#124 寺島靖国『ジャズ遺言状』
書名:ジャズ遺言状
著者:寺島靖国
版元:DU Books/Disk Union
仕様:A5 並製 352p
定価:2,200円(税別)
初版:2018年8月
腰巻きコピー:
辛口・甘口で選ぶ、必聴盤からリフレッシュ盤まで600枚。
80歳。ジャズ喫茶「メグ」閉店。未だ辿り着けないジャズの奥深さ、歯痒さを語るジャズ・エッセイ。
「JAZZ JAPAN」の人気連載「我が愛しのジャズ・アルバム」、待望の書籍化!
刊行からちょうど5年が経ち、著者85歳、ますますタイトルが意味を持ち出したのか? と思いきや、著者ますます元気一杯。ジムに通い、節食に努め、女性に色目を使いつつ “誇り高き” 老人を謳歌している。70年代、吉祥寺は “ジャズの街” だった。僕は著者が経営する “保守反動” の店「meg」を避け、もっぱら “リベラル” な「Funky」に通っていた。しかし、大学の先輩の顔を立てる意味もあり著者が経営するカフェ・バー「MORE」には顔を出していた。そこで目にするのはカウンターの端で読書に熱中する著者の姿だった。当時からエッセイが好きだったという。まさにその趣味嗜好が 100% 活かされたのが本書と言えよう。本書は月刊「JAZZ JAPAN」の連載エッセイ「我が愛しのジャズ・アルバム」から60本を厳選、1本10枚ずつ計600枚のアルバム紹介とともに書籍化したもの。毎回のお題は編集部から与えられるもので多種多様。その思い付きのような「お題」をいかにジャズに結び付け、エッセイにまとめ上げ、しかも10枚のアルバムを選び出すか、まさにエッセイストの腕の見せどころ、ジャズ・マニアとして知識の活かしどころである。
さて、「遺言状」である。古くは、聖徳太子の17条の憲法、明治天皇の5箇条の御誓文が国を統べる基本として制定された歴史が思い出される。17条の憲法は「和を以って貴しと為し」、5箇条の御誓文は「万機公論に決すべし」とした。翻って寺島靖国の「遺言状」は「ジャズ7箇条」として以下が列記されている;
1 .自己中心主義でゆこう。自分の耳で聞いてよければそれでいい。
2.「音色」で味わおう。
3 .名盤だけではない。●●こそジャズの醍醐味である。
4. まずは良い楽曲ありき。●●至上主義ではつまらない。味気ない。
5 .ジャズに疲れたら ●●とピアノ・トリオでリラックスしよう。
6 .ジャズはファッションである。服装やジャケットのかっこいいものを聴こう。
7 .新譜をどん欲に聴いて、心身をリフレッシュさせよう。
*●●については本書まえがきを参照願いたいと版元サイトにあります。
お分かりのように、寺島靖国遺言7箇条は、第一条から、聖徳太子が説く「和を以って尊しと為す」どころか、「自己中心主義」を薦めている。明治天皇の「万機公論に決すべし」にも反している。いや、彼の「保守反動」の立ち位置は70年代以来首尾一貫しているのだ。スタンダード=アメリカン・ソングブックを金科玉条とする彼のジャズ鑑賞美学を実例をあげて敷衍したのが本書である。見事という他ない。寺島教信者にはバイブルとして座右の書として手放すことはできないだろう。また、信者以外のファン、マニアにもジャズ鑑賞歴半世紀を優に超える著者の掘り当てる知られざるB級&C級の珠玉のアルバムの数々に耳を開かれる思いがするはずである。(文中敬称略)
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