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CD/DVD DisksNo. 218

#1307 『Will Vinson / Perfectly Out of Place』

text & photo by Takehiko Tokiwa 常盤武彦

5Passion 5P-060

Will Vinson (as,ss,fl,synth,celesta)
Gonzalo Rubalcaba (p,kb)
Mike Moreno (g)
Matt Penman (b)
Jeff Ballard (ds)
Jamey Haddad (per,4)
Jo Lawry (voice1,4)
The Mivos Quartet (1,4,5,Olivia De Prato, Joshua Modney (vln) Victor Lowrie (viola) Mariel Roberts (cello)

  1. Desolation Tango
  2. Upside
  3. Willoughby General
  4. Skyrider
  5. Intro to Limp of Faith
  6. Limp of Faith
  7. Stiltskin (Some Drunk Funk)
  8. Chalk it Up
  9. The Clock Killer
  10. Perfectly Out of Place

Quintet recorded by Jim Anderson and Tyler Williams at Avatar Studios, NYC on January 31 and February 1, 2015.
Strings and voice recorded  by Alex Venguer at Second Story Sound, NYC on June 2015.

Produced by Will Vinson and Gonzalo Rubalcaba.

ロンドン出身で、1999年に拠点をニューヨークに移したウィル・ヴィンソン(as,ss,fl) の6作目は、コアのクインテットに、初めてストリングス、ヴォイス、シンセサイザーのオーヴァーダブを施した、コンセプチャルな野心作だ。ゴンサロ・ルパルカバ (p,kb)  が全面サポートし、ルパルカバのレーベル 5パッションからリリースされた。

ウィル・ヴィンソンはニューヨーク・ジャズ・シーンに登場して以来、ゴンサロ・ルパルカバ・クインテット、アリ・ホーニッグ (ds)・パンク・バップやノネット、ミゲール・ゼノン (as)・アイデンティティーズ・オーケストラで尖鋭的な活動を繰り広げ、また自己のクインテットやラーゲ・ルンド (g)、オランド・ル・フレミング (b) とのOWL トリオでの活動も、高い評価を獲得している。前作の『Live at Smalls』(2013)は文字通り、ニューヨークのジャズ・クラブ ”Smalls” での熱いギグの瞬間を捉えたものだった。本作は、クインテットのメンバーを、ルパルカバ、マイク・モレノ (g)、マット・ペンマン (b)、ジェフ・バラード (ds)と一新し、カナダのアルバータ州バンフでのワークショップ滞在中に暖めたアイディアを、まずはアヴァター・スタジオでのクインテットのセッションで具現化し、さらに緻密なアレンジを加味した、内省的でありながら静かな炎がメラメラと燃え上がる作品だ。ルパルカバの繊細なピアノ・タッチとキーボード・ワーク、モレノのサウンド・カラーリングが、ヴィンソンのクールな音色を際立たせる。ペンマンとバラードのリズムが、アンサンブルをプッシュしたり漂わせたりと、変幻自在に展開する。5人のインタープレイが、精緻なアレンジに芳醇なヒューマン・フィーリングを注ぎ込んだ。ストリングスのミヴォス・クァルテットは、彼らがスティーヴ・ライヒの ”Different Trains” を演奏するのをヴィンソンが聴いて衝撃を受け、共演を決意したという。オープニングを飾る ”Desolation Tango” では、ストリングスのイントロがアルバムの幕開けを荘重に飾り、クインテットを召喚する。ヴィンソンの夫人のジョー・ロウリーのヴォイスも、メロディに厚みを加える。マイルス・デイヴィス (tp) の ”ネフェルティティ” の如くメロディのバックで、リズムがうねり、ルパルカバとモレノが、インプロヴィゼーションの断片を加えていった。”Intro to Limp of Faith” では、ストリングスがヴィンソンのメロディを美しくもドラマティックに包み込み、”Limp of Faith” のルパルカバとの緊張感溢れるデュオへと橋渡しをする。”Skyrider” では、伝説的なパーカッション・プレイヤー、ジェメイー・ハダッド (per) が、さらにリズムをプッシュし、ミヴォス・クァルテット、ロウリーと共に、壮大なアンサンブルを聴かせた。エンディングのタイトル・チューンの ”Perfectly Out of Place” は、モレノが抜けたクァルテットで、静から動へと激しく展開し、アルバムの大団円に到達した。

4月26日のジャズ・ギャラリーにおけるリリース・ギグでは、レコーディング・メンバーから、マイク・モレノ (g)、マット・ペンマン (b)、ピアノに今注目を集めているイスラエル出身のシャイ・マエストロ、柔軟なドラミングで定評が高いクラレンス・ペン (ds) を起用し、よりインプロヴィゼーションにシフトしたパフォーマンスを聴かせてくれた。

すでにインプロヴァイザーとしては高い評価を確立していたウィル・ヴィンソンが、コンポーザー/アレンジャーとしての才能を余すところなく発揮したアルバムと言えよう。次なる展開が期待される。

関連リンク

Will Vinson  http://www.willvinson.com/

 

 

 

常盤武彦

常盤武彦 Takehiko Tokiwa 1965年横浜市出身。慶應義塾大学を経て、1988年渡米。ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アート(芸術学部)フォトグラフィ専攻に留学。同校卒業後、ニューヨークを拠点に、音楽を中心とした、撮影、執筆活動を展開し、現在に至る。著書に、『ジャズでめぐるニューヨーク』(角川oneテーマ21、2006)、『ニューヨーク アウトドアコンサートの楽しみ』(産業編集センター、2010)がある。2017年4月、29年のニューヨーク生活を終えて帰国。翌年2010年以降の目撃してきたニューヨーク・ジャズ・シーンの変遷をまとめた『New York Jazz Update』(小学館、2018)を上梓。現在横浜在住。デトロイト・ジャズ・フェスティヴァルと日本のジャズ・フェスティヴァルの交流プロジェクトに携わり、オフィシャル・フォトグラファーとして毎年8月下旬から9月初旬にかけて渡米し、最新のアメリカのジャズ・シーンを引き続き追っている。Official Website : https://tokiwaphoto.com/

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