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BooksNo. 221R.I.P. ルディ・ヴァン・ゲルダー

#086 「ヴァン・ゲルダー決定盤 101」

text by Kenny Inaoka 稲岡邦弥

書名:CDジャーナルムック「ヴァン・ゲルダー決定盤 101」
監修:後藤誠
版元:音楽出版社
初版:2006年12月18日
定価:1,800円+税

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ブルーノート、プレスティッッジ、インパルス、アトランティック、サヴォイ、ヴァーヴ...
1950〜60年代、世界に広がるジャズ・レコードの創造を支えた1人。
スーパー・レコーディング・エンジニア、ルディ・ヴァン・ゲルダー。
ヴァン・ゲルダーの仕事の数々を追うと、そこにメインストリーム・ジャズの太い鉱脈が見えてくる。
現代まで続く多産な成果から101+2のディスクを厳選。

 

冒頭を飾る日本のジャズ評論の先達ともいうべき相倉久人(2015年没)と平岡正明(2009年没)の対談が、ほぼヴァン・ゲルダーと同時代を生きてきた人間として、日本ではジャズ・レコードがどのように聴かれてきたかを、やや薮睨み的に概観する。ふたりに共通するのは、演奏ありきの時代にあっても、つまり、レコード・エンジニアにスポットが当たらない時代にあっても、再生された音に覚醒されてヴァン・ゲルダーの存在を知らされた事実。生音を聴き続けた現場主義のふたりの耳をそばだたせたヴァン・ゲルダー・サウンド。読者の期待を文句なく昂まらせる絶妙なイントロになっている。

続いてジャズ評論家やジャズ喫茶オーナー、エンジニアらがそれぞれの角度からヴァン・ゲルダーを語る小エッセイが5編。読者はヴァン・ゲルダーの人物像やキャリアなどについて予備知識を得ることになる。

パート2が「決定盤101」とタイトルされたディスク・ガイド。6章に分かれ、約半世紀にわたって関わったブルーノート、同時代を並走したプレスティッジ、

それに続くインパルス、モダン・ジャズの根幹をなすこの3大レーベルに加え、50~60年代に手がけた他のレーベル、最後に70年代以降の仕事について。この章立てを一瞥しただけで、ヴァン・ゲルダーのキャリアを追うことはすなわちモダン・ジャズの歴史を紐解くことを意味するということが誰にも合点がいくのだ。

2000作を超えるといわれる生涯に録音したアルバムから厳選された101(+2)枚のアルバム。解説はとくに録音面を重視した内容ではないが、随所に演奏にからめてヴァン・ゲルダーの手腕が評価される。解説は3人が分担しているが、ジャズ評論家で監修を務めた後藤誠以外は馴染みがないが、ジャズ全般に通じレコードをよく聴き込んだ背景が充分窺われる。できれば、筆者のプロフィールが欲しかった。もう1点、コルトレーンの代表作『至上の愛』(Impulse!)が抜けているのは、ヴァン・ゲルダーの仕事として何か問題があるということだろうか。

ジャズ喫茶で名盤に耳を傾け、新譜を追いかけたファンにはあの肉迫するスリリングでダイナミックなヴァン・ゲルダー・サウンドがまざまざと蘇ってくるだろうが、ヘッドフォンやイアフォン主体のデジタル世代の若者にはゲルダー・サウンドはどのように響いているのだろうか。知りたくても知りえない謎である。

最後に私事にわたって恐縮だが、筆者が関わったアルバムが101作のうちの1作として取り上げられているのは嬉しい驚きだった。エルヴィン・ジョーンズ、アート・ペッパー、ローランド・ハナ、リチャード・デイヴィスによる『Very R.A.R.E』(Trio)がそれだが、「このアルバムはヴァン・ゲルダー・スタジオにて録音からマスタリングまで行われた唯一の日本制作盤です。」

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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