JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 31,723 回

CD/DVD DisksNo. 264

#1971 『MASAFUMI RIO ODA / electric-Abyss』 

text by Yoshiaki Onnyk Konno 金野onnyk吉晃

Chap Chap Records CPCD302 ¥2,500(税込)(5月1日発売予定)

 

Masafumi Rio Oda  織田理史 (理央)

1. Sad Atmosphere
2. Abyss
3. Nostalgia Mass
4. Festival of Things-in-Themselves Ⅰ
5. Festival of Things-in-Themselves Ⅱ
6. Festival of Things-in-Themselves Ⅲ
7. Fragile Water
8. To the Re:Opening…

Recording, Mixing (M1, M2 & M8), Mastering, Guitar (M1&M8) :Hideaki Kondo (Bishop Records)
Violoncello (M1&M8) : Masafumi Rio Oda
Produced by Koji Kawai
Co-produced by Takeo Suetomi (Chap Chap Records)


「さよなら、エニウェトック」

私も時々DJの真似事をしている。そしてどのような素材をどう生かすか、組み合わせるかを考える事は楽しい。音楽のことなど忘れているときにふと、あれとこれを組み合わせてみたらどうだろうかとか、思いつくのである。

例えば、実際にやってみて心地よかったのは、モンクのソロに、SL時代の操車場や駅構内の音を組み合わせたときだ。郷愁の情景が浮かび上がった。またポーリーン・オリヴェロスの早期の電子音の波に乗せてサード・イアー・バンドや、マリオン・ブラウンの「カプリコン・ムーン」などをミックスするのは実に愉悦的だった。

まだまだある。雨の音、河の流れ、風、惑星探査機からの信号など環境音を一時好きで集めていたがこの時の為だったのかとさえ思える。

DJもスタイルが多様なジャンルだが、知る限り受けの良いのは「和もの」、ヒップホップ、そしてテクノである。

テクノの愛好者は、どうもかつてはプログレ派だったり、音響系といわれる特異な即興演奏派だったりするようだ。テクノ派もその中で方向性は分かれるが、決してダンス志向ではない、むしろサウンドの傾聴に重きを置く一群がある。私もその一派には近いかもしれない。

さて、この音楽、electric-Abyssを一聴したとき、極めてテクノ的な印象を持った。すぐにでも私のDJソースに加えたいと思った。

分かり切っているとは思うが、現代のテクノ音楽の特徴はまずその全過程がコンピュータ上での製作であり、サンプリングと電子音の多様な組み合わせ、プログラミング=コンポジション=サウンドデザインであることだ。過程も結果もすぐ聴覚で確認される。これまでの音楽と違う点といえば、この作業には終わりが無いということだ。逆に言えば何処で終わらせても良い。

テクノには終わりも始まりも無い。つまりそれは数多のゲーム音楽にも通じる特徴である。

またディレイの多用も特徴のひとつである。自己サンプリングしてループとなることもある。この果ての無いディレイ、ループは70年代にイーノが作品に定着させ、アンビエントというジャンルを開拓した。

同じような、あるいは僅かに変化するサウンドが繰り返し聴覚を刺激する。これはABYSS=深淵ではなく、波打ち際のようだ。無限に打ち寄せる粒子の波。ホラチウ・ラドレスクの弦楽四重奏にもこうした印象が有る。

その感覚は、私が中学の頃はまっていた英国の作家、J.G.バラードの<濃縮小説>「終着の浜辺」(1964)を、半世紀ぶりに想起させた。ある時代の精神を反映した心理の廃墟を描いた傑作。しかし全然海など出て来ない。バラードの小説はいつも死を求める主人公の葛藤に満ちている。

そう考えると、まさにこのelectric-Abyssは、もう一度心理的深淵の周縁、「終着の浜辺」に打ち寄せる、誰も知らない郷愁を誘うレクイエムに聴こえてくるのである。

金野 "onnyk" 吉晃

Yoshiaki "onnyk" Kinno 1957年、盛岡生まれ、現在も同地に居住。即興演奏家、自主レーベルAllelopathy 主宰。盛岡でのライブ録音をCD化して発表。 1976年頃から、演奏を開始。「第五列」の名称で国内外に散在するアマチュア演奏家たちと郵便を通じてネットワークを形成する。 1982年、エヴァン・パーカーとの共演を皮切りに国内外の多数の演奏家と、盛岡でライブ企画を続ける。Allelopathyの他、Bishop records(東京)、Public Eyesore (USA) 等、英国、欧州の自主レーベルからもアルバム(vinyl, CD, CDR, cassetteで)をリリース。 共演者に、エヴァン・パーカー、バリー・ガイ、竹田賢一、ジョン・ゾーン、フレッド・フリス、豊住芳三郎他。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください