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CD/DVD Disksヒロ・ホンシュクの楽曲解説No. 303

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説 #92 Donny McCaslin『I Want More』

この16日(2023年6月)にDonny McCaslin(ドニー・マッキャスリン、日本ではドニーではなくダニーだが、彼はダニエルではなくドナルド)の新譜、『I Want More』が発表された。このアルバムは以前の彼の作品の数々を遥かに超えている。一聴して虜になってしまった。

Photo: Edition Records
Photo: Edition Records

彼を取り上げるのはこれで二度目になる。本誌No. 223、楽曲解説#12でご紹介した『Beyond Now (2016)』がもう7年前だ。続く『Blow (2018)』は歌モノ中心の趣旨の違ったアルバムだった。パンデミックを経てリリースされたのが今回のこのアルバムで、『Beyond Now』以前と比べるとその進化がすごい。それまでは彼のスタイルがある程度一定していたが、このアルバムで飛躍的な前進をしている。彼のスタイルを言葉で説明するのは容易ではないが、「Pushing the boundary (境界線を押し広げる、つまり常に限界に挑戦している)」という言葉がまず思い浮かぶ。このアルバムの過去のものとの違いは、推し進めた限界線が数段広いというのにドニーの演奏が炎上サウンドでなく、以前に比べ余裕で境界線を楽しんでいるようなサウンドなのだ。いや、やはりこのアルバムを語るなら、今回はドニーの行きたい方向が強くはっきりと聴こえるということだろう。曲のシーケンシング(並べ方)も素晴らしい。どれか1曲を選んで楽曲解説するのは無理なので、また今回も全曲軽めに解説したいと思う。長くならないよう努力しよう。

ドニーの演奏自体も更に進化している。スラー奏法が多くなったが、驚異的なのはスラーなのにグルーヴを強く出していることだ。一体どうやってこんな演奏が出来るのか不思議でしようがない。もう一つ筆者にとって強く惹かれたのは、このアルバムではMark Guiliana(マーク・ジュリアナ)が以前に比べてもっとバックビートでグルーヴすることに徹しているということだ。実に気持ちいい。グルーヴ好きの筆者にはご馳走だ。

興味深いのはタイトルだ。『I Want More』から受ける印象は、アルバムの完成度に反して欲求不満という印象だ。早速Zoomで本人の話を聞いてみた。

まず、pushing boundaryについて聞いてみると、本人は全くそういうことを考えてはいないらしい。彼にとっては自分がその時点で感情に秘めていることを表現しようとしているだけだそうで、自分から溢れ出たものを整理して曲にまとめているのだそうだ。ここで『I Want More』のタイトルの意外な真実が飛び出した。このアルバムは現在のアメリカに対する危惧をテーマにしていたのだった。トランプ大統領出現以来アメリカは変わった。環境保護より金儲けを重視することが非難されない国になり、差別を奨励する国になり、権力者の横暴が容認され嘘を繰り返したものが勝つ国になった。以前では許されないことがまかり通るような国になり、それに反対する勢力に経済力がないことから全く力がない。この理不尽な状態に対しての不満、または自分たちがもっと何かしなくてはいけないということから『I Want More』なのだ、とドニーは語ってくれた。本誌No. 223、楽曲解説#12でご紹介したようにドニーは真の善人の標本のようなナイスガイで、彼からこういう政治的な意見が飛び出すとは思ってもみなかった。もちろん彼の性格から「トランプ」と名指しはせず、「例の大統領」と言っていたが。また、アメリカの現状だけでなく、戦争が絶えない世界状況についても彼の想いは「平和を望む」という単純なものではない。主張ではなく妥協することを考慮し、I Want More 世界共同体を自覚するべきだ、と熱く語ってくれた。

今回のこのアルバムからは以前より強くオルタナティヴ・ロックの影響が聴こえる。それも新鮮な理由かも知れない。どんなアーティストから影響を受けたのか知りたくて聞いてみた。このアルバムの殆どの曲はパンデミック中にガレージに籠って書いたので、その頃何を聴いていたか覚えていないから、と当時のiTunesのプレイリストをわざわざ探し出して来てくれた。

Halsey:『If I Can't Have Love, I Want Power』 Halsey(ホールジー) 『If I Can’t Have Love, I Want Power』 (YouTube →)

