#1410『松田美緒 / エーラ』
text by Hideaki Kondo
CORE PORT, RPOL-10005
01 ティラ (Thira) by Mio Matsuda
02 エラ・キ・エスィ (Ela Ki Esy) by Elias Georgakis / Dionisis Georgakis
03 望郷のキス (Bejo de Sodade) by Beleza
04 バトゥック (Batuku) by Orlando Pantera
05きまぐれ (Cabeça de vento) by Linhares Barbosa/Armando Machado
06 花嫁と海 (La Galana y El Mar) Trad.
07 真珠のモレノ~バルカン・ヴァージョン (Moreno De Perola~Balkan Version) by Mio Matsuda
08別離~海~(Apoxairetismos) by Kostas Mountakis
09アンジョ / マナ (Andjo/Mana) by Trad;Adapted by Jadranka
10サイコー (Saiko) by Gregório Gonçalves;Mio Matsuda
11 紀元前ギリシャ シキロスの墓碑より (Seikilos) Trad.
■2016年5月アテネ録音 (M-1, 2, 6, 7, 8, 11)
■2016年6月リスボン録音 (M-3, 4, 10)
■2017年1月東京 録音 (M-5, 9)
M-1, 2, 6, 7, 8, 11
Recorded by Anastasios C. Katsaris at Stargazer Audio (Athens, May 2016)
山口亮志 Ryoji Yamaguchi : Guitar, 12 string guitar
ヨルゴス・パヒス Giorgos Pachis : Bouzouki
ヨルゴス・コツィニス Giorgos Kotsinis : Clarinet
スピロス・ザンベリス Spyros Zambelis : Lyra
M-3, 4, 10
Recorded by Elton Souza at Bobs Rec.(Lisbon, June 2016)
山口亮志 Ryoji Yamaguchi : 12 string guitar, bouzouki
アデリート・ポンテス Aderito Pontes : Guitar
ゼー・アントニオ Zé Antonio : Cavaquinho
ルシオ・ヴィエイラ Lucio Vieira : Bass, Shaker
アナ・フィルミーノ Ana Firmino : Vocal
ダニー・シルヴァ Dany Silva : Vocal
M-5, 9
Recorded by Shinya Matsushita at Studio Dedé (Tokyo, January 2017)
山口亮志 Ryoji Yamaguchi : Guitar, Synthsizer guitar
Produced by Mio Matsuda
Co-produced by Ryoji Yamaguchi
Mastered by Akihito Yoshikawa (STUDIO Dedé)
Mixed by Anastasios C. Katsaris, Akihito Yoshikawa
Photos by Shoko Koizumi, Atsushi Kosai,Ryuichi Hirakawa, Ryoji Yamaguchi, Mio Matsuda,
Art Director & Designer : Keisuke Unosawa (Venus Spring)
Label Director : Yohji Takagi (CORE PORT)
松田美緒は、スペイン・ポルトガル文化をルーツに大西洋圏の各地で文化混交を起こした歌音楽を取り上げてきた歌手。新作『エーラ』では、バルカン半島およびエーゲ海に浮かぶ島々から5曲、三角貿易の重要な中継点となったカーボヴェルデから3曲、ファド1曲、オリジナル2曲(うち1曲にはセファルディの音楽が挟み込まれる)という構成。この構成だけでも、大まかなコンセプトが想像できる。
海洋貿易を通じてのクレオール(文化混交)化は、現在知られる民俗音楽の世界地図形成の強い要因となった。ラテン音楽地図の背景には、三角貿易における海洋ルートで伝わったイベリア・西アフリカ・西インド諸島の文化交換がある。また、当時のこのグローバリゼーションの中心地であるイベリアから見ると、イベリア音楽は大西洋ルートだけでなく、地中海を通じてヨーロッパ内におけるラテン音楽地図を作った。ポルトガルの代表的音楽であるファドとの出会いからキャリアをスタートさせた松田は、こうしたイベリア文化の伝播ルートに沿って自身の音楽を追及してきた。本作は、大西洋航路から進路を変え、地中海沿岸を通じてのイベリア文化の伝播を追ったという事になるのだろう。ギリシャに近いバルカン半島の音楽としてセファルディ(元々はイベリア半島に住んでいたユダヤ民族)の音楽が取り上げられているのも、そうした背景があるものと感じる。
実際に現地に足を運ぶ松田の活動からすると、フィールドワーク的な側面が強いかとも想像していたが、もう少し軽やかな判断であるようだ。アルバムは民族音楽のフィールドレコーディングの態ではなく、聴きやすくすっきりとまとめられている。11曲中5曲に、オーバーダビング、波音などのSEの使用、シンセサイザーの使用などの所作が見られ、残り半分のアコースティックな演奏も聴き心地よく上手に演奏される。旋法もリズムも実に多種多様なギリシャの島々の音楽の中からは、敢えて汎ヨーロッパ的な曲想のものが選ばれる(レフカダ島の音楽とクレタ島の音楽はA aeolian、マケドニア音楽はD Ionian。多様なリズムや旋法を持つ曲が溢れるギリシャの島々の音楽の中から、長短両調の曲が選択されている)。一方で、アフリカ大陸の西に浮かぶ島ながら西アフリカ音楽よりも西インド諸島のポピュラー音楽に近い響きを持つカーボヴェルデの音楽はオリジナルに近い匂いがする。こうしたところに、松田の音楽に対する視点があらわれているのではないだろうか。
イベリア文化との衝突によって生まれた音楽の紹介だけでなく、そうして生まれた音楽がさらに汎ヨーロッパ的なポピュラー音楽の価値基準の上に置かれていくその感触を、このアルバムからは強く感じた。セファルディの音楽、カーボヴェルデの音楽、エーゲ海の島々にある歌音楽。日本ではなかなか聴く事の出来ないこれらの音楽を知るきっかけとして、リラックスして鑑賞する事の出来るアルバムではないだろうか。 (近藤秀秋、2017.4.15)