#1595 『Tom Weeks / Mort à crédit: Alto Saxophone Solos 2017』
text by 定淳志 Atsushi Joe
Tom Weeks / Mort a credit: Alto Saxophone Solos 2017
(Wolfsblood D01)
- Penitence
- Bewilderment
- Impotent Rage
- Vice
- Humanity
- Broken Soul
- Toil
- I Have No Mouth, and I must Scream
- Torture
- Begging For Mercy
- For Coleman Hawkins
- A Knight at The Crossroads
Tom Weeks – Alto Saxophone
Recorded May, 2017 in Oakland, CA by Chris Wood
トム・ウィークスは2010年代に活動を開始した、米国サンフランシスコ・ベイエリアの作曲家、即興演奏家、サックス奏者。バークリー音大でジャズ作曲の学士号を取った後、ミルズ大で作曲の修士号を得たといい、ロスコー・ミッチェルやフレッド・フリス、ジーナ・パーキンスなどに多くを学んだという。
アルバムは全12曲。冒頭から引き攣るような高音が鳴り響き、以降も多彩な異化音を次々引き出し、腿を使って音をミュートさせる手法やら、マウスピースで遊ぶ芸やら、ジョン・ゾーンがマサダ系フレーズを吹くときのような感覚や坂田明のような情趣やエリック・ドルフィーのような異形美やクリス・ピッツィオコスのような新世代感覚を思わせる個所も多々あって、つまり先達の影響や同時代的感性を確実に身に付けていると思われるのだが、多様多種の拡張テクニックを駆使しつつも、どこまでも瑞々しく美しい音そのものが、耳をつかまえて離さない。
タイトルの『Mort à crédit』とは、フランスの小説家ルイ・フェルディナン・セリーヌの『なしくずしの死』、すなわち阿部薫の有名アルバムと同じであり、それが念頭に置かれている、ということもおそらく間違いない、と思わせる演奏でもある。
ウィークスは、これらの録音について、自らのサックス演奏における或る特定のポイントを表したものであり、もはや技術的、物質的、または論理的に自分の言語を反映してはいないものの、聴く人が価値のある何かを見つけることを願うと述べている。地球の裏側で、わたし以外にも彼の演奏に価値を見出す人がいれば幸いだ。
https://www.youtube.com/watch?v=dT5qQAlBZJg