  • プロデューサー:Nine Inch NailsのTrent Reznor(トレント・レズナー)とAtticus Ross(アッティカス・ロス)
Tsuruda:『GOLDIES BEATS』 Tsuruda(スアドー) 『GOLDIES BEATS』(Bandcamp →
Rostam:『Changephobia』 Rostam(ロスタン) 『Changephobia』(Bandcamp →
Steve Reich:『Music for 18 Musicians』 Steve Reich(スティーヴ・ライヒ) 『Music for 18 Musicians』(YouTube →
Branford Marsalis:『The Secret Between the Shadow and the Soul』 Branford Marsalis(ブランフォード・マルサリス) 『The Secret Between the Shadow and the Soul』(YouTube →

てっきりオルタナティヴ・ロックの「Nirvana」や「Red Hot Chili Peppers」や「Coldplay」などが出てくるかと思ったが、これは意外な回答だった。ついでに現在何を聴いているのかと聞いてみた。

Neil Young:『Le Noise』 Neil Young(ニール・ヤング) Le Noise』(YouTube →

  • プロデューサー:Daniel Lanois(ダニエル・ラノワ)
The Comet Is Coming:『Hyper-Dimensional Expansion Beam』 The Comet Is Coming(ザ・コメット・イズ・カミング) 『Hyper-Dimensional Expansion Beam』(YouTube →
Beach House:7 Beach House(ビーチ・ハウス) 7(YouTube →
The Smiles:『A Light for Attracting Attention』 The Smiles(ザ・スマイルズ) 『A Light for Attracting Attention』(Bandcamp →

最後に登場したThe Smileというバンド(Radioheadのメンバーがパンデミック中に発足した新プロジェクト)のサウンドは、ようやっとドニーのサウンドに近いものが出てきたというところだが、Neil Young(ニール・ヤング)には驚いた。プロデューサーのDaniel Lanois(ダニエル・ラノワ)の手によってニール・ヤングが珍しくエレクトリック・ギターでガンガン演奏している。アメリカと日本ではプロデューサーの役割が大きく違う。そのうちゆっくりと解説してみたいと思う。言及すべきは、今回のドニーのアルバムは彼のEdition Records移籍1作目で、プロデューサーがロック界の大物、Dave Fridmann(デイヴ・フリッドマン)だということが、このアルバムの完成度に大きく貢献していると思う。

ドニーの奏法の変化について聞いてみた。スラー奏法が増えたのに、どうやってグルーヴを維持できるのかが知りたかった。ジャズを含めバックビートに基づくアメリカ音楽を演奏する管楽器奏者にとっての課題だ、と個人的に思っている。今これを書いていて気が付いたが、そう言えばスイングジャズの時代のサックスはスラー奏法だった。コルトレーンやマイケル・ブレッカーのスタイルが主流になって忘れらててしまった奏法なのだろうか。ドニーの現在の奏法は遥かに進んでいる。タンギング奏法とスラー奏法を混ぜまくっているだけでなく、繰り返すようだがスラー奏法になってもグルーヴ感を決して落とさない。奏法の技術的なことは聞けなかったが、彼の考えていることは話してくれた。

「君とぼくが一緒に演奏してた頃、20代の頃だ。あの頃はハーモニーやコードスケールのことばかり考えてた。ある時リズムの方がもっと重要じゃないかって気が付いたんだ。それからアフリカや色々な国のリズムを漁り始めたんだ。世界と繋がるにはそうすることが必要だって考えたんだ。」

音楽はその国の文化や言葉と深く関係しているという筆者が日頃考えている話題で一挙に盛り上がってしまった。せっかくだからここで彼の若い頃の写真をご披露しちゃう。今のワイルドな印象とはかなり違う。カリフォルニアの好青年だったのだ。決して他人のことを悪く言わず、彼が何かに文句を言ったことなど一度も聞いたことがなかった。今もそれは変わらない。それだけに今回の『I Want More』の真意は意外だった。彼にも不満を訴える一面があったのだ。

写真:NPR
写真:NPR

『I Want More』

レコーディングメンバーはドニー・マッカスリンバンドの長年のレギュラーメンバーだ。メンバーの写真は本誌No. 223、楽曲解説#12でご紹介した『Beyond Now (2016)』を参照。

  • Jason Lindner(ジェイソン・リンドナー):シンセサイザー
  • Tim Lefebvre(今回ドニーに確認した発音はティム・ルフェール、日本ではティム・ルフェーヴル):ベース
  • Mark Guiliana(マーク・ギリアナ:日本ではマーク・ジュリアナ):ドラム

