#2344『イェスパー・ヘルツ / SHIZUKA』
Text by Akira Saito 齊藤聡
Gateway Music
Jesper Hertz (piano)
Minoru Yoshiki 吉木稔 (bass)
Shuji Morita 森田修史 (tenor sax)
Naoki Takahashi 高橋直希 (drums)
1. Shizuka
2. Seven Lucky Gods
3. Koinobori
4. Leaving Asakusa
5. Till We Meet Again
6. Tsubo Sumire
7. Waltz for Minoru-san
8. Soba Shochu
9. Ominaeshi
Mixed and Mastered at Peak Productions
All Compositions by Jesper Hertz except Tsubo Sumire and Ominaeshi by Minoru Yoshiki
Recorded at Freedom Studio Infinity, Tokyo
まずはサウンド全体から受ける清冽な感覚に強く印象付けられる。ナチュラルであるから不自然な力みがなく、その一方で音の向こう側までの距離が長い。
ひとつの要因はイェスパー・ヘルツのすぐれた和声の展開にもとめられるだろう。地面に向かう重力から解放された世界観は、ヘルツが北欧に生まれ、現在も住み続けていることに無関係ではないにちがいない。加えて、残響のありようや和音を弾く際に微妙に指をずらすこともサウンドの特性に貢献している。すべてのバランスが取れている気持ちよさは音楽的な強靭さの証左でもある。
参加メンバーがかれの方向性に整合していることも、サウンドの印象をさらに強いものとしている。吉木稔のコントラバスは錨のようにサウンドに重力を持ち込み駆動力として働くが、それとは対照的に、ヘルツ、高橋、森田が繊細に音を遷移させ互いに並走したり重ね合ったりする。
ドラムスの高橋直希を早熟の天才と呼ぶとして、それはなにかこけおどしの迫力によるものではない。しなやかで柔らかくもあるドラミングにはトータリティがあり、精緻な絵を描き出すとともにサウンド全体を引き受けている。<Seven Lucky Gods>におけるシンバルの扱いなど驚かされる。
森田修史のテナーはじつに個性的だ。音の密度が柔軟に変貌を続け、絶えず異なるグラデーションを描き出すさまは、ずっと耳を傾けてラインを追ってゆきたいという気持ちにさせるに十分である。高音でも語るがごとき吹きようはみごとだ。(文中敬称略)