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Jazz and Far Beyond

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CD/DVD DisksNo. 258

#1632 『喜多直毅&黒田京子/残された空』

ORTM-002
2019年10月1日発売

Text by 伏谷佳代 Kayo Fushiya

1. 残された空 Nothing except The Sky (Naoki Kita)
2. 地の底 Deep in the ground (Kyoko Kuroda)
3. よだかの星 The Nighthawk Star (Naoki Kita)
4. 鉄条網 The Theme of Barbed Wire (Naoki Kita)
5. リリィ・マルレーン Lili Marleen (Noberto Schultze)
6. 赤いローザ Die Rote Rosa (Kurt Weil)
7. 鶴 журавли (Ян Френкель)
8. 遠い叫び声 The Voice from faraway place (Kyoko Kuroda)
9. 闇夜を抱く君へ for you having a dark night (Kyoko Kuroda)
10. 涙 Tears (Kyoko Kuroda)

Produced by Naoki Kita & Kyoko Kuroda
All music was performed by Naoki Kita & Kyoko Kuroda
Composed & Arranged by Naoki Kita (M-1,3,4,7); Kyoko Kuroda (M-2,5,6,8,9,10)
Recorded on May 27 & 28, 2019
Mastered on June 7, 2019 @ Orpheus Recording Studio (Koiwa. Tokyo)
Recording & Mastering Engineer; Naoto Sugahara
Strings Craftsman: Minoru Matsumoto
Design: yamashin(g)


高く澄んだ空—-無心に見上げるアルバム・ジャケットさながら、「残された空」の冒頭の一音が響くや、心は自然に吸い上げられる。まろやかで深い音色。弦が擦れるまさにその瞬間の空気のたわみも、生活音のように聴き手の皮膚にすっとなじむ。胸襟が開かれる。心音を聴くように、こころの内部へと降りてゆく。
垣根のない音楽。「聴く」という構えをほどく音楽—-そのような音を前に、音楽のカテゴリーは不問だろう。
言葉ではとうてい耐荷重量の及ばない、鉛のような感情の重みをも引き受ける音風景。終焉が唯一の目標となるような哀しき生の煌めき(よだかの星)、極限状態でふと襲われる温もり(リリィ・マルレーン)、情け容赦ない相克の狭間に覗く凪(闇夜を抱く君へ)、等。激しいプリペアドの軋みに呼応し、浮かび上がる対岸のピアニッシモや混じりけのないメロディ・ライン。エレジーが潮のように満ちては曳き、人間の直情に斬り込んではよじれるような弧を描く。果たして着地点はあるのか?—-そのはかなくも尊い地平を、押しつけではない慰撫さながらに提示してくれるアルバムである。
思えばあらゆる実験的な音楽の試みが行きつくさきはどこなのか。
ピアノとヴァイオリンという編成も含め、シンプルでてらいのない条件下でフィルタリングされる、夾雑(きょうざつ)に満ちた生。それによって否応なく手繰り寄せられるリアルな共感。それに勝る強度はない気がするのだ。挑発、阿吽(あうん)、信頼関係のみがうむ安定のクオリティ—-このデュオの成熟度は容易に他の追随を許さない。(*文中敬称略)

© Miya Masden

<関連リンク>

http://www.ortopera.com/
https://www.naoki-kita.com/


♬『残された空』リリース記念コンサート
2019年11月22日(金)@下北沢half moon hall
開場:19:00/開演:19:30

出演:喜多直毅
黒田京子

東京都世田谷区北沢4-10-4
電話:03-6423-1126
www.halfmoonhall.com

前売り:3000円/当日:3500円
*CDは2500円にて販売させて頂きます。

予約・問い合わせ:
violin@kita.net
メールタイトルは「残された空発売ライブ」、メール本文に代表者氏名・人数・連絡先電話番号を必ずご記入のうえ、お申込みください。



フライヤ・デザイン:山田真介

伏谷佳代

伏谷佳代 (Kayo Fushiya) 1975年仙台市出身。早稲田大学卒業。欧州に長期居住し(ポルトガル・ドイツ・イタリア)各地の音楽シーンに通暁。欧州ジャズとクラシックを中心にジャンルを超えて新譜・コンサート/ライヴ評(月刊誌/Web媒体)、演奏会プログラムやライナーノーツの執筆・翻訳など多数。

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