ドニーがこのアルバムのそれぞれの曲について話してくれたので、ご紹介しよう。

1. <Stria>

Stria(ストゥリア)とは、数本の溝が作り出す縞模様のことらしい。ドニーはパンデミック中アトランタにある奥様の実家に家族中で移住し、蒸し暑いガレージの中で練習中にこのイメージが湧いたそうだ。額から滴り落ちる汗の線だったのかも知れない。採譜してみた。

<Stria>のヘッド
<Stria>のヘッド

ドニーはまず、自分がメロディーを吹くのではなく、リズムセクションを担う16音符のラインを作り、そこからシンセベースのためのメロディーラインを書いたそうだ。曲全体がゆっくりと高揚するようにした、と語っていた。聴いた感じは単純なオルタナティヴ・ロックのサウンドだが、譜面で見るとかなり複雑だ。イントロ的な最初の2小節は省いたが、メロディーが始まるのは3小節目からだ。11小節目で5度マイナーコードに移るまでどこがフレーズの切れ目がわからない。15小節目でブリッジに入る前に1拍の空間があることにハッとさせられる。

そしてブリッジ部分のコード進行だ。Fメジャーから始まり、18小節目のD7をピボットに21小節目でDメジャーに転調する。だが22小節目のE-7コードに対するメロディーラインは、なんとBマイナーだ。ドニー恐るべし!ちなみにこのトラックでのドニーのソロのすごいこと。以前に比べてもっともっとビハインド・ザ・ビートでスイングしている。なんと気持ち良いこと。

2.<Fly My Space Ship>

この曲はタイトルが示唆する宇宙船とは全く関係がないらしい。「Fly My Space Ship」とは単にキーボーディストのリンドナーのソシアルメディアのハンドル名だそうで、彼のドニーの音楽への貢献を賞賛するためにつけたタイトルだそうだ。

この曲のなり染めは、まずティムがライブのサウンドチェック中に弾いたこのラインから始まった。

ベースライン
ベースライン

このA♭メジャーのベースラインを聴いたドニーは、聴いて育ったレゲエを思い出してそういう曲を書こうと思ったそうだ。話の印象からドニーが先に書いたのはブリッジ部分で、このベースラインから始まるヴァース部分はレゲエではなく、ドニーの吹くメロディーラインはかなりアブストラクトで調性はない。漫画に出てくるような円盤型の宇宙船がヒョロヒョロと離陸するような光景を思い浮かばせる。

ドニーのメロディ
ドニーのメロディ

ところがブリッジに入るとリンドナーがスキャンクを匂わせたコンピング(伴奏)を始め、調性はEメジャーと発覚するが、A♭メジャーだったヴァースとこんなに離れた調性なのになんの違和感も転調のサウンドもしないところに驚いた。これはドニーが意図的に書いたものだ。ヘッド1回目が終わってヴァースの再現部分、58秒の位置に来てリンドナーが驚くべき且つミュージシャンでなければ気が付かないだろうラインを弾き始める。採譜した。

キーボードライン
キーボードライン

なんと1音だけベースラインに対して半音ズレているのだ。これだけで思いっきりミステリアスなサウンドに変更されており、さらに調性を濁している。これがドニーの言うところのリンドナーの貢献だ。

3.<Hold Me Tight>

邦訳すると「強く抱きしめて」になるこのポピュラーソングのようなタイトル、ドニーの想いは色恋沙汰ではなかった。「子供の頃、不安な時に親にしっかり抱えていてもらいたい気分だったことがあるだろう。あの気持ちさ。現在どんどんひどくなっている世の中での不安感と救いへの希望を描いてみたかったんだ。」

この曲はドニーのマスターピース(日本語の秀作/傑作では言い尽くせないほど素晴らしい)だと思う。メロディーの運び、ハーモニー全体の構成、全て鳥肌が立つ。この1曲を楽曲解説にしようと思っていたほどだが、どうしてもアルバムの全曲を取り上げたかったのと、この崇高な曲を掘り下げることが何か聖域に触れるような気がしたのだった。迷った結果少しだけ解説する。

まずは採譜を見て頂く。ドニーは最初の8小節をイントロとしてアカペラで演奏しているその部分は省いた。しかしドニーのイントロでの音色の美しいこと。ここでも彼の進化ぶりに驚かされる。

