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CD/DVD DisksNo. 217

#1294 『齋藤徹+かみむら泰一/Choros & Improvisations Live』、『齋藤徹+喜多直毅/Six trios improvisations with Tetsu & Naoki』、『ダンスとであって/矢萩竜太郎10番勝負!』

『齋藤徹+かみむら泰一/Choros & Improvisations Live』

かみむら泰一 (tenor and soprano sax), 齋藤徹 (bass)

1. Cheguei
2. Rosa
3. Naquele Tempo
4. Improvisation 1
5. Proezas de Solon
6. Vou Vivendo
7. Jomon
8. Desvairada
9. Espihna de Bacalhau

Recorded live by Hayato Ichimura at Kid Ailack Art Hall, Tokyo, January 27, 2016
Jacket art by Hyokichi Ohnari
Design by Mai Saitoh

『齋藤徹+喜多直毅/Six trios improvisations with Tetsu & Naoki』

齋藤徹 (bass), 喜多直毅 (violin), Xavier Charles (clarinet), Roger Turner (drums), 久田舜一郎 (小鼓, 謡), 沢井一恵 (五絃箏), 中谷達也 (percussions), 今井和雄 (guitar)

1. at Super-Deluxe on 31st July 2014
2. at Ko-en Dori Classics on 15th Feb, 2015
3. at Kid Ailack Hall on 30th June 2015
4. & 5. at Studio Es on 9th Oct, 2015
6. at Kid Ailack Hall on 19th Jan. 2015
7. at space&cafe Polepole-za on 15th April 2015
8. at Kid Ailack Art Hall on 30th June, 2015

Recorded and mixed by Hayato Ichimura
Jacket art by Yuji Kobayashi
Design by Mai Saitoh

『ダンスとであって/矢萩竜太郎10番勝負!』

矢萩竜太郎 (dance), 齋藤徹 (bass), Jean Laurent Sasportes (dance), Wolfgang Suchner (tuba), Ute Volker (accordion), Sebastian Gramss (bass), 池内晶子 (美術インスタレーション), 岩下徹 (dance), 上村なおか (dance), オオタマル (guitar, percussion), かみむら泰一 (sax), 喜多直毅 (violin), 熊坂路得子 (accordion), 黒田鈴尊 (尺八), 斎藤陽道 (カメラ), 佐草夏美 (ジャワ舞踊), さとうじゅんこ (うた), 庄ざき隆志 (dance), 鈴木ちほ (bandoneon), 瀬尾高志 (bass), 高橋愛 (dance), 田嶋真佐雄 (bass), 武元賀寿子 (dance), 田辺和弘 (bass), 辻康介 (うた), 南雲麻衣 (dance), 平野壮絃 (書), 松本泰子 (うた), 丸田美紀 (17絃), 村上洋司 (即興演劇), 元井美智子 (箏), Tyler Eaton (bass)

Directed by Masanori Kondoh
Shot by Hirotaka Masatsune
Produced by IZURUBA
Designed by Ayako Shiozaki

 

この春、齋藤徹さんから3枚の作品が届いた。サックス奏者・かみむら泰一とのデュオ『Choros & Improvisations Live』、ヴァイオリン奏者・喜多直毅と組んでさまざまな音楽家と共演した『Six trios improvisations with Tetsu & Naoki』、そして、ダンサー・矢萩竜太郎との活動を撮った映像作品『ダンスとであって/矢萩竜太郎10番勝負!』である。

近ごろ、齋藤徹は、ガット弦を張ったコントラバス演奏に取り組んでいる。本人の言葉を借りれば、それは時代に逆行した行動でもある。

現在、コントラバス演奏の主流のスティール弦だと、発音してからビブラートを強くかけて、まるでえぐり出すように音を出す傾向があります。特にクラシックの「名人」と言われる演奏で顕著です。
それは聴く人の感情を持ち去るような効果をもちます。しかしそれは感情をある方向に限定していく傾向があります。「どうです?気持ちいいでしょう?」と強制される気がしてしまいます。
https://www.facebook.com/tetsusaitoh/posts/1178166695556906

違いは明らかで、この4月に、横濱エアジンにおいてガット弦による氏の演奏を目の当たりにして、筆者は少なからぬ驚きを覚えた。美しい山を描く周波数のプロファイルが心に共振を与えることがあるとして、ここでの音はまったくそれとは異なるものだった。弓で弾いたときの周波数は、山の部分はさまざまな形をしていて、植生している樹々も雑木林のように多様である。音は発せられた途端に減衰していき、残るものは、静かに鼓膜を震わせる残響ではなく、山の高まりが消えたあとに草叢やすすき野がお互いに触れて発する音なのだった。

ショーロ集『Choros & Improvisations Live』は、ベースとサックスとのデュオによる作品である。かずかずの和音で調性を強めることのない、隙間の多いフォーマットでもある。ここでもガット弦を張ったコントラバスでの演奏によって、芯にまとわりつく息遣いやイメージが立ちのぼってきては去ってゆく。その音楽の時空間に、かみむら泰一のサックスが佇み、やはり、息遣いで覆われ、外部へと開かれた音を発する。この豊かな音色には、氏が師事したというデューイ・レッドマンにも通じるものが感じられてならない。

『Six trios improvisations with Tetsu & Naoki』において、齋藤徹が組んでいる喜多直毅のヴァイオリンには、ときに軋み、ときに破裂し、そして肉声とシンクロする魅力がある。そのふたりが呼んだ音楽家は、擦れるような音を出すグザヴィエ・シャルル(クラリネット)、咽び泣くようなサウンドに繊細に絡んでゆくロジャー・ターナー(ドラムス)、能楽の磁場における展開が常ならずスリリングな久田舜一郎(小鼓・声)、撥音によりサウンドを励起し続ける沢井一恵(五弦琴)、その壮大な響きがトリオをオーケストラのような高みに持ち上げる中谷達也(パーカッション)、メソドロジカルかつ常に先鋭的な今井和雄(ギター)の6人。それぞれがまったく異なるトリオとなっていて、演奏の場を共有しているような素晴らしい臨場感がある。そして、最後には久田舜一郎による日本国憲法第九条の朗読演奏がある。この音楽も、平和憲法も、すべてを物理的な力と金銭とによって再構築しようとする者へのカウンターとなりうるということだと実感した。

映像作品『ダンスとであって/矢萩竜太郎10番勝負!』は、ダウン症のダンサー・矢萩竜太郎と齋藤徹らとの日欧における活動をとらえたドキュメンタリーである。共演者たちは、矢萩竜太郎のダンスや人との間合いによって、普段にないものまでもが引き出されるのだと口を揃えている。実際に観るとわかることだが、スタイルや関係性といったものに対する衒いが見いだせないことは、彼の大変な個性であり、魅力なのである。そしてまた愉快でもあり、たとえば、ダンサーのジャン・サスポータスの動きに寄り添うようにして、椅子を持って踊る場面などには声を出して笑ってしまった。この映像を観る者は、矢萩竜太郎のダンスを目の当たりにするために足を運びたくなるに違いない。

3枚ともに素晴らしい作品であり、齋藤徹の音楽への向き合い方が反映されているようでもある。齋藤徹を聴くことは、音楽がその都度立ち上がる瞬間に身を置くことでもあるのではないか。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』、『オフショア』、『Jaz.in』、『ミュージック・マガジン』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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