公演はコロナ禍の中断を経ての20回目である。ところが、ゲスト出演する筈の『カルメン・ラプソディー』(BMC) にも参加していたベルリン在住の声楽家 中村まゆみが急病で入院、帰国出来なくなってしまった。既に中村が出演する想定で構成を考え、作曲をしていた高瀬にとっては晴天の霹靂である。今回の公演は歌い手なしには成立しないので、代役を探さねばならない。とはいってもジャズ・ヴォーカリストには難しい内容だ。かといって声楽家は知らない。熱海未来音楽祭で「赤い日ル女 (voice) 、巻上公一 (voice)、坂本弘道 (cello)」を観たことから、高瀬は赤い日ル女に連絡をとることにした。承諾した赤い日ル女は譜面を受け取り練習、リハーサルは数時間だけだったが、『ホフマン物語』に出てくる人形役に臨む。多和田の朗読、その言葉を音楽的に捉えての高瀬の演奏に加え、赤い日ル女の即興ヴォイスが役柄にピタリとハマり、予定していた曲は一部割愛・変更せざる得なかったものの公演は無事終了した。熱海未来音楽祭に出演したことから、思わぬ出会いがあったことでアクシデントを切り抜けることができたのである。翌16日の早稲田大学での同様のプログラムもこの3人で行った。また、これらの公演の他に、奈良と大阪で大野えり (vo) とのデュオもあったことを付け加えておきたい。

今年の「秋のアキ」は新たな出会いがあった。それが今後何らかの形で繋がっていけばいいなと思う。


【関連記事】
Reflection of Music Vol. 96 高瀬アキ&ダニエル・エルトマン
https://jazztokyo.org/column/reflection-of-music/post-99578/

 

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。ドイツ年協賛企画『伯林大都会-交響楽 都市は漂う~東京-ベルリン2005』、横浜開港150周年企画『横浜発-鏡像』(2009年)、A.v.シュリッペンバッハ・トリオ2018年日本ツアー招聘などにも携わる。フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)、共著に『音と耳から考える』(アルテスパブリッシング)他。メールス ・フェスティヴァル第50回記。本『(Re) Visiting Moers Festival』(Moers Kultur GmbH, 2021)にも寄稿。The Jazz Journalist Association会員。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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