<Hold Me Tight>
<Hold Me Tight>

まず調性だ。独特のコード進行とトライアッドの展開系の多用で調性が非常に分かりにくいが、メロディーは確実にB♭マイナーを提示している。そしてで示したセクションの終わりが主調だ。ところが、で示したヘッド(日本ではテーマ)の終わりはB♭メジャーだ。つまりこの曲はB♭メジャーで、そこに至るまで同主調のモーダルインターチェンジだったという訳だ。この技法にお気づきの読者がおられるであろうか。これはThelonious Monk(セロニアス・モンク)の<Round Midnight(ラウンド・ミッドナイト)>の手法なのだ。ちなみに、モンクは自分のステージに飛び入りが来るのを嫌がり、キーを聞かれてE♭メジャーだと答えておきながらE♭マイナーで演奏するという意地悪をするためにこの曲を書いたと伝えられている。

しかしドニーがモンクの手法を模倣するためにこの曲を書いたとは思えない。ラウンド・ミッドナイトはオチのようにE♭メジャーに解決するが、ドニーのこの曲は不安感から安堵感に向かってジリジリと進行して行く。その展開の仕方がとんでもなく素晴らしい。【17】からがブリッジだ。メロディーのB♭マイナーという調性を変えずにコードをジリジリとメジャーに向けて解放して行く。それまでになかったG-を挿入し、コードも展開系ではなく基本形に移行している。驚くべきは、メロディーに全く転調のサウンドを与えていない。全てが自然なのだ。

そのメロディーに少しだけ目を向けよう。まず筆者が最初に惹かれたのがの部分だ。説明はできない。一体どうやってこんなアイデアが出るのか、只々魅了されてしまった。もうひとつ、最後のB♭メジャーに対するで示した発展の仕方だ。複雑だった前半に対し、ダウンビートを基本に単純な発展で希望感を膨らませている。実に効果的で感嘆してしまった。

4.<Body Blow>

この曲は娯楽作品だ。オルタナティヴ・ロックではなくDnB(ドラムンベース)の曲で、痛快なドニーのブロウイングを楽しむ。YouTubeにこの曲のプロモ動画が上がっている。アルバムとは違ったミックスで、ドニーのメッセージも挿入されているのでぜひご覧頂きたい。この動画の最後の最後にお楽しみの一発もあります。

この曲に関してひとつだけ言及したいのは、第一テーマの捻りだ。ご覧頂きたい。

第一テーマ
第一テーマ

A#マイナーに対するAナチュラルはPhrygianモードだ。Phrygianモードは俗に言うスパニッシュモードで、Chick Corea(チック・コリア)が看板にしていたサウンドだが、ドニーのメロディーからはスペインのスの字も聴こえない。これにはびっくりした。ちなみにこの第一テーマはこのアルバムで最もキャッチーだと思う。毎日このラインが頭の中で運動会をして困る。

5.<Big Screen>

「Big Screen」とは映画館のスクリーンのことだ。この曲は中休み、瞑想の曲だそうで、映画の中に登場する景色の場面をなんとなく観ている、つまり傍観者的な位置だそうだ。なんとなく聴き流す曲かも知れないが、ドニー捻りはここでも効いている。採譜した。

ヘッド
ヘッド

まずメロディーラインだ。ドニー印のオフビートが特に多用されている。反対にこの曲で登場する弦楽四重奏はダウンビートを抑えている。コード進行だ。Bマイナーの曲だがヘッドの2回目からD音がペダルで入るので、Dメジャーの曲か区別がつかなくなる。そして主調であるBマイナーから関係調であるDメジャーに移行する間のコードがB♭メジャーとGマイナーという遠い関係のコードなのだが、全く違和感がない。しかも11小節目のメロディーのF#音はGマイナーコードのメジャー7thに当たり、不協和音で美しい緊張感を醸し出している。ちなみにで示したフレーズは筆者が考えるところのドニー印フレーズだ。

6.<Turbo>

この曲は他のトラックに比べて一番ジャム色が強い。ドニーとリンドナーのソロがフィーチャーされているので単純に楽しめる。ドニーの言葉によると、始めにベースラインを作り、そこからどこへ行けるかを構築して行ったのだそうだ。ヴァースである前半は長いラインで少しずつ少しずつテンションを上げて行き、コーラスでリズミックなメロディにスイッチして解放を試みた、と語っていた。

