#1606 『ジェイ・マクシャン・ライブ・イン・東京 1990
Jay McShann Live in Tokyo 1990』

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text by Keiichi Konishi 小西 啓一

T2 Audio Studio  T2AUDIO~101  2,500円+税

ジェイ・マクシャン (p, vo)
リン・シートン(b, vo)
チャック・リグス (ds)

But Not For Me
In A Sentimental Mood
Kansas City
Moten Swing
On A Clear Day
Jumpin’ the Blues
Georgia On My Mind
All Of Me
Cute

録音・ミックス・マスタリング:坪井義幸 at T2 Audio Stusio
録音:1990年4月9日  at Indigo Blues,  The ACT 、新宿、東京
カバーフォト:“LaBudde Special Collections, UMKC University Libraries”
ライナー・ノート:チャック・へディックス


カンザス・ジャズのボス的存在で、ブルース&ジャズ・ピアニストにしてボーカリスト、さらに作・編曲者でもあった、ジャズ界の巨星の一人ジェイ・マクシャン(1916~2006年/享年90)。彼が1990年になんと74才で2度目の来日した折り、東京のジャズ・クラブで収録された貴重なライブ音源が、今回初めて陽の目を見る運びになった。

この貴重発掘盤のレビューは、本来ならばカンザス・ジャズに最も精通し、現在も本サイトで 「ジャズとファッション」 という秀逸コラムを連載している竹村洋子女史が担当するのが最適なのだが、どうも彼女はこのアルバムの関係者の一人でもあるらしく、自身でのレビュー担当は相応しくないとの判断、…で当方にお鉢が廻って来たものだが、ぼく自身はこのブルースとジャズの混在化したマクシャンという偉大な存在には、余り詳しくも無くいささか荷の重い作業なのだが、そこはご指名ということで…。

ところでこのジェイ・マクシャンだが、ジャズ・ファンならばまず何よりもあのモダン・ジャズの創始、バードことチャーリー・パーカーの発見者としてその名前を耳にしている筈。実際バードは彼のビッグ・バンドに抜擢され、“スイングすることの本質“ を教示され、一躍シーンで名前を挙げること(ここら辺の事情はライナー参照のこと)になる、バードにとっての大事な師匠格。またあのローリング・ストーンズがカバーした<コンフェシング・ザ・ブルース>の作曲者でもある。さらにはぼく自身が、実際の彼の演奏姿を目にしたのは、あの名匠クリント・イーストウッドが監督したブルース・ドキュメンタリー・フィルム『ピアノ・ブルース』の中で、デイブ・ブルーベックとデュオ共演している様子。ブルーベックに伍してブルース・マンらしく黒っぽいフィーリング横溢ながらも、仲々にモダンなピアノ・センスも披歴、ブルース一辺倒と思っていただけに少しばかり驚かされた、まあぼくのマクシャン知識はこれ位なもの…、などと御託を並べていても詮無いこと。早速アルバムに耳を傾けることにしよう。

本作はアルバム・タイトルにもある通り、1990年4月東京のライブ・カフェ “インディゴ・ブルース” での、ジェイ・マクシャン・トリオのライブ・アクトを収録した貴重な発掘お宝アルバム。マクシャン・トリオはこのスポットに4日間連続で登場したとのことだが、その初日の模様が収められている。アルバムはスタンダード・ナンバーやカンザス・シティ・クラシックなど全9曲、満杯の聴衆を前に彼らをも巻き込み、熱気とリラックス感に溢れた文字通りの力演が繰り広げられており、まさに “このピアノの巨匠の最高の演奏の完全な記録”(チャック・ヘディックス)を十二分に愉しむことが出来る。ともすれば名前だけしか知られていない感もある、この巨匠の実力を新たに発見出来る素晴らしいライブ作品でもある。ジャケット写真にはハンチングをかぶって、柔和な笑顔を浮かべるマクシャンが写し出されているが、穏やかながらも何にも動じない、真のエンターテイナーとしての勁さを秘めた”漢“の顔、まずはこれがグッドですね。そして演奏も懐の深い ”漢“ マクシャンの本領発揮、当然内容も保証済みといった感も強い。このレビューをものするために、スタジオでモニター・スピーカーのボリュームをフルにして、マクシャンの本拠をタイトルにした”カンザス・シティ“を聴いていたところ(ぼくの本職はラジオ・プロデューサーです)、デビッド・ボウイ ”命“ の若いロック好きディレクターが聞きつけ、”これ誰ですか…、演奏もボーカルも乗ってて実に良いじゃないですか…“ と感嘆しきり。こんな若者(中年か?)をも一瞬に虜にしてしまう、ここら辺からもこのアルバムのマジカルな素晴らしさ、端的にお判りいただけるはずである。勿論彼にマクシャンがいかに偉大な存在かを、偉そうに講釈したのだが…。

ここにはホンキートンクからブギ、ジャンプ・ブルース、カンザス・スイング等々、マクシャンというピアノの巨星の持つ” あらゆるピアノのテクニックが(如何なく)披歴されており”、そのピアノ打鍵の力強さは蠱惑ものとも表現できそうだ。どちらかというとブルース寄りのピアニスとして認識されている彼だが、エリントンの <イン・ア・センティメンタル・ムード“>やボーカル入りの<ジョージア・オン・マイ・マインド>などに漂うモダン・マインド。これは “大平原のパリ” とも噂されるらしいカンザス・シティという中西部の大都市を本拠にしている、ピアニスト&ボーカリストならではの洗練さだとも思われる。ブルージーで黒光りしながらもキラッと光るこの都会センス。えぐみを伴う洗練さ、ここら辺の魅力、さらにはその徹底したグルーブ感、スイング感、高揚感、エンターテインメント意識。そんな様々な要素をこのお宝盤では充分に味わわせてもらえる。

そして最後にもう一つ、彼をフォロー…と言うよりも主役級の働きを見せ、アルバムにモダンな色合いを添えるベースの隠れ名手リン・シートン(ジェフ・ハミルトンやケニー・ドリューJrなどとも活動)、アルバムの締めを飾るニール・ヘフティの銘品 <キュート>で迫力あるドラム・ソロを展開、ファンを魅了するモダン・スイングの名手チャック・リッグス。この2人にも拍手。

いずれにせよ滋味豊かで愉しさ、激しさ、凄み,そして哀感などが混じり合った、皆様にも是非お勧めしたい好ライブ・アルバムです。気分がスカッと爽快になること請け合いです。

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小西啓一

小西啓一 Keiichi Konishi ジャズ・ライター/ラジオ・プロデューサー。本職はラジオのプロデューサーで、ジャズ番組からドラマ、ドキュメンタリー、スポーツ、経済など幅広く担当、傍らスイング・ジャーナル、ジャズ・ジャパン、ジャズ・ライフ誌などのレビューを長年担当するジャズ・ライターでもある。好きなのはラテン・ジャズ、好きなミュージシャンはアマディート・バルデス、ヘンリー・スレッギル、川嶋哲郎、ベッカ・スティーブンス等々。

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