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Jazz and Far Beyond

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CD/DVD DisksNo. 251

#1593 『与之乃&田村夏樹 / 邂逅』

Text and photos by Akira Saito 齊藤聡

Oniva Records oniva-001 (2019年3月27日リリース予定)

与之乃 Yoshino (biwa, voice)
田村夏樹 Natsuki Tamura (tp, voice, bells)

1. Kaikou no Maki
2. Fushi
3. Beshi
4. Nagakiyono

All compositions by Yoshino (BMI) and Natsuki Tamura (BMI)
All lyrics by Yoshino (BMI)
Recorded on July 6, 2018 by Masataka Fujikake at Otoyakintoki, Tokyo, Japan
Mixed on August, 2018 by Masataka Fujikake, Tokyo, Japan
Masterd by Scott Hull on August, 2018 at Masterdisk, New York
Stamp, engraving seals by Yoshino

 

いきなり放たれる与之乃のどすの効いた声に驚かされるが、フェミニンな香もまたある。謡われる通りに、長い夜の眠りからのじわじわとした覚醒とともに、霞の向こう側の音風景がみえてくる。琵琶の撥が意識の薄膜を破り取ってしまい、ここに参入する田村夏樹のトランペットに再び驚かされる。それは人間や動物の声ではなく、またもちろん管楽器のブロウと括れないほどの有象無象を孕んでおり、田村の音としか言いようのないものだ。

ここから「Kaikou no Maki」における物語が始まる。優雅にして紋白蝶と見紛うほどの白猫のフォルテ、フォルテに爪を立てんと狙う名も無き八咫烏、犬の綱吉。上へ下へ、ななめへ、謡、琵琶、トランペットが、かれらの飛翔も嘶きも禍々しさも表現しおおせ、サスペンスフルな空中戦が展開される。それはユーモラスでも怖くもあって、断末魔の八咫烏の赤眼(映画的!)、そしてフォルテは烏の黒さを我が身に引き受ける運命であった。カラスだって前から黒かったのかどうかわかったものではない。

与之乃と田村のハモりが厳かで愉しい「Fushi」を経て、またしても不思議な物語「Beshi」が提示される。田村のトランペットは獣の咆哮でも無機物の震えでもあり、与之乃が弦を掻き鳴らしてその化け物をいなしてみせる。ここで改めて襟を正すかのように披露される端正なトランペットも追従する琵琶も見事だ。天地開闢があり、再び赤眼烏の名が呼ばれ、やがて登場するのは頼りなさそうなカイツブリ。各曲の物語世界は並行し、重なり合っている。そして「Nagakiyono」における犬の唸りのようなトランペットによって、アルバムが幕を下ろす。

筆者は、薩摩琵琶の名人であった故・普門義則が、豊住芳三郎、故サニー・マレイと共演したライヴを観たことがある(1999年、銀座クロイドンホール)。刺激的な異種格闘技戦ではあったが、サウンド全体として、各人の素晴らしい個性が互いに打ち消された面があった。しかし、もちろんそのことは薩摩琵琶の越境の可能性を否定するものではない。

与之乃は、故・津村和彦へのジャズギターの師事を経て、数年前から薩摩琵琶を演奏しているという。与之乃前史のパンクバンド時代を含めて、驚くべき音楽の変転ぶりだ。そしてこのアルバムは、突然変異のようでありながらも、溶け合い、実に独特な音世界を創出している。一貫して、与之乃の強い念や気と、発酵にまでいたっている田村の技が強い印象を残す。

(文中敬称略)

2018年8月9日、渋谷メアリージェーンにて(photo by Akira Saito 齊藤聡)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』、『オフショア』、『Jaz.in』、『ミュージック・マガジン』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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