7.<Landsdown>

前のお楽しみトラックに続くこの曲はかなり奥が深い。つまりトラック5、トラック6と中休みを経てまたシリアスな話題に戻って来たという感じだ。この曲もYouTubeにプロモーション動画がある。<Body Blwo>同様ミックスが違うので是非ご覧頂きたい。映像に合わせて効果音が入り、映画のシーンの趣を一層強くしている。

「Landsdown」は、実はボストン・レッドソックスのフェンウェイ野球場の裏にある、ナイトクラブが集合する道の名前だ。ドニーも筆者も学生時代その付近に住んでいた。筆者は下戸なのと貧乏学生だったのでナイトクラブには一度も行ったことはなかったが、ドニーは週末に踊りによく通った、と言ったのを聞いて、あのドニーが!とびっくりした。但しこの曲の趣旨はナイトクラブとは関係ない。「Lands Down」とは地上に降りるという意味がある。これはドニーの目を通したアメリカだそうだ。美しい風景と醜い街や工場の共存などを描きたかったらしい。その共存とは、バンドが醸し出す、街の工事現場のコンクリートハンマーの騒音を思わせるベースラインと、弦楽四重奏が奏でる美しい風景とを共存させた曲になっている。このバンドが演奏する第一テーマが強力にアブストラクトだ。採譜した。

第一テーマ
第一テーマ

ドドドドとコンクリートを割るEマイナーのベースラインの上でドニーが始めるメロディーは、なんとコードスケールにないB♭だ。ベースラインはE Dorianなのに、メロディーはE Locrianというこの2階建て構造は意図的に不安感を煽った、とドニーが教えてくれた。それにしても弦楽四重奏のセクションの美しいこと。ドニーがしっかりと作曲法を学んでいることがよくわかる。

8.<I Want More>

このタイトルトラック、意外にも以前に親しんだドニー・マッカスリン・バンドのサウンドだ。ドニーのこのアルバムでの進化を認識させるうまい細工だと思った。まず採譜で他のトラックとどう違うのかを見てみよう。

第一テーマ
第一テーマ

ご覧のようにフォーム自体がまず単純だ。I 度マイナーから IV 度マイナー。展開部分は関係調のG♭メジャー。但し、G♭メジャーに移行する出発点が IV 度マイナーの半音上であるAマイナー、というところがドニー印だ。すぐに他のトラックとの違いに気がつくのがコードのタイプだ。この曲では7thや9thを含んだジャズコードが基本形で多用されている。また、ジュリアナのドラミングも以前のアルバムのように細かいDnBを披露しているが、それでも間にバックビートの気持ちいいセクションをしっかり入れてこのアルバム用に奏法を変えていることがわかる。この曲はこのアルバムの総括として実に効果的だ。ドニー恐るべし。


ドニーは8月31日、9月1日、2日の3日間Blue Note Tokyoに出演するそうだ。是非お見逃しなく!

アルバム・リリース・パーティ、Joe's Pub, NYC (写真:Jannek Zechner)
アルバム・リリース・パーティ、Joe’s Pub, NYC (写真:Jannek Zechner)
アルバム・リリース・パーティ、Joe's Pub, NYC (写真:Jannek Zechner)
アルバム・リリース・パーティ、Joe’s Pub, NYC (写真:Jannek Zechner)

ヒロ ホンシュク

本宿宏明 Hiroaki Honshuku 東京生まれ、鎌倉育ち。米ボストン在住。日大芸術学部フルート科を卒業。在学中、作曲法も修学。1987年1月ジャズを学ぶためバークリー音大入学、同年9月ニューイングランド音楽学院大学院ジャズ作曲科入学、演奏はデイヴ・ホランドに師事。1991年両校をsumma cum laude等3つの最優秀賞を獲得し同時に卒業。ニューイングランド音楽学院では作曲家ジョージ・ラッセルのアシスタントを務め、後に彼の「リヴィング・タイム・オーケストラ」の正式メンバーに招聘される。NYCを拠点に活動するブラジリアン・ジャズ・バンド「ハシャ・フォーラ」リーダー。『ハシャ・ス・マイルス』や『ハッピー・ファイヤー』などのアルバムが好評。ボストンではブラジル音楽で著名なフルート奏者、城戸夕果と双頭で『Love To Brasil Project』を率い活動中。 [ホームページ:RachaFora.com | HiroHonshuku.com] [ ヒロ・ホンシュク Facebook] [ ヒロ・ホンシュク Twitter] [ ヒロ・ホンシュク Instagram] [ ハシャ・フォーラ Facebook] [Love To Brasil Project Facebook]

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