#1298 『Christoper Zuar Orchestra / Musings』
text & photo by Takehiko Tokiwa 常盤武彦
Sunnyside Records SSC 1434
Christoper Zuar (Composer, arranger, conductor)
Wood Winds
Dave Pietro
Ben Kono
Jason Rigby
Lucas Pino
Brian Landrus
Trumpets
Tony Kadleck
Jon Owens
Mat Jodrell
Matt Holman
Trombones
Tim Albright
Matt McDonald
Alan Ferber
Max Seigel
Rhythms
Pete McCann (g)
Frank Carlberg (p.kb)
John Hébert (b)
Mark Ferber (ds)
Rogerio Boccato (perc)
Jo Lawry (voice,3,5,6,8)
- Remembrance
- Chaconne
- Vulnerable States
- Ha! (Joke’s on You)
- So Close, Yet So Far Away
- Anthem
- Lonely Road
- 7 Anéis
Recorded by Mike Marciano at Systems Two, Brooklyn NY on September 4th & 5th 2014.
Produced by Mike Holober
1990年代前半の、マリア・シュナイダー(arr,leader)とヴィンス・メンドーサ(arr.leader)の登場から、およそ20年。彼らが切り拓き、蒔いたコンテンポラリー・ジャズ・ビッグバンドの種子が、近年大きく芽吹いている。本作がデビュー・アルバムのクリストファー・ズアーも、その潮流の中で現れた新星だ。筆者がズアーに出逢ったのは、挾間美帆 (arr.leader,p)が若手ジャズ・アーティストの登竜門的ヴェニューのジャズ・ギャラリーで定期的に開催しているジャズ・コンポーザース・ショウケースの第一回に登場したときだった。一つのビッグバンドを、3人のコンポーザーがシェアしてオリジナル曲、アレンジを競い合う同イヴェントでも、ズアーは異彩を放っていた。
1987年に生まれニューヨーク郊外のロング・アイランド出身のクリストファー・ズアーは、小学校でトランペットの演奏を始め、ルイ・アームストロング(tp,vo)、クラッシックのモーリス・アンドレ(tp)に憧れる少年だった。ジャズ作曲に関心をもち、師匠で本作でプロデューサーを務めたマーク・ホルバー(arr,p)と巡り合う。ボブ・ブルックマイヤー(tb.arr) に就くためボストンのニュー・イングランド・コンサーヴァトリーに進学したズアーは、専攻をジャズ・トランペットから、作曲にスイッチする。フランク・カールバーグ(p、本作でも演奏)に就いて、様々なアンサンブルを学び卒業後、ニューヨークに戻り、マンハッタン音楽院で修士号を取得。ジム・マクニーリ(p,arr)とマーク・ホルバーが主宰する、オーディションで選抜された若手コンポーザー、アレンジャーのワークショップ、BMIジャズ・コンポーザーズ・ワークショップに参加して頭角を顕した。本作レコーディング時には、27歳という若き俊英である。
『Musings』は、デイヴ・ピエトロ、ベン・コーノ、ジェイソン・リグビー、トニー・カドレック、マット・ジョドレル、アラン・ファーバー、師匠のフランク・カールバーグら、ニューヨーク/ボストンの世代の異なるビッグバンド・シーンのトップ・アーティスト達が集結した。オープニングは、ズアーの少年時代の思い出とロング・アイランドの風景を描いた“Rememberance”で幕明ける。壮大なアンサンブルと、ピエトロ(as)のメロディ・ラインが有機的に絡み合う。バッハの対位法をモチーフにした”Chakonne”(シャコンヌ)は、カールバーグがリリカルなソロを執る。”Vulnerable States”では、オーストラリア出身のシンガー、ジョー・ロウリーのヴォーカリーズがフィーチャーされている。ルシアナ・ソーザ(vo)を擁していた2000年代のマリア・シュナイダー・オーケストラが、彷彿された。8ビートのリズムに乗る”Ha! (Joke’s on You)”は、シーンを一変させる。タイトなリズムで、ホーンのそれぞれのパートが畳みかけるようにアンサンブルを構成し、ジョドレル(tp)、ピート・マッキャン(g)がファンキーなソロを執った。”So Close, Yet So Far Away”では、リグビー(ts)がドラマティックなストーリーをアンサンブルと共に描く。荘厳な賛歌”Anthem”では、サンバのリズムでジョン・ヘバート(b)、マット・ホルマン(flgh)、ピエトロ(ss)が絡み合いながらソロを繋ぎ、レジリオ・ボカット(per)がマーク・ファーバー(ds)のグルーヴを美しく装飾していた。移ろいゆくニューヨークのグリニッチ・ヴィレッジ、ブリーカー・ストリートのシーンを描いたバラード”Lonely Road”は、コーノがオーボエで繊細なメロディを奏で、ストリングスのようなソフトなアンサンブルで包み込んでいる小品だ。エンディングは、唯一のカヴァー曲、ズアーが敬愛するエグベルト・ジスモンチ(g,p,vo,etc)の“7 Anéis”だ。ウッドウィンド陣の持ち替えがアンサンブルを彩り、ロウリーの透き通ったクリスタル・ヴォイスがメロディをリードして、アルバムのクライマックスを迎えた。
4月7日のジャズ・ギャラリーにおけるアルバム・リリースは、多忙なレコーディング・メンバーの75%が集まり、客席には多くの若手コンポーザー/アレンジャーの姿が見られた。ギル・エヴァンス(p,kb,arr)、ブルックマイヤー、サド・ジョーンズ(tp,arr)らからの強い影響を語るズアーだが、先人達をリスペクトし、クリストファー・ズアーは今、コンテンポラリー・ジャズ・ビッグバンドの新たな扉を開く。
関連リンク
Christopher Zuar on Sunnyside Records
http://sunnysidezone.com/album/musings