#1292 『ジャック・ディジョネット/イン・ムーヴメント』

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Text 稲岡邦弥 Kneny Inaoka

Jack DeJohnette (ds, piano & electronic percussion)
Ravi Coltrane (tenor, soprano & sopranino sax)
Matthew Garrison (electric bass & electronics)

1. Alabama
2. In Movement
3. Two Jimmys
4. Blue in Green
5. Serpentine Fire
6. Lydia
7. Rashied
8. Soulful Ballad

Recorded at Avatar Studio, NY, October 2015
Engineer: James A. Farber
Mastering: Nicolas Ballard
Produced by Manfred Eicher


2年前に(2014年5月22日)にブルーノート東京で聴いたジャック・ディジョネットのトリオ・アルバムがECMからリリースされた。
http://www.archive.jazztokyo.org/live_report/report695.html

御大マンフレート・アイヒャーがNYのアヴァタ・スタジオで録音したもので、2年前にジャックが「キースとのトリオは終わった。これからはこのトリオを中心にやる。もうひとつ、ドン・バイロンのテナーとジュリオ・カルマッシにトランペットとピアノを担当させるカルテットも始動させるけど」と語っていた通りの力の入れようである。Live Reportでも指摘した通り、ジャックはマイルスやコルトレーンの遺産(スピリッツ)を自分を通して次世代の若者に継承するミッションを強く感じている。その思いはアルバムのラインナップを一瞥しただけでもよく分かる。

オープナーの<アラバマ>を聴いて驚くオールド・ファンも多いことだろう。<アラバマ>はコルトレーンの1963年録音のアルバム『Live at Birdland』に収録されたコルトレーンの書き下ろしで、<ユア・レイディ>と共に1ヶ月後にスタジオ録音され、バードランドでのライヴ演奏3曲と合わせて1枚のアルバムに仕立てられた異色の履歴を持つ。バードランドでのギグに先立つ3週間前、アラバマ州バーミンガムで「18番街バプティスト教会爆破事件」が発生、4人のアフリカン・アメリカン系の少女が狂的な黒人排斥主義者のテロにより爆殺、この曲は彼女たちへのレクイエムとして書かれたものなのだ。父親コルトレーンの衣鉢を継ぐラヴィの抑え気味のテナーに対し、ジャックのドラムスが徐々に怒りの炎を燃やしていく。<ふたりのジミー>は、マシューの父親でコルトレーンのベーシストだったジミー・ギャリソンとジミ・ヘンドリックス、ふたりのジミーへの献呈曲。<イン・ムーヴメント>と共に即興で演奏されたようで、マシューの重戦車のようなベースとエレクトロニクスがサウンドスケープを支配する。<ブルー・イン・グリーン>はマイルスとビル・エヴァンスの共作で、ふたりの先達へのリスペクト。<ソウルフル・バラード>と共にジャックのピアノが美しい。<太陽の戦士>は、去る2月5日死去したアース・ウィンド・アンド・ファイアのモーリス・ホワイトの作品。モーリスはメンフィス生まれのシカゴ育ち、AACMに出入りしていた頃はドラマーだったので、同じくAACMに在籍していた同年代のジャックと交流があったと思われる。若いマシューがフィーチャーされる。<リディア>は、ジャックの愛妻の名前で今までも度々録音されているジャックの愛奏曲のひとつである。<ラッシード>はコルトレーンの来日メンバーでもあったドラマーのラッシード・アリへのトリビュート。ジャックのドラムとラヴィのソプラニーノが終始激しいフリー・バトルを展開する。

ジャックのコメントによれば、ジャックはラヴィとマシューを少年時代から知っており、早く父親を亡くしたマシューはジャックの家庭に居候していたという。彼らにとってジャックはあらゆる意味でまさに父親的存在なのだ。

こういう紹介文を書くと、年寄りが能書きを垂れるから若者がジャズから離れていく、としたり顔で若者寄りの意見を吐く御仁がいるが、ジャズはもともと社会と密接な関係を持ちつつ発展してきた音楽だ。ロックやフォークだってそうだった。バーミンガムの教会爆破事件やコルトレーンを知らずにこのアルバムを聴くとその意義は半減するだろうし、ミュージシャンが意図するメッセージも充分に受け取ることができないだろう。だから敢えてその背景を書いた。音楽は聴けば分かるが、背景は知る努力をしなければ永久に分からないままだ。

稲岡邦彌

稲岡邦彌

稲岡邦弥 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。音楽プロデューサー。著書に『改訂増補版 ECMの真実』編著に『ECM catalog』(以上、河出書房新社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。Jazz Tokyo編集長。 https://www.facebook.com/kenny.inaoka?fref=ts

One thought on “#1292 『ジャック・ディジョネット/イン・ムーヴメント』

  • 稲岡編集長
    2016年5月17日 at 6:13 AM
    Permalink

    (ふたりのジミー)はJimmy GarrisonとJimi Hendrixだった...
    ジャックの自身のFacebookへのポストで判明。
    EPKも。

    In Movement also plays tribute to great legends such as Miles Davis and Bill Evans, Jimmy Garrison, Jimmy Hendrix and my collaborator from a long time ago the brilliant Maurice White. Learn more about this project here https://www.youtube.com/watch?v=YmksrygU7ls

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