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CD/DVD DisksJazz Right NowNo. 234

#1445『Talibam! / Endgame of the Anthropocene』『Talibam! / Hard Vibe』

Text by Akira Saito 齊藤聡

Endgame of the Anthropocene: 
ESP5016LP/ESP5016D

Matthew Mottel (Mini Moog, Midi Synths, Yamaha CS1x, Roland Juno 1, Roland Lucina, Arp Solus)
Kevin Shea (drums, MIDI Marimba Lumina)
01. “Antarctica shall be used for peaceful purposes only” (Article 1)
02. Human Interference and the Failure to Ratify
03. Reign of Primordial Tenure on the Ice Shelf
04. The Telegenic Annexation of Territorial Expanse in the West
05. Obsequious Resources Duly Exploited De Novo
06. Breach of Ecology on the Seabed (Biodiversity in Shambles)
07. Cost-Effective Drilling Enabled by Pioneering Technologies and Warmer Climates in the Southern Ocean
08. RISE OF THE DEFENDERS OF ANTARCTICA

2017年9月22日リリース

Cover art by Preston Spurlock
Recorded in Paris by Etienne Foyer at Instants Chavirés; recorded in NYC by Talibam! at Spormarang, PHB Studio, Studio UNOR, and 14 Wall Street; recorded in East Williamsburg by Andrew Barker at Barker Studios.
Mixed by Talibam!
Mastered by Frederic Alstadt at Ångström Mastering

Hard Vibe:
ESP5015LP/ESP5015D
Matthew Mottel (Fender Rhodes, synthesizer)
Matt Nelson (tenor saxophone)
Kevin Shea (drums)
Ron Stabinsky (Hammond B3 organ)
John Olson (Wolf Eyes) (cover art)

01. Infinite Hard Vibe Pt. 1
02. Infinite Hard Vibe Pt. 2

2017年9月22日リリース
Cover Art by John Olson
Recorded and mixed by James Dellatacoma at Orange Music Sound Studio in Orange, NJ.

Talibam!は、2004年に結成以来ニューヨークで14年も活動しているグループであり、ケヴィン・シェイのドラムスとマシュー・モッテル(マット・モッテル)のキーボードを基本形とするユニットである。基本形というのは、ふたりとも様々な電子楽器を操るとともに、作品によってゲストを招いてサウンドを拡張するからだ。

おそらくは最小のユニットであるからこそ、「ジャズ」のデュオであったり、電子音楽であったり、パンクロックであったり、仮想の民族音楽であったり、あるいはカテゴリー越境のダダイスティックな策動を絶えず行うことが可能になっている。安心して音楽地図上の位置を指し示すことができないことが、日本においてTalibam!の評価を保留にしている理由なのかもしれない。

バンド名はテロ組織を思わせるのだが、勿論、直接の関係はない。シェイに訊いたところ、アフガニスタン情勢を報じる新聞の紙面において、バム!という爆発を暗示するこの見出しがあり、それを参考に名付けたものだ。言葉に再び意味をもたせる仕掛けである。

今般、かれらは2枚のアルバムを同時にリリースした。両作ともに、ヴァイナルLPとダウンロードのみ。

『Endgame of the Anthropocene』(人類の時代の終わり)は、近未来の2048年に、地球温暖化、人口爆発、資源枯渇などにより人類は南極にしか棲むことができなくなり、今度は南極争奪戦が始まるというディストピアを幻視した、サウンドトラック的作品である。かれらはずっと、この手の仮想のSF映画をもとにしたサウンドを作りたかったのだという。

とは言え、このサウンドはそのドラマを反映して抑圧的なものにはなっておらず、むしろ、熱に浮かされたように、精神の眼が、リアル世界の枠を超えて次々にトリップさせられる。敢えて低解像度のチープな電子音が多用されていることにより、未来と、過去に幻視された未来とがぐちゃぐちゃに混ぜ合わされる効果がフルに発揮されている。

『Hard Vibe』はシェイとモッテル、さらに、マット・ネルソン、ロン・スタビンスキーを加えた拡大Talibam!である。スタビンスキーは、ピーター・エヴァンスのクインテットや、シェイとともに異色ジャズ・ユニット「Mostly Other People Do the Killing」(Talibam!と同年に結成)において活動し、オリジナリティなどという認識の足許をぐらつかせてきたピアニストだが、ここではハモンドオルガンを弾いている。かれとモッテルのキーボードとが結託してサイケデリックなほどに眩むような音のフラグメンツを撒き続け、ネルソンは塩辛いテナーで認識の荒野を驀進する。

ここでシェイが叩きだすビートはドイツのクラウトロックにインスパイアされたものだという。飽くことのない反復と発展による興奮は、このビートがあってこそのものだ。

まるでタイプの異なる2作品、Talibam!の真骨頂か。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』、『オフショア』、『Jaz.in』、『ミュージック・マガジン』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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