#1967 『Liudas Mockūnas | Arnas Mikalkėnas | Håkon Berre / Plunged』
『リューダス・モツクーナス|アルナス・ミカルカナス|ホーコン・ベレ/プランジド
text by Yoshiaki ONNYK Kinno 金野onnyk吉晃
Barefoot Records (Denmark) 2017
Liudas Mockūnas (LT) – saxophones
Arnas Mikalkėnas (LT) – piano, accordion
Håkon Berre (NO/DK) – drums
1. Study No. 1 03:47
2. Study No. 2 06:38
3. Study No. 3 07:46
4. Stress 06:45
5. Study No. 4 09:07
6. Study No. 5 04:12
7. Pelš 14:05
Recorded at: Vilnius Jazz Festival, Lithuania, 2014
Mastering: Dainius Kazilionis
Sound engineering: Dainius Kazilionis
Mixed and produced by Liudas Mockunas
最初に断っておきたいが、いつもながら日本語で外国人の名前を表記するのはためらわれる。それがもはや人口に膾炙したようなミュージシャンの名であればいざしらず、リトアニア人ともなれば表記が安定しないのも仕方ない。まあ海外のメディアで日本名がいかに表記され発音されるかは、もうどうにもならないだろう。
さて、そんな些末な事はさておき「圧倒的」という言葉を、いざ使うのはこんな音楽に接した時だろうか。
既に2017年のリューダス・モツクーナスのソロ『HYDRO 2』を聴いてその強靭なサウンドに驚嘆したが、それを遡ること3年前の、ノルウェーのドラマー、ホーコン・ベレ、リトアニアの ピアニスト、アルナス・ミカルカナスによるトリオは、既にいやがうえにも堅固な砦を築いていたのかと言いたくなる。
途中にリズムが強調された〈stress〉を挟む5つのSTUDY(習作というべきか研究とすべきか)に続き、最後に14分を越える怒濤のような〈Pels〉で締めくくられる。ここでは最後に幾分不穏な調性のあるテーマが聞こえてきて、陸地を見つけた難破船の乗員の気持ちになる。映画ならエンドロールが見えるようだ。
全体を通し、緩やかな枠組みのなかで各自の即興技量が存分に発揮されている。そのスタイルはもはやジャズの伝統をほとんど感じさせない。むしろ12音主義以降、無調の構成力が敷衍された欧州の現代音楽に軸足があるように感じる。
もしこの音楽、このトリオがまだジャズの根幹に繋がっているというなら、それこそ即興的イディオムの交接による即時的変容とテーマへの回帰を忘れないという一点に尽きるのではないか。つまりジャズ的フォーマットの内部を、無調とサウンドの密度、速度で埋め尽くすという在り方で表現できそうだ。
その意味で最終曲〈Pels〉を聴き直すと、これは80年代のオルタナティヴジャズロックのひとつだと言って紹介しても納得できるほどだ。私はハイナー・ゲッペルスとアルフレッド・ハルトのデュオに、クリス・カトラーが加わったらかくやと想像してしまう(それじゃDUCK & COVERだろという人には、あくまでトリオでならと言っておこう)。
ゲッペルスやハルト、いや往時の豪腕達が現在は作曲家、指導者に落ち着いてしまったように、このアルバムのトリオの面々もいずれはそういう領域に行くのだろうか。あたかもそれは北欧神話のヴァルハラ、アーサー王伝説のアヴァロンのような終の住処。
はてさて30年後には自作オペラの指揮でもとっているだろうか。
https://www.lrt.lt/mediateka/irasas/2000086971/vilnius-jazz-2019