#1618 『hikaru yamada hayato kurosawa duo / we oscillate!』
text by Keita Konda 根田恵多
カンパニー社 – cmpns-003
hikaru yamada – alto-sax
hayato kurosawa – guitar
01. #9 (long tone + bow)
02. #4 (tube attachment, feedback + prepared)
03. #19 (steel board attachment + E-bow)
04. #13 (feedback + E-bow)
05. #5 (free jazz!)
06. #1 (contact mic +prepared)
07. #6 (blues!)
08. #7 (contact microphone duo)
09. #14 (alternative country! with mixer feedback)
10. #10 (circular breathing + contact mic)
11. #17 (binaural recording)
12. #8 (long tone + bow)
yasushi okada: recording & mix
narushi Hosoda: liner notes
haruka kudo: design
『we oscillate!』……ジャズファンであれば誰もがマックス・ローチの名盤を連想させられてしまうタイトルだ。公民権運動の最中、1960年にリリースされたローチの『We Insist!』は、人種差別に抗議する座り込みsit-inの写真をジャケットに用い、自由への渇望を実に生々しく主張insistしていた。
しかし、山田光と黒澤勇人による即興演奏を収録した本作は、ローチの盤のように時代の熱気を丸ごと切り取ったドキュメント的な作品というわけではないらしい。単なる自由即興の断片の寄せ集めでもないようだ。曲ごとに決められたコンセプトがあり、明確な意志をもって全12曲を配置した「アルバム」であるように思われる。
曲ごとのコンセプトや演奏手法については、「#13 (feedback + E-bow)」「#6 (blues!)」といった具合に、トラックリストでネタバレがなされている。それぞれ異なったスタイルの小品をこのようにパッケージングして1枚の盤に収める作りを見ると、ある種の批評的な視線、もっと言えば「ポストモダン臭」のようなものを読み取ってしまいそうにもなる。
しかし、全体を通して聴くと、そのような懸念は杞憂に終わることになる。「#6 (blues!)」のようなジャンル名が冠されたトラックは、どれも単なる「それっぽい演奏」に留まる内容ではなく、アルバム全体の流れに緩急をつけ、「ジャンル化された自由即興」のマンネリを回避することに成功している。最初のトラックと最後のトラックが(long tone + bow)で揃えられていることも、アルバムとしての統一感を生み出すことに大きく貢献している。
アルバムタイトルに組み込まれた「振動oscillate」という単語も、本作の内容を的確に表しているように感じられる。E-bow(電磁場という「弓」で弦を振動させる小さなデバイス)、フィードバック、コンタクトマイク、循環呼吸奏法などを用いた2人の即興演奏は、大小様々な振動を生み出し続けることで、聴く者の意識を揺さぶってくる。チューブを取り付けたサックスの轟、幾層にも重なり合うドローン、揺らめく低周波、フリージャズ的なエネルギーの奔流、ガリガリというノイズ。実に多彩な「振動」が提示される。
山田と黒澤それぞれの経歴や2人の交流については、細田成嗣による約1万字のライナーノートに詳しく記載されている。「両価的、様々に両価的 ―『we oscillate!』における自由即興の徹底性に関する覚書」と題されたライナーノートは、ギターとサックスによる自由即興の系譜を辿るところから始まり、作曲と即興、実験音楽とポップ・ミュージックの関係等を論じる興味深い論考となっている。こちらも一読することをお勧めしたい。
*本作はカンパニー社の運営するオンラインショップp-minor等で購入可能。
*2019年7月21日(日)水道橋Ftarriにて『Ftarri 7周年記念:ギターとサックス』と題された公演が開催される。黒澤勇人+山田光、大上流一+川島誠、大島輝之+吉田隆一の3組が出演予定。