#1623 『Super Jazz Sandwich / Super Jazz Sandwich plays the Enneagram Vol. 1』
Text by 剛田武 Takeshi Goda
CD: Umland Records 24
Flavio Zanuttini – trumpet
Florian Walter – alto & baritone sax
Simon Camatta – drums
1. The Challenger
2. The Investigator
3. The Fearful
4. The Individualist
5. The Lazy
6. The Enthusiast
7. The Helper
8. The Reformer
9. The Vain
Recorded by Wolfgang Bökelmann at RevierTon-Studios, Herne
16th Feb 2019
Cover photo by Caroline Schlüter
Liner notes by Super Jazz Sandwich. (CD version only)
ドイツ前衛インプロヴァイザーによる性格分析的ジャズ進化論。
ドイツ・エッセンの即興音楽シーンから登場したスーパー・ジャズ・サンドイッチの1stアルバム。ドイツ出身のヴァルター(sax)とサイモン・カメッタ(ds)と、イタリア生まれのフラヴォ・ザヌッティーニ(tp)からなるトリオ。グループ名の由来は「テーマ~アドリブ~テーマ」という定型ジャズの形式がサンドイッチのようだからだという。ノンスタイルを座右の銘とする欧州フリー・ミュージックのジャンル破壊の新鋭が敢えて「ジャズ」と銘打った大胆不敵なトリオである。
2010年に出会って以来、3人は美学的に妥協することなくフリー・インプロヴィゼーションの手法を伝統的なジャズ・フォーマットに融合する方法を模索して来た。その為に導入したコンセプトがエニアグラム(Enneagram)である。古代ギリシャで生まれたエニアグラムとは、円周を九等分して作図される図形を基に、人間の性格を9種類に分類しこの図形に対応させた性格論・性格類型である。ここではエニアグラム研究の第一人者ドン・リチャード・リソの著作『The Wisdom of the Enneagram』(1999年)を参考にしたという。収録曲9曲にそれぞれ性格類型を示すタイトルが付され、CDジャケットの内面にメンバー自身による性格分析を交えた楽曲解説が掲載されている。5・60年代のジャズ・レコードのジャケット裏面に掲載されていた評論家や演奏家の長文のライナーノーツを模したように思える。決してパロディではなくジャズのスタイルを借りて自らの独自性・異端性を強調する意図があるとともに、作曲者自ら背景を明かす真摯なサービス精神の表れである。
収録曲はすべて各メンバーが作曲した譜面に基づいて演奏された。必ずしもテーマがアドリブを挟むサンドイッチ形式にこだわっていないが、飛び出すフレーズはどこか聴き覚えがあるような、オールドジャズ~モダンジャズ~フリージャズのエッセンスが散りばめられている。かといってしたり顔で「これは誰々の引用だ」とほくそ笑むようなあからさまな引用ではない。古典的なアコースティック・ジャズに聴こえるが、ユーモラスな逸脱の罠が随所に仕掛けられ、ジャズ・ファンもアンチ・ジャズ派もどちらも楽しめる作品になっている。楽曲解説を参考に、簡単に収録曲の印象を記しておこう。
M1「The Challenger」は自信にあふれ、他人に指図されることを良しとしない挑戦者。力強いドラムビートに導かれ、ホーンが完全にフリーなソロを展開する。
M2「The Investigator」は自らの経験を概念に置き換える探究者。ひとりが自由にインプロヴィゼーションすると、他の2人が寄り添うように少ない音数で並走する。探究者が孤独になりすぎないように。
M3「The Fearful」は不安の中に生きている臆病者。すべての音が恐怖を感じさせ、演奏者は時折恐怖の叫びを上げ、常に神経を尖らせている。
M4「The Individualist」。個人主義者は世界で一番の感情主義者でもある。願望の実現と紙一重の失敗の上を綱渡りするような、探り合うような演奏が繰り広げられる。
M5「The Lazy」は流れに身を任せる怠け者。スローテンポのデキシーランド・ジャズ風のテーマが、リラックスした居心地よい音空間を生み出す。
M6「The Enthusiast」はできるだけ多くの自由と幸せを謳歌しようとする情熱家。そのためには他人の助言や状況を素早く判断する必要がある。判断力を試すためにカードゲームを取り入れた即興演奏を導入した。裏ジャケットでカードを掲げるメンバー写真はこの曲の演奏風景だろう。
M7「The Helper」は他人の為に手を差し伸べる救助者。自分の感情を曝け出す一方で、相手から無視されることを嫌う。ユニゾンの明快なテーマで始まり、即興パートへ突入するが、だれか一人が暴走するのではなく、集団演奏を心掛けた友愛あふれる演奏。
M8「The Reformer」は改革者。用心深く確かめ合うような演奏は本作の中でも特にコンセプチュアル。間を活かした構築的なリフレインがカタストロフをもたらす。
M9「The Vain」は他人から称賛されることを求める自惚れ屋。キャッチーなブルース風のテーマに乗って全員が見栄を張って弾きまくり「イエー!」という掛け声でノリノリ。調子に乗り過ぎるとどうなるか、というエンディングがご愛嬌。
「ジャズ」スタイルの可能性・汎用性をとことん探索し、「ジャズ」で遊ぶ喜びを十二分に謳歌する三人は、前衛のための前衛や、破壊のための破壊とは次元の異なる音楽エンタテインメントの実践者に違いない。例えばM6に伺えるデキシーランドジャズへの目配せは、古き良きニューオリンズの街角で遊ぶ子供たちの喜びの復権である。無邪気なままではいられない時代に生きる我々にとって、ハードコア・インプロヴァイザーの遊び心は、音楽の無垢の喜びを単純に享受できる福音である。しかしながら、お気に入りのトラックがあなたの性格を表しているかどうかは保証の限りではない。(2019年7月31日記)