#1581 『MAD-KAB-at Ashgate / Live at CLOP CLOP』
text by Yumi Mochizuki 望月由美
CLOP CLOP RECORDS CLOP-001 2,000円+税
石渡明廣 (g)
後藤篤 (tb)
上村勝正 (b)
湊 雅史 (ds)
1.We Get to Entertain
2.魅惑のプールの底に眠る水泳者のように
3.Barbecue Roll
4.記憶の路
5.Fifth gate
6.Doggy’s Rotation
7.3rd Runner
8.Flowers
9.Migration of✴
プロデュース: CLOP CLOP
録音:2018年月日「CLOP CLOP」にてライヴ録音
一曲目の<We Get to Entertain>。
エレクトリック・ベースの小気味よいリズムに酔う暇もなくスネアが乾いた音で部屋中を満たしシンバルが降り注ぐ、いきなりのシンバルの嵐である。
そして続くベースとドラムのチェイスがスリルを高める。
この激しいリズムにのってギターとトロンボーンがメロディーを奏でる。
この速い展開に思わず耳をうばわれる。
この曲は前作『Funny Blue』(2014, AKAO RECORD)でも一曲目に演奏されていた曲で、4年と云う時間を経てよく練れて、しかし慣れからくる弛緩などは全くなく音がビュンビュン襲い掛かってくる。
ギター、ドラム、ベースの三つの極がかたち創る三角形の縁をトロンボーンが往き来しながら独自のMAD-KABサウンドを形作っているようである。
西荻窪の「クラップ・クラップ」は20席程度の小さなライヴハウスなので楽器の生音が活かされたお店の雰囲気がそのまま伝わってくる。
石渡明廣(g)の電気処理をされたサウンドとピックする弦の軋みとが折り重なって浮遊感のある幽玄な趣きの音が部屋を満たしその中でメンバーが自由に遊んでいる、そんなゆるやかな世界が広がる。
MAD-KABは基本的に石渡の曲を演奏するグループで、前作同様今回も全曲が石渡の曲で構成されている。
石渡の書く曲はゆるやかな中にもミステリアスなペーソスがあり、アドリブのパートは演奏者にゆだねられているとはいえ、自然と石渡が漂わす雰囲気の上にソロをとることになり全体を石渡のムードがつつみ込むように聴こえ、全9曲が一つの曲のようにまとまっている。
石渡の曲はちょっと聴くだけで直ぐに石渡の曲だとわかる独特のニュアンスがあるが、曲名がすぐに頭に浮かばない。
モンクの曲が何度も繰り返し聴いて、あ、モンクのあの曲だと反射的に分かっても曲名となると何だったか出てこないことがあるがモンクと同じように石渡の曲も思いつかないことがある。
石渡の曲はモンク同様ユニークなのである。
そして曲名も演奏とどれだけ相関があるのかは分からないが意味深なタイトルが多く、曲目を眺めて空想しているだけでも面白い。
そもそもMAD-KAB-at Ashgateと云うバンド名もミュージシャンの名前のアナグラムだと云うし曲名も意味深である。
また、石渡は渋谷毅(p)との共演も多く、渋谷毅オーケストラでは石渡の曲が繰り返し演奏されているし、渋谷毅とのデュオ『月の鳥』(2006, CARCO)でも2曲のスタンダードを除いて全て石渡の曲が採りあげられている。
そしてトロンボーンの後藤篤 (tb) がいつにも増してリラックスしてのびのびと吹いている、と云うか後藤はいつもリラックスしていることにMAD-KABを聴いて気がついた次第である。
トロンボーンは中音や低音域のサウンドが中心だからギターとは良くマッチするがとりわけ後藤と石渡は林栄一(as)の「Gatos Meeting」でも一緒で楽器の相性以上に良いコンビネーションぶりを発揮している。
後藤篤(tb)は一昨年のファースト・アルバム『FREE SIZE』(2016, DOSHIDA RECORDS)発表以来「後藤篤カルテット」や『板橋文夫オーケストラ』など多方面で活躍しトロンボーン界の先陣を切り拓いている頼もしい存在である。
MAD-KABは基本的に石渡明廣(g)の曲を石渡の想うように演奏するグループで 9曲中の4曲が前作『Funny Blue』(2014, AKAO RECORD)で演奏された曲である。
前作の『MAD-KAB-at Ashgate / Funny Blue』(2014, AKAO RECORD)はスタジオ録音でいわばMAD-KABのショーケースであったが、それから4年と云う時間をかけてライヴの現場で練り上げた成果が今回の『MAD-KAB-at Ashgate / Live at CLOP CLOP』であり2作を合わせて聴くとMAD-KABが如何に個性的なユニットかが分かってくる。